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第71話 浮かれてもいいじゃない?お祭りの準備だもの

■その71 浮かれてもいいじゃない?お祭りの準備だもの■


白桜はくおう私立高等2学年科学担当、2年B組担任・笠原かさはら義人よしひとです。


 文化祭準備の最後の一週間、ハッキリ言って、授業になりませんでした。生徒の気持ちは文化祭一色で、まぁ、一致団結は結構な事です。この後、待ち受けるは受験だったり就職活動だったりと、言わば『灰色のシーズン』ですからね。まぁ、この一週間ぐらいは目を瞑ります。生徒には、目を瞑りますよ、生徒には…


「なんで、貴方達が夢中なんですか?!」


 4時間目が終わって職員室に戻ってくると、約1時間前と同じ格好でディスクに向かって、夢中でスズランテープを編んでいるのは、どういうことですかね?!しかも、二人とも。


「東条先生、水島先生、まさかとは思いますが、4時間目は自習にしたんですか?」


 持って来た参考書や教科書をディスクの上に置くと、ようやく梅吉が顔を向けました。どれだけ集中しているのですか?隈、出来ていますよ。


「この時期は駄目駄目。生徒達、授業なんてやる気ないから、無理にやると怪我する」


「自習」


 梅吉の言い訳は、まぁ、頷きますけどね。… 三鷹みたか、もう少し口数を増やしなさいよ。


「明日がリハーサルじゃん? もう、ピリピリしちゃっててさ、怖い怖い。

 なに? 笠原先生はちゃんと授業してきたん? さっすが」


「今日の午後から、明日丸々1日、文化祭の追い込みですからねぇ…」


 椅子に腰を落ち着かせて鞄から弁当を取り出すと、隣の梅吉も弁当を出し、その隣の三鷹もそれにならいます。


 お昼の時間を忘れる程の集中ですか。何を作っているんですかね?


「「「いただきます」」」


 今日もお弁当を作ってくれた、東条と白川に感謝です。色どりも栄養も、勿論、味も大変良い。朝夕は家族分に店子の俺や三鷹の分も入れて11人分、弁当は5人分… ほぼ毎日。あの二人には、本当に、頭が下がりますね。


「かーさーはーらー先生」


 食事中に、職員室に来たのは、クラスの大森さんです。後ろに、今回の文化祭のクラスと手芸部の出し物の発端となった人物、赤井を引き連れての登場ですね。


「はい、何でしょうか?」


 箸を止めて、二人の方を向きます。


「三島先生、足、酷いでしょう? 今日もパンプスじゃなくて、スニーカーだったわ」


確かに。三島先生、お祭りの時の靴擦れが、まだ治っていないようですね。


「実は、トリのドレスを三島先生が着てくれるはずだったんです。でも、履物が10センチのハイヒールで…」


 ああ、それは、今の三島先生には無理ですね。


「エスコートしてくれる方との身長差も考えると、低いヒールだと釣り合いが取れなくて、で、一番見恰好の近い白川さんに、着てもらおうかと思ったんですが…」


 三鷹、生徒を睨みつけない。赤井が怯えてます。


「その… 元々のデザインが、三島先生のイメージにぴったりだったから、三島先生のサイズで作ったもので… その…」


 赤井、そんなに言いよどまないで、ハッキリ言ってくださいよ。


「胸が、ガバガバなんですって。胸が!」


 大森さんが、勢いよく言いました。


「ブっ!!」


「三鷹、汚っ!! お前、俺の参考書、お茶まみれにするなよな!」


 あ… そう言う事ですか。三鷹、お茶を吐き出した梅吉のその参考書、高いやつですよ。


「やだ、水島先生、ウケル」


「ウケルのは、後ででいいですから。で?」


 大森さんを制して、赤井に話を戻します。


「で、ですね… 三島先生と同じような体型の方が…」


「私でしたー!! 私、見かけより、胸、あるんだから!」


「ウエストは少し広げるんですけど、まぁ、デザインに影響はないぐらいなんで」


「ちょっと先輩、それ余計」


 大森さん、ノリはとてもいい子なんですけどね。


「で?」


「でね、三島先生のエスコート、小暮先生だったらしんだけど、私、小暮先生じゃイヤなんです。せっかくドレス着るんだから、笠原先生にエスコートをお願いしたいなって」


「なので、サイズを見たいので、タキシードの試着、してもらえますか?」


 は? こっちに飛び火ですか?


「いやいやいや、もっと見栄えの良いのが居るでしょう? ほら、ここに居る東条先生でもいいじゃないですか。私は教員なんで、裏方でいいんですよ」


「えー、せっかくだから、私、笠原先生とがいい。東条先生、小暮先生と顔似てるからイヤー。笠原先生とじゃなきゃ、着ないからー」


「って、言うんですよ! もう、サイズ直しの時間、無いんです!!」


ちょっと赤井、そんな号泣しなくても… 大森さんも、近い近い… 弁当食べながら見てないで、助けてくださいよ、二人とも。


「先生、俺の受験が、未来がかかっているんです!宜しくお願いします!!」


「そうそう、先輩の未来のために、頑張りましょ!!」


 かくして、俺も文化祭のファッションショーの舞台を歩くこととなったわけですが… 正直、乗り気ではないですね。

 誰か、助けてくださいよ・・・。




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