目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第64話 好きな子が身につける物は、自分で買いたいんです

 ボクはオウメちゃんに抱っこされたまま、ショッピングセンターを見学です。色んなお店がありますね。人もたくさんいます。皆、楽しそうで、ボクも尻尾がフリフリしちゃいます。

 双子君達は、モモカちゃんと手を繋いでいます。ウメヨシさんと、カサハラ先生は荷物持ちです。ボクは落ちない様に、確りオウメちゃんにくっついていないと。オウメちゃんの抱っこは、気持ちいいんですよ。


桜雨おうめ、変わろう」


 ご主人様、嬉しいんですけど、今は嫌です。ご主人様の抱っこは高いから… オウメちゃんだと、皆の顔が近くに見えるから安心なんです。


三鷹みたかさん、秋君放れないから、このまま…」


 オウメちゃんが、優しく僕の頭をナデナデしてくれます。


「重くないか?」


「弟達より、軽いわ」


 そうか… って。ご主人様、もしかして怒ってます? 黒いドロドロが出てきましたよ…


「でも、迷子になりそうだから… ダメ?」


 オウメちゃん、ご主人様の洋服の裾をちょっと掴んで、チラッと斜めに見上げました。


「学校じゃないから」


 ご主人様、そう言って、小さなオウメちゃんの手をギュッと握りました。黒いドロドロがピンク色に変わって、あっと言う間に消えましたよ。オウメちゃんは、お顔見ればすぐわかるんですけどね。ニコニコじゃなくて、溶けそうなお顔ですよ、オウメちゃん。お耳まで、真っ赤ですし。


「なに? 三鷹、開き直ったの?」


 ボクのご飯が入った袋を抱えて、ウメヨシさんが近づいてきました。


「精神衛生上良くないから、職場とプライベートを分けただけだ」


「ハイハイ、開き直ったわけね」


「我慢の限界、というわけですね」


 ご主人様が答えると、ウメヨシさんと、やっぱりお買い物した荷物を持ったカサハラ先生が、呟きました。


 最近のご主人様、オウメちゃんがボクを抱っこした後は、お家に帰ったらしばらくボクを吸ってますもんね。オウメちゃんの名前を呟きながら。あれが、精神衛生上良くない? 我慢の限界? なんでしょうか? ボクとしては、吸われるの、ちょっと気持ち悪いんですよね。ムズムズするし。


桜雨おうめ、これこれ」


 少し前で、モモカちゃんがオウメちゃんを呼びました。追いついてみると、そこはキラキラしたピアスとか、ネックレス、指輪とかが売っているお店でした。

 モモカちゃんが見ていたのは、お店の前に出してあるテーブルに、透明なグラスに入っているお箸? なんだか、色んな形や色の飾りがついています。


「モモちゃん、これなぁに?」


 カコ君、ボクも知りたいです。


「これ? これはかんざしよ。着物や浴衣を着た時に、髪に飾るの」


 あ、こないだのテレビ番組で、見たかもです。


「へー。モモちゃん、欲しいの?」


「来週の花火大会行くとき、浴衣は新調出来ないから、かんざしを新しいのにしたいなぁって。今持っているの、飾りがないシンプルなものだから」


 トウリュウ君、聞きながらモモカちゃんと簪を見ています。


「桜雨も、簪どお? いつもは花飾りだけど、ハーフアップでなら簪もさせそうじゃない?」


「簪って、高いんじゃないの?」


 トウリュウ君、簪に興味津々ですね。


「ここのお店は、学生対象だし、店先に出てるのは、そんなに高くはないわよ。ね、兄さん」


「そうだな。せっかく花火見に行くんだから、簪ぐらい、新しいのにしようか。どれがいい?」


 ウメヨシさんがモモカちゃんの肩越しに簪を覗き込んだ時、カコ君が言いました。


「え!? お姉ちゃんとモモちゃんだけずるい!」


「え? カコ、簪付けるの?」


「違うよ! 僕らもなんか買ってもらいたいじゃんか!」


 トウリュウ君に聞かれて、カコ君は勢いよく訂正しました。


「私は別に、あるもので…」


「お姉ちゃんは、たまには買ってもらって!」


「そうだよ! 浴衣だって洋服だって、お父さん達が好きで買ってるんだから、たまには選びなよ!」


 オウメちゃんの一言に、双子君達は、勢いよく反応しました。


「僕たちは、サッカーの靴下買ってもらうから!」


「行こう! ウメ兄ちゃん!!」


 双子君達は言い終わる前にウメヨシさんの手を両側から繋いで、どこかに連れて行ってしましました。


「うん。龍虎りゅうこのいう事も、もっともだわ。たまには、選びましょ。大丈夫、兄さんが買ってくれるんだから」


 そう言って、モモカちゃんはオウメちゃんと簪を選び始めました。これでもないし、あれでもないって迷って迷って・・・


「あの浴衣なら、この簪はどうですか? 桃の花の帯留との相性も、悪くないかと思いますよ」


 カサハラ先生が、お店の奥から一本の簪を持って来ました。


「アジアデザインの、楕円形無色の透かしビーズですね。色も数種類ありましたけれど、浴衣の色柄を考えると、これが無難だと思うんですよね」


 はぁ~… お洒落ですね。


「あ… うん、はい」


 モモカちゃん、恥ずかしそうに受け取って、クルクル回して見始めました。


「桜雨、カエルは無かったが、これはどうだろう?」


 ご主人様、お店の奥で、カエル柄を探してたんですか?


「あ、可愛い鬼灯ほおずき


 これ、鬼灯って言うんですか? 金色の棒に、薄いオレンジ色した大小の鬼灯が垂れ下がっています。


「私、これにする。モモちゃんは?」


「うん… これかな」


 嬉しそうにオウメちゃんに聞かれて、モモカちゃんはどこか恥ずかしそうです。


「秋君いるから、私、お会計してくるわ」


 そんなお顔を見せたくないんですか? モモカちゃん、下を向いてオウメちゃんの簪を受け取って、お店の奥に入って行きました。その後を、カサハラ先生が付いていきます。


「本当は、俺が買いたかった」


「気が付いてます? 三鷹さんが私に選んでくれたの、初めてなの。凄く嬉しいし、花火大会が楽しみ。大事に使います。ね、秋君」


 はい! オウメちゃん、花火大会、楽しみですね。



コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?