主達は、食べかけのスイーツと
「水島先生のお姉さんって、色々な意味で凄いわね」
パンケーキを食べながら、田中さんが口火を切りました。
「私も、初めて会ったなー。顔もスタイルも、綺麗な人だったね」
主はニコニコ言いながら、桃のゼリーで喉を潤してます。
「結構なトラブルメーカーと見たわ。東条先生、だいぶ疲れてたしね」
「水島先生のご実家、凄いんですね」
田中さん、細いんですけど結構食べるんです。その細い体のどこに入るの? っていうぐらい、よく食べます。今も、パンケーキをペロッと完食して、次のチョコレートパフェに長細いスプーンを差し込みました。田中さん、チョコレートパフェの一口目を、大森さんにあげました。甘苦いチョコの味に、大森さんの肩の力がほんの少し取れました。
「… 白川さんは、水島先生の家の事、何も教えてもらってないの?」
「うん」
大森さんの質問に、主は笑顔で答えます。
「不安じゃないの? 騙されてるかもしれないとか、考えないの?」
大森さんの口に、田中さんがチョコレートパフェを突っ込みます。またちょっと、大森さんの表情が緩みました。
「考えたこともなかったな。
「むしろ、兄さんの方が家に居ないわね」
桃華ちゃんは大きなため息をついて、アイスティーを飲みました。
「それ、本当に家族だね。… もしくは、オープンなストーカー?」
「あー、引っ越ししてくるまではストーカーだったかも。
桜雨の家庭教師もしてたし…」
松橋さんの感想に、桃華ちゃんが苦々しく続けました。
「うわー… 引く。筋金入りじゃん」
「完璧な、刷り込みね」
大森さんと田中さん、思わず体を下げます。
「そうか~、刷り込みかぁ」
主、特に気にすることなく笑っています。
「私は、刷り込みでもストーカーでもいいかな」
「いいの? だって、行動や可能性を制限されてるんだよ? やりたい事、出来ないじゃん」
あまりにもニコニコ笑う主に、大森さんはビックリです。
「制限されてるって、感じたことはないよ。友達と遊びに行ったりするのも、服装も、ダメ! って言うのは父さんや梅吉兄さんだし。
ただ、さっき三鷹さんが言ったけど、『生徒と教師』だから…。デートしてみたいな、手を繋ぎたいな、抱きしめて欲しいな… せめて言葉だけでも欲しいなって、思うよ。けど、三鷹さんもたくさん、たくさん我慢してるって分かったから。その我慢も、私が高校卒業するまでって、分かったから満足。じゃないなぁ… 我慢は我慢なんだけど、気持ちは分かるから安心? 何だろう? 気持ちを言葉にするのって、難しいね」
主、照れたように微笑みながら図書館でのことを思い出して、ちょっとだけほっぺを赤くしました。
「ふぅぅん… 意外と、大変なんだ」
大森さん、言いながら田中さんに向かって大きく口を開けました。チョコレートパフェをおねだりです。
「大学生との付き合いだって、大変だったでしょう? まぁ、成人と未成年の付き合い自体が大変だと思うわ。一歩間違えたら犯罪者。数年しか年の差がなくてもね。学生は学生同士の方が、気は楽ね」
田中さん、大森さんの口にチョコレートパフェを入れました。満足そうに、田中さんはモグモグします。
「やっぱり、生活の時間が合わないと、難しいのかな~。結局、浮気されてたし。っていうか、私の方が浮気相手だったって落ちだし。
本命さんが妊娠したから、結婚するんだって! だから、女性関係を清算するからとか言ったのよ、アイツ!!」
あー… そう言う事か。
って、皆は納得しました。納得して、それぞれが目についたチョコレートのお菓子を、大森さんの前に差し出しました。
「お、大森さんは、年上がいいの?」
「今まで、年下は無かったかな。年上って、甘えさせてくれるから楽。
あ、金銭面じゃないよ、メンタルね、メンタル」
松橋さんの差し出してくれたチョコクッキーにかぶりつきながら、田中さんは松橋さんの質問に答え始めました。
「でも、記念日なんかは学生じゃいけない良いところに連れてってくれたなぁ。そういう時は、奢ってもらったりはしたけど。同級生や年下って、そう言うの無理じゃない?自分でもバイトしてるから、お金稼ぐのが大変なのは分かってるから、背伸びして私に使ってくれるのは嬉しいけれど、それなら、割り勘でいいから遊園地とか、ファミレスでいいかな、って思う」
大森さん、クッキーに口の中の水分を取られたのか、今度はアイスティーを勢いよく飲みます。
「同級生や、年下はね。あ、でも、年上って言っても、1つ上位は同級生な感覚かな。それこそ、近藤先輩なんか金銭的余裕、無いでしょう?大学受験するのに、あんだけ部活やってたんだから、それこそバイトする暇なんかないわよね」
松橋さん、小さく頷きながら、殆ど氷だけになった大森さんのグラスに、デキャンタからお代わりのアイスティーを注ぎました。
「近藤先輩、怪我の具合は?」
「順調みたいで、リハビリも始まったって。
文化祭前には退院できる予定」
桃華ちゃんに聞かれて、松橋さんはちょっと恥ずかしそうに答えました。
「受験生だから、大変よね」
「リハビリ以外は寝てるだけだから、勉強、頑張っているみたい。
誘惑がないから、集中できるって」
松橋さん、ちょいちょい、近藤先輩のお見舞いに行っているんですよね。
「ふぅーん… いい感じなんだ」
ニマニマする大森さんの視線に耐え切れなくなって、松橋さんは顔を赤くして、俯いてしまいました。
「で、本当に、笠原先生にアタックするの?」
田中さんが聞きます。
「付き合ったらさ、手ぐらい繋ぎたいし、抱きしめ合いたいし、キスだってしたいし… 恋人同士が自然に出来る事、卒業まで我慢しなきゃいけないなんて、私には無理だな~。
でも、これから落としにかかって、卒業まで1年半ぐらいでしょ? 恋人になって半年ぐらいなら、ストイックなお付き合いも我慢できるかな? 笠原先生、優しそうだし、頑張ってみようかな?って思うんだけど、いいかな、東条さん?」
大森さんにじっと見つめられて、桃華ちゃんは動揺しました。
「良いも悪いも… 付き合ってないし、そもそも、笠原先生のことは何とも思っていないから、お好きにどうぞ」
その動揺を隠すように、いつも以上に強気の口調になっていました。
「そっ。じゃあ、終わったことはもういいや。あんな男、こっちからバイバイだわ。次に、いってみよう!!」
大森さんは元気に拳を振り上げて、まるで大人の男の人がビールを飲む様に、アイスティーを飲み干しました。桃華ちゃんは複雑な表情で、残りのアイスティーを飲み干し、主はそんな桃華ちゃんをジーっと見つめながら、2個目の桃のゼリーを食べていました。