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第60話 恋愛爆弾2発目投下 2

 正門には、人だかりができていました。身長の低い主には、皆の背中しか見えません。大森さんは、相変わらず主の手を握ったまま、人の壁をかき分けて、一番前まで出ました。


 真っ赤なポルシェの前に、サングラスをかけたサラサラの茶髪ロングで、パンツスーツの女性が立っていました。身長が高いのに、ヒールの高いのを履いているので、三鷹みたかさんとそんなに身長は変わりません。胸が大きくて、足が長いです。


「だから、貴方に認めてもらわないと、お父様が首を縦に振ってくれないの」


 女の人の真っ赤な唇が大きく開いて、力強い声が飛び出してます。その人の前に立っている三鷹さんは、口を堅く結んでいます。


「え、認めるって、結婚とか?」 


「みずっち、白川さんと付き合ってたんじゃないの?」


「えー… 二股?」


 周りは、ざわざわしています。


二葉ふたばさん、ここは学校なんで、場所を変えて…」


「三鷹が、いつまでたっても帰ってこないのが悪い。

 私は、認めてもらいたいだけなの」


 そんな二人の間に梅吉さんが入って、何とか場を治めようとしています。


「時間がないのよ。早く三鷹に認めてもらわないと。もたもたしてたら、産まれちゃうわ」


 爆弾発言です。


「やだ!みずっちの赤ちゃん?!」


「白川さん、遊ばれてたんじゃない?」


「えー、幻滅ぅー」


 周りの声は、確りと主の耳にも届いています。主の手を握っている大森さんの手に、ギュッと力が入って、震えているのが分かりました。


「二葉さん、言葉をもう少し選んでください。ここにいるギャラリーは、感受性の強いお年頃なんですから」


「あら、嘘は言っていないわ」


「ともかく!」


 梅吉さんは体育教師らしく、ひときわ声を張り上げました。聞きなれない梅吉さんの大きな声に、周りはビクッと静かになりました。


「お姉さん、弟さんとの家族会議は、場所を変えてください!!

 ほら、皆は授業に戻る!!」


 瞬間、大森さんの手から、力が抜けました。主はそっと、大森さんの横顔を見ます。今にも泣きそうな、辛そうな顔をしています。


 パンパンと梅吉さんが手を叩くと、周りの生徒は少しずつ教室に戻り始めました。


「なんだ、みずっちのお姉さんだって」


「なんか、複雑な家庭なのかな?」


「水島先生、授業の時以外は、あんまり喋らないもんね。家でもなのかね?」


 それを眺めながら、女の人がつまらなそうに言います。


「梅、ちゃんと先生なんだ~」


「ちゃんと、先生ですよ。先生ですけど、未だに怒られてますよー。

これも、怒られますよー、きっと…」


 投げやりな返事に、投げやりな一人言を混ぜながら、梅吉さんは車の運転席を開けました。


「で? 私は何処で待てばいいのよ? 今日は、逃がさないわよ」


 女の人は、運転席に座って梅吉さんを見上げました。


「三鷹、家で待ってもらったら?」


 梅吉さんの提案に、三鷹さんは大きなため息をつきながら、ポケットに手を入れました。その瞬間、主は大森さんの手を振り切って走りました。三鷹さんのポケットに入れた手を、上からギュッと両手で押さえました。


「やっ」


 驚いて下を向いた三鷹みたかさんを、主は小さく首を振って見つめました。


「… そうだな。悪い」


 三鷹さんは主に優しく笑いかけて、ポケットから手だけを出しました。主は安心して、その三鷹さんの手を握ろうとして、ちょっと戸惑って、小指だけ握りました。三鷹さん、真顔でお姉さんの方を向きましたけど、どこか得意気なんですよね。


「何よ、姉なんだから、弟の家に上がったっていいじゃない」


「三鷹の家は、女人禁制なんですよ。ご無沙汰しています、二葉さん。このお店でお待ちください。必ず、行かせますから」


 唇を尖らせた女性に、笠原先生が三鷹さんの後ろからメモ用紙を渡しました。


よし、相変わらずボッサボサねぇー。女っ気もないみたいだし。

いい子、紹介してあげようか?」


「結構ですよ。遊びで女性と付き合う年齢ではありませんから」


「硬いのも相変わらずね。三鷹、逃げるんじゃないわよ」


 捨て台詞を残して、女の人は車で去って行きました。 


… 学校前を走るスピードじゃないですね。


「さて、東条先生、高浜先生がお呼びですよ」


「… ハイ」


 車は、あ!っという間に、見えなくなりました。

 笠原先生が、ポン!と梅吉さんの肩に手を置きます。梅吉さん、そんなにガックリして… 笠原先生より背中がまん丸になっていますよ。



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