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第57話 ワンコ様のお通りです2

「ワンワンワン」


「きゃっ!… この子、本物なんですか?」


「秋君、シィィィ… なんか、水島先生のバックに入って、くっついて来ちゃったみたいなんですよ。

今まで、吠えなかったんですけど… 三島先生、犬、苦手ですか?」


 ボクがウメヨシさんに教えると、ミシマ先生は眉の間に皺を寄せながら、後ろに下がっちゃいました。黒いドロドロも、ちょっと引っ込みました。


「昔、噛まれたことがあって、それ以来…」


「そうですか、すみません。保健室、戻りますか?」


「いえ、もう少しで職員会議、始まりますよね?」


「まぁ、たいしたことないと思いますけれど… 三島先生、真面目ですね。

ああ、それと、昨日はありがとうございました。白川が、お手数おかけしまして。片付け、大変でしたでしょう?」


 昨日、ご主人様の電話に、オウメちゃんから『助けて~』ってお電話があったんです。ご主人様とウメヨシさん、ボクを連れて、急いで車出してお迎えに来たんです。卵は、モモカちゃんと双子君達にお願いしました。


「いえ、他の先生も数人いましたから。片付けと言っても、最初少しやって、1年生の手当てで他の先生にお願いしてしまったし。それより、白川さんの様子はいかがですか? 昨日、凄く怯えていたので…。

 1年生の二人も、あの時は怯えていたんですけれど、今朝はコロッと… 忘れちゃったみたいで。掠り傷程度ですけれど、数か所は切ったっていうのに…」


「一過性ですかね? 白川は… 忘れていないみたいで、帰宅後は、うちの妹とべったりでした」


 迎えに来た時は、ご主人様に飛びついて、放れませんでしたよ。


「今朝は、気持ちも落ち着いたようで、いつも通りでした」


「そうですか、良かったです」


 ミシマ先生、優しく笑いました。可愛いです。


「三島先生、お優しいですね」


「… そう、思っていただけるのは、嬉しいです」


 あ… ミシマ先生の後ろのドロドロが、薄いピンク色になって無くなりましたよ? あれ? そういえば昨日、お迎えに来た時、オウメちゃんにも黒いドロドロが着いてたけど、ご主人様に抱っこされたら今みたいに無くなってたな。


「あの、東条先生…」


「東条先生、こんな所に居たんですか? 職員会議前に…」


 ミシマ先生が何か言おうとした時、ウメヨシさんの後ろから男の人の声が聞こえました。


「ヤバヤバヤバヤバ! 高浜先生に怒られるから、式、早めに抜けて来たんです。じゃ、お大事に」


 ウメヨシさん、早口で言うと、ボクを確り抱っこして、走り始めました。

この揺れは、ちょっと危ないかもです。


「東条先生! 廊下は走らない!!」


「競歩です!」


 後ろから追いかけてくる声に、ウメヨシさん、大きな声でお返事です。

ウメヨシさん、ボクからもお願いです。あんまり揺れると…


「あ、東条先生、妹さん達が探してましたよ」


 追いかけっこで逃げているウメヨシさんに、声をかける人が居ました。


「ありがとう、小暮先生。あ、秋君! 危ないよ!」


 これぐらいの高さ、ひとっ飛びです。この人、ウメヨシさんに似ていますね。


「えー、先生、この子、本物?! 始業式で、一部の子達がざわついてたの、この子か~」


 ウメヨシさんのそっくりさんが、ボクを抱っこしました。なんだか… お尻がムズムズ… この匂い…


「可愛い… って」


 あー 出ちゃった。


「東条先生、やられました…」


「あちゃ~、秋君、おトイレ行ってなかったね。そもそも、持って来てるわけないもんね」


 そっくりさんの腕から、ウメヨシさんに抱き上げられました。


「全部、僕のワイシャツが吸収しましたよ… これ、トホホ… ってやつですよね」


「さすがに、これは申し訳ない」


「東条先生~」


 ウメヨシさん、鬼さんが追いついて来ましたよ?


「小暮先生、後でクリーニング代出しますから。本当にすみません。とりあえず、逃げます」


 追いかけっこ、再開ですか? でも、ちゃんと抱っこしてくれないと、ボクの足がプラプラしてますよ。風が通って、涼しいです。


 あ、モモカちゃんやオウメちゃんと、同じお洋服を着た人たちが見えてきましたよ。同じお部屋がたくさんですね。

 わぁ~、皆がボクとウメヨシさんを見てますよ。お鼻をクンクンしてますけど… あ、カサハラ先生の匂いを見つけましたよ。


桃華ももかちゃん、桜雨おうめちゃん、助けて~」


 ウメヨシさんがお部屋に入ると、そこにいる皆が、ボクとウメヨシさんを見ました。


「ワン」


 まずは、ご挨拶ですよね?


「ちょ、ウメちゃん、本物?!」


「やだ、可愛い~」


「さっき、先輩が言ってた犬、その子だ」


「ウメちゃん、抱っこさせて~」


「ウメちゃん、怖いの?抱き方変だよ」


「名前は~?」


 一気に、ボクとウメヨシさんの周りに皆が集まってきました。


「この子、今、小暮先生にオシッコかけちったんだよ~」


「ワン(てへ)」


 ウメヨシさんの一言に、皆、大笑いしています。


 「小さいのに、なかなか…」


「えー、小暮なら、笑って許してくれるでしょう?」


「小暮っチ、新学期早々、災難じゃん」


「はいはいはいはい、まだホームルーム終わってませんからね。

 皆さん、席について。東条先生、その子は白川か東条に預けて、さっさと学年主任の高浜先生のお説教を聞いて来てください。イライラされたまま、職員会議に参加されると、こちらにも要らない火の粉がとんでくるんで」


 あ、カサハラ先生だ。さっきより一枚多く着てますけど、その大きくて白い服、暑くないんですか?


「秋君、おいで」


「ワン」


「桃ちゃん、これ、アルコール入ってないやつ」


 モモカちゃんがボクを抱っこしようとした時、オウメちゃんが、濡れた紙でボクのお尻周りを拭いてくれました。


「ほら、兄さんのお仕事は、高浜先生のお説教を聞くことでしょう?

秋君は、私と桜雨で見ておくから、早く行った方が…」


「東条先生~、ようやく追いつきましたよ! ほら、貴方はクラス持っているわけでもないんですから、さっさと職員室に来てください!」


「… イヤ、かなぁ~」


「何を、生徒みたいなことを言っているんですか!!」


 ウメヨシさんを追いかけていた鬼さんは、おじいちゃんだったんですね。

ウメヨシさんより小さいのに、ウメヨシさんの耳を引っ張って、どっかに連れて行っちゃいました。


「高浜先生、耳、痛いですよ~」


 なんて声だけは、聞こえますね。


「秋君、良い子に先生のお話し、聞けますか?」


 カサハラ先生が、ボクの頭をナデナデしてくれます。


「わふぅ」


 もちろん、ボク、良い子にしてますよ。


「じゃぁ、皆、席に戻って」


 カサハラ先生が手をパンパンって叩くと、ボクが入って来た時みたいに、皆イスに座りました。

 ボクは、モモカちゃんに抱っこされて、窓の隣に座りました。お外が見たかったから、モモカちゃんのお膝じゃなくって、机の上で丸くなりました。窓はしまってるけれど、上から涼しい風が吹いてて気持ちがいいです。

 モモカちゃん、ボクの背中を優しくナデナデしてくれるから、とっても気持ちいいですねぇ… 眠くなっちゃったんで、お昼寝しますね。

 起きたら、双子君達と遊ぼう~。




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