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第56話 ワンコ様のお通りです1


「え~、皆さん、夏休みは…」


「ちょ… ウメちゃん、人形持ってるのかな?」


「似合ってる」


ざわざわざわざわ…


「怪我の報告も入りましたが…」


「没収したやつ?」


「さすがのウメちゃんも、自分の持ってこないでしょう」


「いや~、ウメちゃんだから、わかんないよ~」


「おい、前向け、前。ちゃんと、主任の話を聞きなさい」


ざわざわざわざわ…


「三年生はこれから…」


「学校に、犬の人形って…」


「しかも、今、始業式」


「ってか、今、動かなかった?」


「え?マジもん?」


ざわざわざわざわ…


 とっても大きなお部屋に、たくさんの人が居ます。一番前に一人立っている人が、お話ししています。皆、その人の方を向いて椅子に座っているけれど、ちらちらボクを見てます。


 ボクは双子の男の子に拾われた、ワンコです。皆、ボクの事を『まだ、赤ちゃんだね』って言います。名前は『秋』です。


 ボクは今、双子君達のお兄ちゃんの、ウメヨシさんのお膝に抱っこしてもらって、『始業式』っていうのに参加しています。ウメヨシさんに、動いちゃダメ、吠えちゃダメっていわれたので、我慢してます。ボク、良い子だから、我慢できるんです。


「式が始まるギリギリに来たと思ったら…」


 ウメヨシさんの右側に、カサハラ先生が座っています。カサハラ先生、ボクんちのお隣さんです。


「秋君連れて、どうどうと入ってこれるわけないでしょ。

 三鷹君~、君、荷物はきちんと、確かめてから持ってこようね。ロッカーに荷物取りに行ったらさ、隣の三鷹のロッカーからゴソゴソ音聞こえるんだもん。ビックリして、開けちゃったよ」


 ボクのご主人様は、ミタカさんです。ウメヨシさんの左側に座っています。


「スポーツバックに入っていたのですか? こんなに小さいのに、随分と我慢強い子ですね」


「剣道部の救急箱の中身やら、教科資料やらの中で寝てたみたい」


 ボクを拾ってくれた双子君達は、毎日、ボクと遊んでくれます。

でも、双子君達は今日から『がっこう』という所に行くから、お日様が沈む少し前からしか遊べないって言っていました。

 ご主人様も、『がっこう』に行くって。だから、今日は双子君達のお家でお留守番のお約束でした。けれど、双子君達と遊びたいので、ご主人様の大きなバッグに入ってみました。


 双子君達も、ご主人様も『がっこう』に行くんですもん。ボクも行きたいです。


 バッグの中はなんだか色んなものが入っていたので、最初はゴツゴツ当たって痛かったです。だけど、バッグがユラユラするのが気持ちよくって… 気が付いたら、目の前にご主人様のお友達のウメヨシさんが居ました。


「今日は、夕方まで家で預かるはずだったからさ、慌てて電話したよ。

そしたら案の定、母さんたち探してた。

 ワクチンも全部終わってないから、歩かせるのも抵抗あるから…」


「抱っこですか。

 それにしても、ご主人様の膝ではなくって、良いのですか?」


 カサハラ先生、ボクはここでいいんですよ。ボクがウメヨシさんの所に居れば、あの黒いドロドロしたの、来ないみたいなんで。


「ほら、昨日の話、覚えてる?」


「ああ、坂本さんが『祓った』話ですか?」


「そうそう。

 暫くは、できるだけ秋君と一緒にいた方がいいって、坂本さんが。秋君も、分かってくれてるみたいでさ」


 分かってますよ。


「… 随分と、可愛いドヤ顔ですね」


 カサハラ先生、ボクの顔見て笑わないでください。


「あー、そろそろ終わりそうだから、先に出るね~」


 そう言って、ウメヨシさんはボクを抱えて大きな部屋から出て行きました。


 ウメヨシさん、ボク、双子君達と遊びたいんです。双子君達、何処ですか?


 キョロキョロしても、誰もいません。ここ、廊下って言うんでしたっけ?

昨日、オウメちゃんのお迎えに来た時、教えてくれましたよね?

あ、ウメヨシさん、誰かお部屋から出てきましたよ。


「三島先生、気分でも優れないんですか?」


「あ、おはようございます、東条先生。

 昨日の夕方から、ちょっと・出勤はできたんですけれど、眩暈が酷くて」


 丸いお顔が、白くなってます。大きなお目目が、ウルウルしています。

あ… ウメヨシさん、この人ですよ。ウメヨシさんにくっついてた、黒いドロドロ、この人からですよ。ほら、後ろから出てるもん。




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