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第54話 ワンコは分かるんです1

 皆さん、こんにちは。三鷹みたかさんの手拭いの、カエルの刺繍の『サクラ』です。


 三鷹さん、今日は子守りです。今日だけじゃなくて、最近、子守りの時間が増えました。というのも、子犬の秋君の面倒をみるからと、桜雨おうめちゃんの双子君が、お昼過ぎになると宿題を持ってくるからです。

 三鷹さん、双子君の宿題も見てあげています。夏休み最後の今日は、朝からです。内心、新学期の準備が滞っているのが気がかりではあるのですが、面倒を見るのは何とも思ってないみたいです。赤ちゃんの頃から、知っていますからね。


 今日は、朝から双子君達は宿題を持ってやってきました。秋君と遊びながらも、宿題は無事終了。桃華ももかちゃんが持って来てくれたお昼を食べて、秋君の予防接種のために動物病院に向かいました。


 秋君、受付で待っている時はじっ… と、三鷹さんに抱っこされて、名前を呼ばれたらちゃんと


「ワン」


とお返事できました。

 双子君が見守る中、お注射も嫌がらず受けました。診察台で、固まっていましたけれど。


 その帰り、商店街の中を、秋君を抱っこして歩いていた冬龍とうりゅう君が、ふいに後ろを気にしていました。


「どうしたの?」


 そんな冬龍君に気が付いた夏虎かこ君が、後ろを振り返りながら聞きました。

 商店街を行き交う人の出は、いつもと変わりません。皆、暑さから逃げるように、少し早歩きな気がします。


「んー… なんか、変?」


「えー、僕に聞かないでよ」


 首をかしげる冬龍君に、夏虎君は笑いながら突っ込みました。横のお店のドアが開いて、お客さんと一緒に店内の冷気が出て来たので、夏虎君は一瞬ビクッとしました。


「何か、誰かが付いて来てる感じがするんだよね」


「えー、夏だからって、やめてよー」


夏虎かこ君は、サササーっと、三鷹みたかさんの腕に自分の腕を絡ませました。


冬龍とうりゅう、昨日の怖いテレビ、観過ぎたんだよ。

 テレビ番組終わった後、観たりないからって、お父さんと怖いDVD観てたでしょう?」


 夏虎君、怖いのは苦手なんですね。


「そうかなぁー。でも、さっきから、秋君の毛も逆立って、顔も緊張してるんだよね」


 その言葉に、三鷹さんが秋君を抱っこしました。確かに、黒い毛が全体的に逆立っていて、顔も、特に口周りが緊張しています。今にも牙を剝き出しにして、唸り声を上げそうです。


「… 注射が嫌だったんじゃないの?」


 夏虎君は、三鷹さんの腕の中の秋君を、背伸びをして恐る恐る覗き込みました。確かに、いつもと違うのが、夏虎君にも分かりました。


「あ、いたいた。病院、終わった?」


 そんな三人に、梅吉さんが片手を上げて駆け寄ってきました。


「ウ~… ワンワンワンワンワン!!」


 途端に、秋君が今まで聞いたこともない声量で、梅吉さんに向かって吠え始めました。今にも梅吉さんに飛びつきそうな勢いに、三鷹さんは慌てて秋君を確りと抱えました。


「え、え? 何? 俺、何かした?」


 慌てて数歩下がった瞬間、梅吉さんの周りに黒い影が見えました。何だか、ドロリとした感じのモノが、梅吉さんの肩や腰にまとわりついています。


「ウメ兄ちゃん、スゲー」


 冬龍君は驚き…


「うわぁぁぁ… ウメ兄ちゃん、どこ行ってきたの?」


 夏虎君は怯えて三鷹さんの影に隠れ・・・


「ヴヴヴヴヴヴ・・・・」


 秋君は三鷹さんの腕の中で唸り・・・


「分からん」


 三鷹さんは、何も見えず感じずの様です。


「えー・・・何か分からないけど、何となく、ショックかな?」


 シュンとした表情で、梅吉さんがキョロキョロと辺りを見渡しました。

片手が中途半端な高さで、行き場を失っています。


「うわっぷ!」


「ちょっとぉ、人の店の前で、気持ち悪いモノを広げないでくれないかしら」


 そんな梅吉さんに、お店から出てきた長身の人が白い粉末を頭からかけました。



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