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第47話 小さな命2

「この子は、もともと弱いのかもね。弱い子は、お母さんのオッパイ競争で負けちゃうから、なかなかお腹いっぱいオッパイを飲めてなかったみたいだね」


 そう教えてくれたのは、獣医の先生です。商店街にある動物病院に、三鷹みたかさんが連れて来てくれました。獣医の先生は、ずんぐりむっくりしていて、髪も眉毛もお髭も腕の毛も濃いから、皆からクマ先生と呼ばれています。双子君の小学校で飼っているウサギも、診てくれています。


「タカ兄ちゃん、この子、元気になるかなぁ・・・」


 動物病院から戻った三人は、三鷹さんのお家のダイニングで、バスタオルに包まれた子犬を囲んでいました。相変わらずクッタリしていますが、病院に行って、冷房の効いた部屋にいるせいか、発見した時よりも呼吸は落ち着いているみたいです。


「精一杯、お世話するだけだな」


 目の周りを真っ赤にした双子君に、三鷹さんは優しく言うと、キッチンに行きました。冷蔵庫を覗きましたが、この家に上がり込むのは、梅吉さんと笠原先生だけなので、ジュースなんてありません。かろうじて、麦茶のペットボトルがありました。グラスに氷と一緒に麦茶を注いで、ダイニングのちゃぶ台に置きました。


「ごめんね、タカ兄ちゃん僕たち、タカ兄ちゃんしか頭に浮かばなくって」


「お姉ちゃんは?」


 双子君に麦茶を進めると、喉が渇いていたみたいで、二人は一気に飲み干しました。


「お姉ちゃんも桃ちゃんも、動物の番組視て、いつも泣いてるから…」


「僕達みたいに、パニックになっちゃうよ」


「それか、泣いちゃうから」


 優しい子達です。


「白川の家で世話をするのは難しいだろうから、ここで診ておく」


「僕たちが拾ったから、僕たちがちゃんとお世話するよ!」


「タカ兄ちゃん、お仕事あるでしょう?」


 三鷹さん、迷っています。


 双子君の家で、双子君が面倒をちゃんと診たとして、万が一悲しい結果になったら… 逆に、元気になったら、白川家から出なくなるんじゃないか? そもそも、父親の修二さんに反対されたら…


「家ではペットを飼ってはいけないと言われているんだろう? なら、とりあえず元気になるまではここに置いておいた方がいい。世話をしたいなら、いつでも来ていいから」


「本当に?」


「本当に来てもいいの?」


 双子君は、必死です。


「ああ。何なら、お泊りしてもいい」


 三鷹みたかさん、そこまで言ってしまって良いのでしょうか?


「お姉ちゃんに言ってくる!」


「荷物、持ってくる!」


 双子君は、グラスの中の氷を口の中に入れて一気に噛み砕くと、子犬を覗き込みました。


「すぐ戻ってくるからね」


「待っててね」


 双子君は鼻息も荒く、勢いよく玄関を出て行きました。


「あの部屋で、寝かせるんですか?」


 いつから居たんでしょうか? 部屋の隅で寝っ転がっていたらしき笠原先生が、ぬっと起き上がりました。


「あの騒ぎが、隣の俺の家に聞こえないわけがないでしょうよ。鍵もかけないで飛び出して行ったから、留守番していたんですよ。

 それより、双子君が戻ってくる前に、寝室の片付けをした方がいいんじゃないですか?」


 三鷹さん、何か言いかけて口をパクパクさせましたが、慌てて寝室に駆け込みました。寝室から聞こえるバタバタした音に、笠原先生は大きなため息をついて、子犬を見つめました。



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