とってもとっても小さな声で… 皆さん、おはようございまぁす。
三鷹さん、ようやくお仕事に集中し始めました。いつも通り、
この夏、色々あった上に、理容師の坂本さんにも言われた事が、頭に引っかかってるんですよね。で、昨日の学校プールで見た、桜雨ちゃんの水着姿。スマホで隠し撮りしたのをチラチラ見てたら、仕事なんか手につきませんよね。でも、いい加減お仕事しないと、新学期が大変なことになるらしいです。朝食の時、笠原先生に釘を刺されていました。
そんな
ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン…
「おにいぢゃぁぁぁぁんー」
「ダガおにいぢゃぁぁぁぁんー」
「「だずげでぇぇぇぇ」」
玄関との連打と一緒に、小さな男の子の声が二人分、聞こえました。聞き覚えがありすぎるその泣き声に、三鷹さんは慌てて玄関のドアを開けました。
「ダガおにいぢゃぁぁぁぁんー。しんじゃうー」
「「だずげでぇぇぇぇ」」
玄関の前で大泣きしていたのは、
■
桜雨ちゃんには、小学校2年生の双子の弟、
主と同じ、目尻のぽへっと下がった焦げ茶色の瞳と、薄く入れた紅茶色の猫っ毛はベリーショート。小さめの体はスベスベの白い肌で、日に焼けても赤くなって終わり。クラブサッカーに入っているので、細かい傷はあっちこっちにあります。桜雨ちゃんの作るホットケーキと、ミルクで入れるココアが大好物です。
そんな二人、桜雨ちゃん達が学校のプールを私物化して楽しんでいた昨日は、お友達のお家にお泊り会でお出かけしていました。商店街から少し離れた、通っている学校の近くのお家です。
6人のお友達とたくさん楽しみました。お庭にビニールプールを出して、水鉄砲とホースも使って皆でビショビショになりました。夕飯は、お庭でバーベキュー。デザートのスイカの種を、誰が一番飛ばせるか、競争もしました。寝る前の枕投げも忘れません。
朝は6時前に起きて、ラジオ体操が始まる前の公園で、サッカーをしました。もちろん、皆でラジオ体操にも参加です。そのラジオ体操の帰り、皆でお友達の家に帰る途中、双子君の足がピタリと止まりました。
「二人とも、どうしたの?」
先に進んだお友達が、不思議そうに双子君に声を掛けました。
「… 今、なんか声がしたよ?」
「うん、した」
電信柱と自動販売機の間の影で立ち止まって、キョロキョロ辺りを見渡しました。
「声?」
「聞こえないよ?」
「お腹すいたから、早く帰ろうよ~」
皆には聞こえないようですが、双子君には微かに聞こえているようです。まだ、キョロキョロしています。
「あ、ここからだ」
それは、双子君が立っている電信柱と自動販売機の間の影のさらに奥、コンクリートの壁と自動販売機間に、隠すように置かれていました。ガムテープで蓋をされた、小さな段ボールです。
「鳴いてる」
双子君が皆の前まで段ボールを引きずり出すと、皆の耳にも微かな鳴き声が聞こえました。でも、分かっていて、耳をすまさなければ聞こえないぐらい、小さな声です。双子君は、慌ててガムテープを剥がして、蓋を開けました。
「子犬だ」
「赤ちゃんじゃん」
双子君は、言葉が出せないで口をパクパクさせています。その後ろから、覗き込んだ友達が口々に言いました。
「これ、死んじゃう?」
「まだ動いてるけど…」
「死んじゃうんじゃない?」
小さな段ボールに入っていたのは、痩せた小さな黒い子犬でした。
「うわぁぁぁ、死んじゃう!!」
「死んじゃうよぉぉぉぉー!!」
双子君は、慌てて段ボールを抱えて、お友達に何も言わずに走り始めました。後ろからかけられるお友達の声にも気が付かず、家の方に向かって猛ダッシュです。