『うちの学校、なんで授業に水泳がないか、知ってる?
昔ね、潜水で友達の足を引っ張って、脅ろかしていた男子がいたんだって。お調子者の男子で、友達や先生に注意されても、仲間と賭けをしていたから、止めなかったらしいの。何分潜水できるかと、その間に何人足を引っ張れるかって。でね、いい加減に怒った先生が、その男子を捕まえようと
夕方でもまだまだ気温は下がらないから、水につかるのは気持ちいいです。夕日に染まる水面に、カラフルな水着姿の女子生徒が5人、大きな浮き輪に乗って水遊びを楽しんでいます。
2棟ある武道場の1棟の3階に50メートの開閉式室内プールがあって、水泳部が使っているんですが、今日は主達が天井を開けて独占しています。
「って話を、卒業生から聞いたわよ」
真っ白なビキニ姿で、真珠型の浮き輪に乗っているのは大森さんです。濃い茶色の癖のある長い髪をざっくりとお団子にして、メイクもバッチリです。夕日色の水を軽く蹴り上げながら、キラキラ飛び散る水滴を楽しんでます。
「そんなわけないじゃない。高校生にもなれば、授業のプール参加率なんか落ちるでしょう。女子なんか『体調不良です』って言えば、それまでなんだから。それに、授業プールは選択でしょう」
ピンクの浮き輪ボートにうつ伏せになっている田中さんは、鍵編みホルターネックニットのモノキニです。色は鮮やかなミント。黒髪のショートカットに、切れ長の瞳にはコンタクト。メイクもしているので、5人の中で一番大人っぽく見えます。
「怪談にもならないわね~。中学から
背もたれ付きの浮き輪に座っている
「高校の、このプールは借りられなかったの?」
松橋さんは、大きめの浮き輪に座っています。オレンジ色のビスチェ風ハイウエストの水着で、下のスカート部分はチェック柄でフリルもついています。お下げに、水着とお揃いのオレンジのチェックのリボンをしています。
「高校の授業が選択って言っても、それなりに人数はいるから。それに、中学生も一緒よ。『体調不良なんです』ってやつね。だから、中学も選択にしたのよ」
「私も桃ちゃんも、プールは選択しなかったから、授業プールは小学校で終わってるの」
僕の主、
「でも、本当にいいのかしら?学校のプールを貸し切りだなんて。しかも、この浮き輪、水泳部のじゃないの?」
「遊び疲れる程、さんざん遊んでおいて、今更だわ。
浮き輪は、兄さん達の私物よ。ここ、温水だから冬でも使えるじゃない?
兄さん、職権乱用で好きな時に使ってるのよ。で、学年主任の高浜先生に怒られるっと」
心配そうな松橋さんに、桃華ちゃんが笑って突っ込みます。
「せっかくこの前の買い物で水着を新調したのに、恥ずかしいからプール行きたくないって言うんだもん。ここなら、誰も居ないから、恥ずかしくもないでしょ」
皆の水着、田中さんチョイスなんです。この前のお買い物で、水着も新調したんです。
「職権乱用もいいところよね。」
「だって、ヨッシー言ったじゃない。使えるコネは使い倒しなさいって。
素直にしたがったまでよ」
呆れる田中さんに、大森さんが悪戯な笑みで答えます。
「ちゃんと、プール掃除も手伝ったんだから、良いんじゃない? 双子もお友達の家にお泊り会で居なくて、ゆっくりできる所をこうして手伝ったんだから。ご褒美よ、ご褒美」
「わ、私も、こんな贅沢、嬉しい。プールは好きなんだけれど、水着姿が恥ずかしくて… 皆みたいに、スタイル良くないから…」
桃華ちゃんがシレっと言います。松橋さんは恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに言いました。
「松橋さん、スタイル悪くないよ~。その水着、よく似合ってる。
私、皆の中で一番胸ないし身長も低いから、田中さんや大森さんみたいなセクシーなのは着れないなぁ。頑張って、桃ちゃんの水着かな」
「
「素材が良いのに、もったいな~い。
松橋さんも、自分で思ってる程、スタイル悪くないわよ。私には負けるけどね~」
そう言って、大森さんは真珠型の浮き輪の上に立ち上がって、ポーズを取りました。ボディラインが夕日に照らし出されて、絵画みたいです。
「泳げないけどね」
田中さんはそう言うと、大森さんの浮き輪を大きく揺らしました。
「ちょっ!!」
大きな水柱を立てて、大森さんが水の中に落ちました。
「やったわね!」
足が立つので、慌てません。大森さんは、皆の浮き輪をひっくり返しました。キャーキャー言いながら、水に落ちていきます。顔を出したら、皆で水をかけて遊んでいます。
「プール掃除の後に遊べるなんて、若さですね」
そんな5人を、プールサイドのベンチで眺めている3人がいました。
左に座っているのが、笠原先生です。アロハ柄の7分丈海パンに、丈の長い白のパーカーを羽織って、いつもの猫背が更に曲がっています。
「いや、掃除したの、俺たちじゃん。
真ん中に座っている梅吉さんは、オレンジ色の無地のサーフパンツです。少し遠い目になっているのは、プール掃除でお疲れだからですね。
「でもさ、最近の水着は、下着とどう違うの?」
「それ、口にしたら、おじさんですよ」
ああ、遠い目は、そっちの心配からなんですね。
「
「うちの学校の水泳が、選択制で良かったですね」
どんな水着でも、貴方達の中ではアウトでしょう。の言葉を飲み込んで、笠原先生は少し身を乗り出して、梅吉さんは右側を見ました。
「三鷹ぁ~…」
梅吉さんがそっと名前を呼んでも、三鷹さんは組んだ足を台に頬杖をついて主を見ています。それはもう、ガン見です。瞬きしてません。
「「
梅吉さんと笠原さんの声と、大きなため息が重なりました。そんな大人たちの会話をよそに、主達は貸し切りプールを十分楽しみました。