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第45話 夏だ!プールだ!水着だ!

『うちの学校、なんで授業に水泳がないか、知ってる?

 昔ね、潜水で友達の足を引っ張って、脅ろかしていた男子がいたんだって。お調子者の男子で、友達や先生に注意されても、仲間と賭けをしていたから、止めなかったらしいの。何分潜水できるかと、その間に何人足を引っ張れるかって。でね、いい加減に怒った先生が、その男子を捕まえようと 躍起やっきになったのよね。男子、逃げながらその先生の足を引っ張ったら… バランス崩した先生に思いっきり踏まれたのよ、頭を。でも、水中だから、そんなに威力はなかったのよ。ただ、バランスを崩した先生が近くの女子生徒の頭を掴んで、踏まれて慌てた男子が足を掴んで… 先生と男子のパニックに巻き込まれた女子は、二人の下敷きになって溺れちゃって、助からなかったの。それ以来、泳いでいたら頭を水に押さえつけられたり、足を引っ張られたりして、溺れる子が後を絶たなかったの。だから、授業プールは無くなったらしいわ。部活は、大丈夫みたいなんだけどね…』


 夕方でもまだまだ気温は下がらないから、水につかるのは気持ちいいです。夕日に染まる水面に、カラフルな水着姿の女子生徒が5人、大きな浮き輪に乗って水遊びを楽しんでいます。

 2棟ある武道場の1棟の3階に50メートの開閉式室内プールがあって、水泳部が使っているんですが、今日は主達が天井を開けて独占しています。


「って話を、卒業生から聞いたわよ」


 真っ白なビキニ姿で、真珠型の浮き輪に乗っているのは大森さんです。濃い茶色の癖のある長い髪をざっくりとお団子にして、メイクもバッチリです。夕日色の水を軽く蹴り上げながら、キラキラ飛び散る水滴を楽しんでます。


「そんなわけないじゃない。高校生にもなれば、授業のプール参加率なんか落ちるでしょう。女子なんか『体調不良です』って言えば、それまでなんだから。それに、授業プールは選択でしょう」


 ピンクの浮き輪ボートにうつ伏せになっている田中さんは、鍵編みホルターネックニットのモノキニです。色は鮮やかなミント。黒髪のショートカットに、切れ長の瞳にはコンタクト。メイクもしているので、5人の中で一番大人っぽく見えます。


「怪談にもならないわね~。中学から白桜はくおうに通ってる今の2年と3年は、プール授業は必須じゃなくって選択だったのよね。1年の時から、プールの新設工事していたから」


 背もたれ付きの浮き輪に座っている桃華ももかちゃんは、オフショルダービキニです。上は濃いグリーンで、裾はクシュクシュとしていて、デニムのショートパンツを履いても可愛いです。下は、ハイウエストの黒です。長い黒髪を三つ編みにして、お団子でまとめています。


「高校の、このプールは借りられなかったの?」


 松橋さんは、大きめの浮き輪に座っています。オレンジ色のビスチェ風ハイウエストの水着で、下のスカート部分はチェック柄でフリルもついています。お下げに、水着とお揃いのオレンジのチェックのリボンをしています。


「高校の授業が選択って言っても、それなりに人数はいるから。それに、中学生も一緒よ。『体調不良なんです』ってやつね。だから、中学も選択にしたのよ」


「私も桃ちゃんも、プールは選択しなかったから、授業プールは小学校で終わってるの」


 僕の主、桜雨おうめちゃんは、大きなカエルの浮き輪でプカプカ浮いています。白のワンピースなんですが、可愛いドレスデザインです。前はぴったりしたレースデザインで、胸の谷間とその下に、緑のリボン。後ろはガバっと開いていて、細い紐が交差しています。下は膝上5センチまで、ふんわりとしたホワイトレースが覆っています。編み込みお下げにした髪と、白い肌が夕日色に染まっています。


「でも、本当にいいのかしら?学校のプールを貸し切りだなんて。しかも、この浮き輪、水泳部のじゃないの?」


「遊び疲れる程、さんざん遊んでおいて、今更だわ。

 浮き輪は、兄さん達の私物よ。ここ、温水だから冬でも使えるじゃない?

兄さん、職権乱用で好きな時に使ってるのよ。で、学年主任の高浜先生に怒られるっと」


 心配そうな松橋さんに、桃華ちゃんが笑って突っ込みます。


「せっかくこの前の買い物で水着を新調したのに、恥ずかしいからプール行きたくないって言うんだもん。ここなら、誰も居ないから、恥ずかしくもないでしょ」


 皆の水着、田中さんチョイスなんです。この前のお買い物で、水着も新調したんです。


「職権乱用もいいところよね。」


「だって、ヨッシー言ったじゃない。使えるコネは使い倒しなさいって。

素直にしたがったまでよ」


 呆れる田中さんに、大森さんが悪戯な笑みで答えます。


「ちゃんと、プール掃除も手伝ったんだから、良いんじゃない? 双子もお友達の家にお泊り会で居なくて、ゆっくりできる所をこうして手伝ったんだから。ご褒美よ、ご褒美」


「わ、私も、こんな贅沢、嬉しい。プールは好きなんだけれど、水着姿が恥ずかしくて… 皆みたいに、スタイル良くないから…」


 桃華ちゃんがシレっと言います。松橋さんは恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに言いました。


「松橋さん、スタイル悪くないよ~。その水着、よく似合ってる。

 私、皆の中で一番胸ないし身長も低いから、田中さんや大森さんみたいなセクシーなのは着れないなぁ。頑張って、桃ちゃんの水着かな」


桜雨おうめに露出の多い水着なんか、着せるわけがないでしょう、兄さん達が。私のデザインでもギリアウトよ」


「素材が良いのに、もったいな~い。

 松橋さんも、自分で思ってる程、スタイル悪くないわよ。私には負けるけどね~」


 そう言って、大森さんは真珠型の浮き輪の上に立ち上がって、ポーズを取りました。ボディラインが夕日に照らし出されて、絵画みたいです。


「泳げないけどね」


 田中さんはそう言うと、大森さんの浮き輪を大きく揺らしました。


「ちょっ!!」


 大きな水柱を立てて、大森さんが水の中に落ちました。


「やったわね!」


 足が立つので、慌てません。大森さんは、皆の浮き輪をひっくり返しました。キャーキャー言いながら、水に落ちていきます。顔を出したら、皆で水をかけて遊んでいます。


「プール掃除の後に遊べるなんて、若さですね」


 そんな5人を、プールサイドのベンチで眺めている3人がいました。

 左に座っているのが、笠原先生です。アロハ柄の7分丈海パンに、丈の長い白のパーカーを羽織って、いつもの猫背が更に曲がっています。


「いや、掃除したの、俺たちじゃん。桃華ももか達、水撒いて遊んでただけ… まぁ、楽しそうだから、良いけどさ」


 真ん中に座っている梅吉さんは、オレンジ色の無地のサーフパンツです。少し遠い目になっているのは、プール掃除でお疲れだからですね。


「でもさ、最近の水着は、下着とどう違うの?」


「それ、口にしたら、おじさんですよ」


ああ、遠い目は、そっちの心配からなんですね。


三鷹みたかと修二さん的には、桜雨おうめの水着はアウトだわ。ってか、桃華ももかもアウト…」


「うちの学校の水泳が、選択制で良かったですね」


 どんな水着でも、貴方達の中ではアウトでしょう。の言葉を飲み込んで、笠原先生は少し身を乗り出して、梅吉さんは右側を見ました。


「三鷹ぁ~…」


 梅吉さんがそっと名前を呼んでも、三鷹さんは組んだ足を台に頬杖をついて主を見ています。それはもう、ガン見です。瞬きしてません。


「「三鷹みたか、アウトー」」


 梅吉さんと笠原さんの声と、大きなため息が重なりました。そんな大人たちの会話をよそに、主達は貸し切りプールを十分楽しみました。





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