「コンプライアンス守ろうってのは結構ですけれど、知らないわよ、横からかっさらわれても… まぁ、その心配は低いだろうけど。
手は出さないけど、自分から逃げない様に心理的に囲っておくなんて… それはそれで、イヤらしいやり口よね。そんなんなら、両家の親に許可貰って、婚約でも結婚でもしちゃえばいいじゃない。女の子は16歳で結婚できるんだから。じゃないと、この顔に似た男が、攫って行くかもよ」
って、先輩が俺の事を指さした。俺に似た顔…
「今日、
アンタにそっくりの顔。他と違う顔つきで見ていたから… ちょっと、注意した方がいいかもね」
先輩、早くも5杯目。ってか、皆、箸が進まないね。代わりに、アルコールが進んでる。
「この顔ですかね?」
「よく、撮る気になったな、この顔」
「何となく。多分、俺の『何となく』と坂本さんの『ちょっと』は、同じようなものかもしれないですね」
笠原が、スマホを見せてきた。そこには、体育祭の時の小暮先生が映っていた。
「そうそう、この顔。ほんと、そっくりよね~」
「我慢するのが、精一杯だ…」
あ、
「何を我慢しているのよ?」
いや、先輩、それ聞いちゃ駄目でしょう…
「病院でも、夜の美術室でも…」
「あああああ~分かってる、分かってるから、三鷹。せっかくここまで我慢したんだから、もう少しだ。ここで言葉にしたら、もう
ってか、聞きたいようで聞きたくない、同僚と従姉妹のそんな話。慌てて、俺の生中ジョッキを、強制的に三鷹に呑ませた。
「このままハッキリしないで泣かせても、箍を外して泣かせても、結局は泣いてるな」
「なんで言うかな、笠原~!!」
「気持ちは良く分かってるつもりだ。だから、泣かせたくないんだ…」
「分かってるってば、三鷹! いいか?! お前の泣き言はいくらでも聞いてやるが、手塩にかけて育てた妹や従姉妹の『そんな』場面を想像するような話、聞けるわけないだろう!
俺、お兄ちゃん!! お前は『学校の先生』、コンプライアンス守るの偉いよ! だから、もう、日本酒やめろ。お前、最近、ピッチ早すぎだぞ!」
俺の生ビール一気に呑み干して、また自分の酒に戻るし。ってか、気が付かなかってけど、隅に空のお銚子4本も転がってんじゃん!
「やだ、この子達ってば、面白い」
ええ、そうでしょうよ、はたから見れば面白いでしょうよ。その刺身も、美味しく食べれるでしょうよ。
その笑いが憎いです、先輩。でも、助けて、先輩!!
「あのね、私が言いたいのは、何でとっととカットしに来ないのかってことよ! 放れるのを嫌がるなら、一緒に連れて来ればいいでしょうが。
あ、そこに戻る?
「結婚…」
あ、三鷹も戻るの?
「あのな、うちの妹達は3月生まれだから、ようやく16になったばかりなんだってば。16になったばかりで、あの修二さんが結婚に大人しくOK出すとおもうか? OKどころか、血の雨が降るだろうが!」
なんか、吞んでも呑んでも、冷静になっていくのはなんでかなぁ…
「真剣じゃなければ」
「そうね、竹刀ならよくて内出血、でも、突きはなしよ… って、違う!」
俺が突っ込んでいる間も、笠原はマイペースに呑んでるし。助けてよ!
「バッカ! まずはデートなさいよ、デート。二人っきりなんて、なかなかなれないでしょう? 高校生なんだから、清く正しいデート」
「デート…」
「分かった! 三鷹、今年は皆で花火大会に行こう。二人っきりは、コンプライアンスがまずい。でも、皆で行けば大丈夫だし、少しぐらいは二人っきりになれるだろう?」
これが、今日の妥協案。修二さんが、後輩で坂本先輩の店のスタッフの岩江さんも連れて、合流したからね。さすがに、修二さんの前で、愛娘の恋バナは出来ません。そこは、先輩も空気を読んでくれたので、ありがたい。
そして翌朝、俺と三鷹と笠原は、妹達の『二日酔いメニュー』を有難く頂きました。
もう、暫くは呑みたくない…