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第30話 プレゼントを背伸びするのは難しい

 最近は、雨ばかりです。傘である僕の出番が多くて、とても嬉しいんですけれど… やっぱり、お日様も見たいです。


 今日も、朝から雨…。シトシトシトシト… 梅雨らしいお天気です。教室はしっかり空調が効いているので快適ですが、スカッとはしません。昼休みの今は、手芸に集中している男子生徒が目立ちます。

 『手芸部』が出来たおかげもあって、家庭科の制作にも力が入るようで、1学期の提出物のエプロンを、諦めずせっせと仕上げているようです。たまに、松橋さんが呼ばれては、アドバイスをしたりもしてます。1学期終了、目の前ですからね…。


 そんな静かな教室の窓際、一番後ろとその前の席に、僕の主の桜雨おうめちゃんと、従姉妹の桃華ももかちゃんが座っています。


「今年こそ、何か送りたいなぁ~」


「受け取らないんじゃない? いつものごとく」


 今日の、食後のジュースのはオレンジです。左手でブリックパックを傾けながら、右手では机の上に広げた週刊誌をめくっています。


「今年も、夕飯とケーキ、だけ?」


「それで、十分だと思うわ。むしろ、お釣りがくるわよ」


 家族の誕生日、主と桃華ちゃんは毎回、豪華なご馳走とケーキを用意します。


「第一、プレゼントって言っても… 高いのばかりじゃない?」


 桃華ちゃんは、主が眺めている週刊誌を覗き込みました。メンズファッション誌は、主の物じゃありません。大森さんの彼氏さんのです。

『プレゼントの参考』にと、貸してもらいました。


「高いね~…。いいなぁ、似合いそうって思うの、特に高い~」


 開かれているページは、ブランド物の時計がたくさん。


「ヤダ~。こんな高いの、俺でも買えない~」


 いつの間に来たのか、ジャージ姿の梅吉さんが横から覗き込んできました。


「大学生の時、OLの彼女さんに買ってもらったヤツ、高いでしょ?」


「さすが、我が妹。目ざとい。でもね、あの腕時計は、別れる時に回収されました。これは、自腹よん」


 そう言って、梅吉さんは自分の顔まで左手を上げました。今、梅吉さんの手首にはまっているのは、スタイリッシュなランナーウォッチです。


「… 梅吉兄さんは、何が欲しいの?」


 ストローを咥えたまま、主が困ったように眉を寄せると、いつも以上に幼く見えます。


「俺? んー… 実際、物欲は無いんだよね。ゆっくりできる時間とか、寝坊したいとか、そんなんばっか」


「時間かぁ~…」


 主、ますます悩みます。


「あ、ウメちゃん、また来てる」


「ねぇねぇ、ウメちゃん、これあげる~」


 昼休みがそろそろ終わるからと、教室に戻ってきた女子生徒に、梅吉さんは色んなお菓子のお裾分けを貰いました。


「お、美味しそう~。ありがとな~」


 さっそく、大きめのキャンディーを1つ頬張りました。左の頬が、ぷくっ! と膨らみました。


「やだ、ウメちゃん可愛い」


「ウメちゃん、午後の授業ないの? うちらと一緒に受ける?」


梅吉さん、人気です。男子生徒も寄ってきました。そんな梅吉さんを見ても、桃華ちゃんは慣れっこなので何とも思わず、目の前の週刊誌のページをめくっています。


「え~、このクラス次の授業、笠原先生でしょ?虐められるから、職員室に帰る~」


「確かに、いじられるね」


ほい。っと、男子生徒が、グミをくれました。


「ウメちゃん、早くしないと、笠原先生来ちゃうよ~」


「無事、帰れなくなるよ~」


「やばいやばい。皆、ありがとうな~。職員室でツマミながら、まったりしてるわ」


 数人の生徒とやり取りをした後、梅吉さんは主と桃華ちゃんの頭を軽くポンポンとして、職員室に戻りました。生徒達も、授業の準備を始めました。


「… 桃ちゃん、私、決めた!」


 そのやり取りを聞いて、主は何か閃いたようです。その勢いに、桃華ちゃんは驚きました。


「私でも出来るの、あった。多分、だけど…」


 驚いた桃華ちゃんをしり目に、主は松橋さんの所へ、駆けて行きました。


「何を作るか分からないけど… 間に合うのかしら?」


 何やら松橋さんにお願いをしている主を見て、桃華ちゃんは『何か作る』と予想したようです。


プレゼントを贈るのは8月5日です。あと、2週間ほどですが… 主、間に合いますか?






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