皆さんこんにちは。お久しぶりの、カエルです。
夏休みが始まりました。僕の主の
お買い物、お昼や夕飯の準備、お店のお手伝い、文化祭に出展する作品制作… 時間がいくらあっても足りません。
そうそう、夏休みの宿題もですね。これは、双子君と桃華ちゃんと、皆でダイニングのローテーブルでやります。時間がある時は、梅吉さん、
そんな夏休みですが、この3日間、主はちょっとだけ元気がありません。大好きな三鷹さんが、剣道の合宿に行ってしまったからです。
「そっか、剣道部は合宿かあ~。でも、剣道部もインターハイ出場、ダメだったんでしょ?」
今日は、お昼過ぎからお友達が来て、夏休みの宿題や文化祭の準備を、各自で課題を持ち寄っています。
白川家ダイニングのローテーブルには、色々なものが広がっています。宿題、雑誌、参考書、化粧道具…
大森さんは、田中さんに教わりながら宿題を進めていますが、手より口が良く動いていますね。
「3年生は、合宿が終わったら引退するみたい。実質、合宿のお手伝いに行った感じね」
口も手も、よく動いているのは桃華ちゃんです。真っ白な糸を、一番細い編み針で、細かい細かいレース編みをしています。僕の主には、絶対できませんね。
「今年は、不作だわ。バスケ部もバレー部も… 望みがあるのはテニスと野球かしら?
問5、訳が違う」
田中さんは、数冊の雑誌と色々なメイク道具を広げて、何やら見比べながら、大森さんの宿題も見ています。抜かりないです。
「近藤先輩、いつ退院?」
「あ、今月の中間にもう一度手術して、その経過しだいみたいですが… 早くて9月中ぐらいとか」
桃華ちゃんに聞かれて、松橋さんも手を休ませることなく答えます。松橋さんは、真っ赤な布を縫っています。
「で、白川さんは、水島先生とどこまで進んでるの?」
「どこまでって?」
大森さん、宿題に飽きたようです。シャーペンをノートの上に転がして、主に聞きました。
「体育祭で、あんな美味しいシィーンを見せてくれたんだから、期待しちゃう」
ドキドキワクワクしている大森さんを前に、宿題をしている主は、キョトンとしていました。
「んー… 何にも、無いかな?」
コテン、と小首をかしげた主に、大森さんは不満そうです。
「無いのか~… じゃぁ、いつから? 水島先生とは、いつ知り合ったの?」
そんな大森さんの顔を、田中さんがいじり始めました。まず、長めの前髪を、ダッカールピンで左右に固定。脂取り紙で、余分な皮脂を取り…
「初めて一人で買い物に行って、雨に降られた所を、傘を貸してくれたとは聞いたけれど。
それが水島先生と分かったのは、なぜなのかしら? 顔、見えなかったんでしょ?」
田中さんは主に聞きながら、大森さんの顔に化粧下地を塗っていきます。
左右、違う色を…。
「制服が、梅吉兄さんと同じだったのと… 次の日ね、梅吉兄さんが学校から帰ってきて言ったの。
『三鷹、珍しく風邪ひいて休んだんだ。中学3年間で、初めてだ』って。
あとね、初めて三鷹さんが遊びに来た時、あの傘を貸してくれた人と同じ所に、ホクロがあったの。右手の親指の付け根に」
主、皆の前なのに、『
「変な人に声かけられたり、嫌な事されそうになったり、困ったことがあったら、いつも梅吉兄さんと三鷹さんが助けてくれて…」
主のシャーペンは、ノートに可愛らしい三鷹さんの顔を書いていました。
「本当に、カエルの王子様」
松橋さんの呟きに、主はニコニコしながら三鷹さんの顔に王冠を書き加えました。
大森さんの顔は、少しづつお化粧が進んでいきます。左右、違う風に。
「カエルの王子様は、ジェントルマンなのかしら?」
田中さんは、数冊の雑誌を見比べながら、大森さんの顔を変えていきます。
「頑張って、ジェントルマンであろうとしているよ。はい、頑張っているレディー達に差し入れー」
そんな女子の中に、梅吉さんがケーキの箱を投入しました。テーブルの中央に置くと、女子達はパッと、注目しました。
「… 大森さん、随分と、前衛的なメイクだね」
「私、文化祭のクラス出し物、メイク担当になったので、研究です」
大森さんの顔に驚いた梅吉さんに、田中さんがシレっと言いました。
「おねぇちゃん、桃ちゃん、ただいま~」
「二人とも、まずは手洗いと、うがい」
梅吉さんに続いて、夏色に焼けた双子君が、元気よくプールから帰ってきました。その後を、アロハシャツ姿の笠原先生が追いかけて来て、洗面所へと促します。双子君は元気よくお姉ちゃんのお友達に挨拶をして、そのまま洗面台へと向かいました。
「あ、洗濯物、出しといてね」
そんな双子君に、桃華ちゃんが声を掛けました。
「梅吉兄さん、笠原先生、ありがとうございます。今、紅茶入れますね」
「あ、桜雨、新しい茶葉、母さんがお店から持って来てたから、それがいいわ」
主は双子君の後を追う梅吉さんと笠原先生に声をかけて、キッチンに向かいました。桃華ちゃんの声を聞いて、東条家のキッチンに。どちらも、使い慣れたキッチンです。
「あら?双子君のプールバック… 見覚えがあるわ」
「あれね、水島先生のお手製。皆、スズランテープで何かしら作ったじゃない? 水島先生、あれ作ったのよ」
言いながら、桃華ちゃんは主のお手伝いに向かいました。
双子君の持っているプールバックは、青いズボンを履いた丸く黄色いモンスターで、大きな目が1つと、大きな口が特徴です。飛行機に乗る時につけるような、ゴーグルもついています。アメリカアニメのキャラクターで、とても良くできていて、貰った時、双子君は大びでした。お友達にも羨ましがられているようで、プールバックを持っていくときは、ちょっと得意げな顔をしています。
「「上手」」
大森さんと田中さんの声がそろいました。
家の電話が鳴りました。
東条家の方です。
「あ、私でるわ」
「ああ、その声は東条君かな? 沢渡です。東条先生のスマホ、電源が切れているようで… 東条先生、いますか?」
それは、三鷹さんと一緒に剣道部の合宿に行っている、顧問の沢渡先生からでした。