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第38話 夏休みもやることがタップリです

 皆さんこんにちは。お久しぶりの、カエルです。

 夏休みが始まりました。僕の主の桜雨おうめちゃんは、朝から大忙しです。朝食作りから始まって、掃除や洗濯、双子君のお世話を桃華ももかちゃんと手分けして片付けていきます。

 お買い物、お昼や夕飯の準備、お店のお手伝い、文化祭に出展する作品制作… 時間がいくらあっても足りません。

 そうそう、夏休みの宿題もですね。これは、双子君と桃華ちゃんと、皆でダイニングのローテーブルでやります。時間がある時は、梅吉さん、三鷹みたかさん、笠原先生が見て、教えてくれたりもします。

 そんな夏休みですが、この3日間、主はちょっとだけ元気がありません。大好きな三鷹さんが、剣道の合宿に行ってしまったからです。


「そっか、剣道部は合宿かあ~。でも、剣道部もインターハイ出場、ダメだったんでしょ?」


 今日は、お昼過ぎからお友達が来て、夏休みの宿題や文化祭の準備を、各自で課題を持ち寄っています。

 白川家ダイニングのローテーブルには、色々なものが広がっています。宿題、雑誌、参考書、化粧道具…


 大森さんは、田中さんに教わりながら宿題を進めていますが、手より口が良く動いていますね。


「3年生は、合宿が終わったら引退するみたい。実質、合宿のお手伝いに行った感じね」


 口も手も、よく動いているのは桃華ちゃんです。真っ白な糸を、一番細い編み針で、細かい細かいレース編みをしています。僕の主には、絶対できませんね。


「今年は、不作だわ。バスケ部もバレー部も… 望みがあるのはテニスと野球かしら?

 問5、訳が違う」


 田中さんは、数冊の雑誌と色々なメイク道具を広げて、何やら見比べながら、大森さんの宿題も見ています。抜かりないです。


「近藤先輩、いつ退院?」


「あ、今月の中間にもう一度手術して、その経過しだいみたいですが… 早くて9月中ぐらいとか」


 桃華ちゃんに聞かれて、松橋さんも手を休ませることなく答えます。松橋さんは、真っ赤な布を縫っています。


「で、白川さんは、水島先生とどこまで進んでるの?」


「どこまでって?」


 大森さん、宿題に飽きたようです。シャーペンをノートの上に転がして、主に聞きました。


「体育祭で、あんな美味しいシィーンを見せてくれたんだから、期待しちゃう」


 ドキドキワクワクしている大森さんを前に、宿題をしている主は、キョトンとしていました。


「んー… 何にも、無いかな?」


 コテン、と小首をかしげた主に、大森さんは不満そうです。


「無いのか~… じゃぁ、いつから? 水島先生とは、いつ知り合ったの?」


 そんな大森さんの顔を、田中さんがいじり始めました。まず、長めの前髪を、ダッカールピンで左右に固定。脂取り紙で、余分な皮脂を取り…


「初めて一人で買い物に行って、雨に降られた所を、傘を貸してくれたとは聞いたけれど。

 それが水島先生と分かったのは、なぜなのかしら? 顔、見えなかったんでしょ?」


 田中さんは主に聞きながら、大森さんの顔に化粧下地を塗っていきます。

左右、違う色を…。


「制服が、梅吉兄さんと同じだったのと… 次の日ね、梅吉兄さんが学校から帰ってきて言ったの。


『三鷹、珍しく風邪ひいて休んだんだ。中学3年間で、初めてだ』って。


 あとね、初めて三鷹さんが遊びに来た時、あの傘を貸してくれた人と同じ所に、ホクロがあったの。右手の親指の付け根に」


 主、皆の前なのに、『三鷹みたかさん』呼びになっているのに、気が付いていません。


「変な人に声かけられたり、嫌な事されそうになったり、困ったことがあったら、いつも梅吉兄さんと三鷹さんが助けてくれて…」


 主のシャーペンは、ノートに可愛らしい三鷹さんの顔を書いていました。


「本当に、カエルの王子様」


 松橋さんの呟きに、主はニコニコしながら三鷹さんの顔に王冠を書き加えました。

 大森さんの顔は、少しづつお化粧が進んでいきます。左右、違う風に。


「カエルの王子様は、ジェントルマンなのかしら?」


田中さんは、数冊の雑誌を見比べながら、大森さんの顔を変えていきます。


「頑張って、ジェントルマンであろうとしているよ。はい、頑張っているレディー達に差し入れー」


 そんな女子の中に、梅吉さんがケーキの箱を投入しました。テーブルの中央に置くと、女子達はパッと、注目しました。


「… 大森さん、随分と、前衛的なメイクだね」


「私、文化祭のクラス出し物、メイク担当になったので、研究です」


 大森さんの顔に驚いた梅吉さんに、田中さんがシレっと言いました。


「おねぇちゃん、桃ちゃん、ただいま~」


「二人とも、まずは手洗いと、うがい」


 梅吉さんに続いて、夏色に焼けた双子君が、元気よくプールから帰ってきました。その後を、アロハシャツ姿の笠原先生が追いかけて来て、洗面所へと促します。双子君は元気よくお姉ちゃんのお友達に挨拶をして、そのまま洗面台へと向かいました。


「あ、洗濯物、出しといてね」


 そんな双子君に、桃華ちゃんが声を掛けました。


「梅吉兄さん、笠原先生、ありがとうございます。今、紅茶入れますね」


「あ、桜雨、新しい茶葉、母さんがお店から持って来てたから、それがいいわ」


 主は双子君の後を追う梅吉さんと笠原先生に声をかけて、キッチンに向かいました。桃華ちゃんの声を聞いて、東条家のキッチンに。どちらも、使い慣れたキッチンです。


「あら?双子君のプールバック… 見覚えがあるわ」


「あれね、水島先生のお手製。皆、スズランテープで何かしら作ったじゃない? 水島先生、あれ作ったのよ」


 言いながら、桃華ちゃんは主のお手伝いに向かいました。


 双子君の持っているプールバックは、青いズボンを履いた丸く黄色いモンスターで、大きな目が1つと、大きな口が特徴です。飛行機に乗る時につけるような、ゴーグルもついています。アメリカアニメのキャラクターで、とても良くできていて、貰った時、双子君は大びでした。お友達にも羨ましがられているようで、プールバックを持っていくときは、ちょっと得意げな顔をしています。


「「上手」」


 大森さんと田中さんの声がそろいました。


 家の電話が鳴りました。

 東条家の方です。


「あ、私でるわ」


 桃華ももかちゃんが電話に出ると、聞き覚えのある声が受話器から流れてきました。


「ああ、その声は東条君かな? 沢渡です。東条先生のスマホ、電源が切れているようで… 東条先生、いますか?」


 それは、三鷹さんと一緒に剣道部の合宿に行っている、顧問の沢渡先生からでした。


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