主と
「それでは、これから2学年代表女子による『借り物競争』を行います。
各クラス2名の代表者の皆さん、二人三脚でのスタートになりますので、準備をお願いします」
借り物競争です。アナウンスに従って、主の右足首と桃華ちゃんの左足首が結ばれました。身長差は15センチありますが、息はピッタリ! 他の選手には絶対に敗けません!!
「それでは… よーいドン!!」
ピストルの音で、8組16人の選手が二人三脚で飛び出しました。
「さぁ、始まりました、2学年代表女子による借り物競争。まずは、二人三脚でのスタートです。
予想通り、B組の従姉妹コンビが絶好調のスタートを切りました。各クラス、身長の近いコンビを代表に選出しましたが、B組だけは違います。身長差なんて関係なし! お互いの歩調を知り尽くした鉄壁の信頼感! 2人で1人とは、この2人の為にある言葉です。その足取りは、まるでダンスのステップを踏んでいるかのように軽やかで、二人の表情もとても優雅です。そんなB組従姉妹コンビ、他のコンビに大差をつけて、今、第一関門に到着しました。
他のコンビは、悪戦苦闘しております。第一関門は、粉がたっぷり入ったお盆の中から、口でキャンディを探し出してください。もちろん、2人ともお願いします」
主と桃華ちゃんは、スキップ感覚で走っていたので、息も切れてないです。目の前の机には、白い粉がたくさん入った、大きなお盆が2つ置かれています。桃華ちゃんと主は前髪を両手で上げて、同時にそのお盆に顔を埋めました。
「おおっと、従姉妹コンビの花の
ああ、佐々木先輩、そんなに主と桃華ちゃんを褒めると… セキュリティが発動しますよ。ほら、ジャージに着替えた梅吉さんと
「B組従姉妹コンビが引き続き二人三脚で、第二喚問に向かいました。
ぞくぞくと、他のコンビが第一関門に到着しました。皆さん、お顔を白クマやアザラシの赤ちゃんの様に真っ白にして、可愛いですね~。おっと、鼻息で粉を飛ばす荒業が出ました! なぜ、口ではないのでしょうか?
そうこうしているうちに、従姉妹コンビは第二喚問の風船割りゲームに到着です。1人が風船を膨らませて、もう一人が椅子に座り、お尻で風船を割るゲームです。風船が大きければ割れやすいですが、膨らませるには時間がかかります。小さく膨らませれば、時間短縮になりますが、割れにくいです。ちなみに、風船は特殊ゴムを使用していますので、通常の風船の2倍は硬いです。
どうやら、東条さんが風船を膨らませるようです… が、やはり手こずっているようです。なかなか、膨らみません。
その間にE組の柔道部重量級コンビ、D組の才女コンビが追いつきました。
さすが、柔道部重量級コンビ!素晴らしい肺活量で一気に風船を膨らまし、ムッチリヒップで一気に炸裂です!第二喚問での所要時間は2分もありません。
B組、D組コンビは、お顔が真っ赤っかですがまだ膨らみません! A組、C組、H組、E組、F組と、追いつきました。
ここで、1分頑張っても膨らまないコンビには、お助けアイテムが登場します。シンプルですが、空気入れです。水風船を膨らませる奴ですね。今、そのお助けアイテムを使って、B組D組コンビが風船を膨らませ終わりました。
おっと、D組、早くもお尻で割って第二関門突破です。
B組白川さんは、勢いが足りなかったのか、風船に押し返されてしまいました。2度目のチャレンジで、見事破裂!ようやく第二関門突破ですが、C組E組F組にも抜かされました。
二人三脚で巻き返しを図りたいところですが、他のコンビも慣れてきた模様。あまり差は縮まりません。しかも、次の第三関門は最終関門です。ここで、コンビの足枷を解き、個人個人で借り物の描かれた用紙を引いてください」
実況の通り、係の生徒さんが、大きな箱を持ってきました。順番に箱に手を入れて、紙を引きます。
「借り物は、会場内でお願いします。借りたら、赤い旗からトラックを半周してゴールとなりますが… 皆さん、なかなか苦戦していますね。なんて書いてあるのでしょうか?
おっと、ここでE組の関根さんが柔道部顧問の浜口先生を引き連れてトラックを走り始めました。が… 浜口先生、頑張ってください! その体格で、トラック半周は辛いと思います。フヒィフヒィ呼吸が、ここまで聞こえています。明日の膝がとても心配ですが、今は可愛い教え子の為、走ってください! 歩かないで~!!! ほら、H組の東さんに抜かされた~。こちらは、1年英語教員の山根先生と一緒です。そして今、ゴール!!」
「では、借り物の確認をします。この借り物競争は、物だけでなく、誰に借りたかも重要です」
係の生徒にマイクが渡りました。
「東さん、借り物は何で、どなたから借りました?」
「借り物は『かつら』です。『山根先生』のものです」
そう言うと、東さんは容赦なく隣の山根先生の頭から、かつらをはぎ取りました。ギャラリーは大盛り上がりです。山根先生も普段かつらをネタにしているだけあって、ツルツルの頭で優雅なお辞儀をしています。
「関根さん、借り物は何で、どなたから借りました?」
「借り物は『肉』で、『浜口先生』から借りました」
得意げな関根さんに、周りは拍手喝采です。
そんな盛り上がっているギャラリーの中を、主と桃華ちゃんは、並んでキョロキョロと誰かを探しています。
「兄さん!!」
放送部のテント、実況の佐々木先輩の後ろに立つ梅吉さんを見つけて、桃華ちゃんは大きく手を振りました。
「俺?」
自分を指さす梅吉さんに、主と桃華ちゃんは「違うと」首を振りながら駆け寄りました。梅吉さんと三鷹さんも放送部のテントから出てきました。
「俺じゃないの?」
「兄さん探せば、いると思ったのよ。笠原先生、貸して」
「な~んだ、兄さんじゃないのか。笠原~」
可愛い妹に振られて、梅吉さんは残念そうに放送部のテントを振り返りました。名前を呼ばれた笠原先生は、放送部のテントの後ろでお茶を飲んでいました。
「先生、白衣」
「はいはい」
桃華ちゃんのリクエストに、笠原先生は教員席に向かい、その後ろを桃華さんがくっついていきました。
「桜雨ちゃんは?」
「あ、私は… あの、水島先生、お願いがあるんです」
梅吉さんに聞かれて、主は恥ずかしそうに三鷹さんに向かって背伸びをしました。すると、三鷹さんはスッとしゃがんで、主に耳を出しました。
「おっと、2年世界史担当の水島先生、B組白川さんに向かって跪いて… 抱き上げました! 軽々と、白川さんをお姫様抱っこで走り始めました! ジャージですが、優雅な物腰はまるで王子様です!
その後ろを、B組の東条さんと2年科学担当の笠原先生が追いかけます。
笠原先生、トレードマークの白衣を羽織っています。
ここで、水島王子と白川姫がゴール。続いて、東条さんと笠原先生がゴールしました」
三鷹さんは、ゆっくりと主を下ろしてくれました。そこに、マイクを持った係の生徒が来ました。
「では、白川さん、借り物は何で、どなたから借りました?」
「はい、借りたモノは『王子様』です。
『東条先生』から、借りました」
「なるほど! だから、跪きからのお姫抱っこ!! 確かに、東条先生は上司ではありませんが、水島先生をコントロールするには右に出る人はいません! お見事です!!」
佐々木先輩の解説で、ギャラリーから歓声が上がりました。主は恥ずかしそうに、三鷹さんと視線を合わせて微笑みました。
「では、東条さん、借りた物は何で、どなたから借りました?」
「『マッドサイエンティスト』です。借りたのは、『東条先生』です」
シレっと答える桃華さんと、隣でシレっと白衣姿で立っている笠原先生。そんな二人に、ギャラリーから納得の歓声が上がりました。
続々と他の選手がゴールしてくる中で、主は三鷹さんに抱っこされて上がった体温を下げるのに、両手で顔を仰いでいました。それを見た三鷹さんが、そっと、ポケットからハンカチを差し出してくれました。綺麗な若葉色のハンカチを借りて、汗を拭いていた主ですが… 体の温度はさらに上がりました。