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第16話 体育祭・今年度初の幸運をゲットするのは?

■その16 体育祭・今年度初の幸運をゲットするのは?■


 お昼は、どのテントでも、担任や他の先生たちも一緒に和気あいあいと食べていました。主のテントには、担任の笠原先生はもちろん、梅吉さんと三鷹みたかさんも一緒です。松橋さん、大森さん、田中さんも一緒になって食べました。と言いますか、主と桃華ももかちゃんが3人のお弁当も持って来ていたので、来ないとお昼抜きなのです。

 今日のお弁当は、3段のお重に詰め込まれた6人分。主と桃華ちゃんのお母さん2人の力作で、5人の苦手な食材は抜いてありました。母の愛ですね。


 そんな平和なお昼が終わり、再び戦いの運動場へ…

 放送部3年・佐々木先輩の実況で、プログラムは順調に進みました。

そして…


「それでは、お待たせいたしました、ここで運動部の皆様の出番です。

3年生にとっては最期のインターハイをかけた、選抜大会前の大事な時。

ここで怪我をするわけにはいきませんが、集大成も披露していただきたいところ!

 なので、各部の代表4名と顧問の計各5名の対抗リレーとします。部活のユニホーム着用で、バトンは各部で使用している道具でお願いします。

 この競技では特別審査員賞として、面白かった部活には、今年度予算を5千円アップしてあげるよ。と、校長からのお言葉です」


 佐々木先輩のアナウンスに、あちらこちらの運動部員達の口から


「もう一声!」


「もう5千!!」


と、値上げの声が上がりました。


「え~… じゃあ、とっても面白かったら1万円アップね。頑張ってね」


「うおおおおおおおお!!!!」


 校長のアナウンスに、中央運動場の温度は怒涛どとうの様な声で一気に上がりました。そして、スタートラインに並ぶ各部活代表…


「サッカー部、野球部、バスケット部、バレー部、ラグビー部は、それぞれのボールをバトンにするようですが、球体は意外と渡しにくいかもしれないですね。

 他の選手の安全確保のため、『バトン』は必ず持ってください。蹴ったり、ドリブルはしないでください。

 バスケット部顧問の東条先生は、生徒に溶け込み切っていますね。1年に新任してきた小暮先生は、バレー部副顧問として参加です。こちらも、生徒と言われても違和感がありません。

 ソフトボール部は、バットですね。バトンと似ているので、パスがしやすそうです。

 硬式テニス部、軟式テニス部、バトミントン部、卓球部はラケット。陸上部は普通のバトンでは面白くないからと、砲丸投げの4キロ砲丸を用意した模様。お願いですから、足には落とさないでください。フリではないですからね。

 ダンス部はリボンです。ビート版のバトンより、その恰好に目が行く水泳部は、海パン1枚です。もちろん、顧問の小池先生も海パン1枚ですが、10歳年下の奥様はOKしたのでしょうか?

 袴姿で籠手を装備した弓道部は弓。袴姿に防具と面、籠手までフル装備した剣道部は竹刀。水島先生の顔が面で見えないと、女子生徒からクレームが上がっていますが、そんなの知ったこっちゃありません。

 柔道着の柔道部は畳2枚を担いで走るらしいですが、去年より1枚増えましたね。

 袴姿に籠手と拗ね当ての、こちらもフル装備の薙刀部は、薙刀。新任の三島先生は、実は薙刀経験者だそうで、今年度副顧問となりました。今日は部費獲得のため、頑張ってくれるそうです。

 空手部は瓦2枚とのことですが、途中で割ったりしないでください。

 では、皆さん、位置について… スタート!!!」


 ピストルの音と共に、各部活の選手が一気に走り始めました。


「やはり、球技やダンスといった部活はユニホームも軽いので、走りやすそうです。

 袴姿の部活も、日ごろの鍛錬の成果でしょうか、遅れは取っていません。

この炎天下、よくそんな恰好で走れるものだと感心しています。

 感心といえば、水泳部です。パン1姿はある意味勇者ですが、ただ走るのではなくさらに、上半身は泳ぎながらです。さしずめ、地上のメドレーリレーといったところでしょうか。

 そして、畳2枚を担いだ柔道部ですが、流石と言いますか馬鹿力といいますか、あの重さを背中に、確り走っています。

 そして、よく見たら足元は下駄の空手部!音が凄いです、煩いです。一部の年配の先生方に大うけです。」


 佐々木先輩の実況もあって、どこのクラスのテントからも、大きな声援が飛んでいます。主も桃ちゃんも、一生懸命応援しています。


「さぁ、ここで早い部はアンカーの顧問にバトンが渡りました。アンカーはトラック2周ですが、さすが運動部です。

 ユニフォームやバトンの形状は、あまりハンディにはなっていなかったようで、現在1位のサッカー部と最後の剣道部、あまり差がありません。

 ここは、顧問の先生方の力の見せ所でしょう!さぁ、先生方、意地を見せてください!!」


 梅吉さんは3番目、小暮先生は5番目、三島先生は15番目、三鷹さんは最期の18番目に、それぞれが『バトン』を受け取り、走り出しました。


「「東条先生、頑張ってー!」」


「ウメちゃん、頑張ってー!」


 応援する主達に、梅吉さんはニッコリ笑って手を振りました。メチャクチャ余裕でしたが、小暮先生に抜かされた瞬間、一気にスピードを上げて抜かし返しました。


「「水島先生、頑張ってー!」」


 最後に『バトン』を受け取った三鷹さんは、主の声を聞くと今まで見たことのない走りを見せました。


「トラックも残り半分と言ったところで、先生方の息が上がってきました。

倒れていきます、どんどん、倒れていきます。さすがに、生徒と同じ条件はキツイか?!

 そんな先生方の中で、やっぱり元気なのは東条先生、と水島先生です!

新任の小暮先生も健闘していますが、今、フル装備の剣道部副顧問の水島先生に抜かされ、3位になりました。装備的には有利な東条先生が、このまま逃げ切れるでしょうか?

 あと10メートル… 5メートル… 3メートル…」


 周りの応援は、梅吉さんと三鷹さんに分かれました。凄い声援です。


「やりました! 東条先生、逃げ切りました! しかし、本当に凄いのは、最下位から数センチの差まで追い上げた水島先生です! 剣道のフル装備で、竹刀をバトンにあのスピードは、人間離れしています。

 ここで、3位の小暮先生がゴールしました」


 さすがに疲れたのか、梅吉さんと三鷹さんは、ゴールした生徒に混ざって、一緒に座り込みました。


「最後の柔道部が、今、ゴールしました!さすがに、58歳の細身で、畳2畳は見ているこちらも辛いです!堀切先生、お疲れさまでした!

 これにて、部活顧問拷問リレーを終わります」


 最後の先生がゴールすると、各部の選手は、疲れきって座り込んだ顧問を引きずって退場していきました。

 三島先生や、小暮先生も、生徒に肩を借りているのに、梅吉さんと三鷹さんだけはちゃんと自分で歩いて退場です。


「ちょっと、おトイレ行ってくるね」


「私も~」


 そんな二人を見て、主は僕の入った手提げバックを持って、テントを離れました。

 桃華ちゃんは、使っていた水筒とは違うもう1本の水筒を持って、主の後ろについていきました。


 向かった先は、体育祭会場の中央運動場からちょっと離れた校舎の影でした。人影のない校舎の裏で、梅吉さんと三鷹さんが日光から逃げるように、日陰で寝っ転がっていました。

 三鷹さん、なんとか面だけは取ったみたいです。頭に巻いている手拭いも、流れる汗もそのままで、目をきつく瞑っています。


「カッコ付けるから」


 呆れながらも、桃華さんは持って来た水筒を、梅吉さんに渡しました。


「可愛い妹達に、カッコいいお兄ちゃんを見せたいからね」


 梅吉さんは上半身を起こして水筒を受け取ると、一気に中身をあおりました。


「本音は?」


「小暮先生には負けたくない」


 そう言って、梅吉さんは大きく後ろに倒れ込みました。


「お疲れ様です。カッコよかったです」


 主は優しく微笑みながら、手提げ袋から僕を出しました。ポン!と開いたかと思ったら、三鷹さんの顔を隠すように、地面に置かれました。


「5分。5分経ったら、起こすから」


 そう言って、桃華ちゃんは梅吉さんの隣。主は三鷹さんの隣にそれぞれ座って、爽やかな風を感じながら、空を見上げました。

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