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第14話 体育祭・スタートからメイン競技?

 良く晴れた、爽やかな風が吹く5月某日。はくおう私立高等学校、第86回体育祭が開催されます。

 高等部の生徒全員が集まるのは、校内で一番大きい中央運動場。まだ5月と言っても、紫外線は半端ない強さです。お年頃の生徒の健康状態とお肌を考慮して、各クラスの応援席と中等部有志、保護者応援席にはテントが設置されています。最近の男子は女子同様、美肌に熱心な子が多いのか、日焼け止めを念入りに塗っている子が目立ちます。けれど、中途半端な日焼けは嫌なのか、体操着の袖をまくり上げ、ハーフパンツ丈のジャージもまくっている子も多いです。

 今日は、『カエル』ことおうちゃんの傘の僕は、 主のクラステントの下の椅子の上で応援です。


「開会式を始めます。生徒の皆さんは、各クラステントにお戻りください」


 係活動やお友達と話していた子達が、ざわざわと各テントへと戻っていきます。5分もすると、大きな運動場は怖いぐらい静まり返りました。


「え~… テスト、テスト…」


一瞬、キィーン… とハウリングするのはお約束ですね。


「皆さん、おはようございます。校長のはけです。

 体調や怪我に気を付けて、頑張ってください。はい、終わり」


 何処からともなく、しわがれたおじちゃんの声が、マイクに乗って運動場に響き渡りました。校長挨拶は、どんな行事でも短いので、生徒たちは校長先生が大好きです。


「はい、校長先生、ご挨拶有難うございました。

 ここから先は、騎馬戦の練習中に落馬して左手左足を骨折しました私、放送部3年・佐々ささきほまれが実況を担当させていただきます。一応、受験生なので、利き腕骨折ではなくて良かったです。

 なお、本日の記録は中等部高等部両放送部の全勢力を上げて記録・DVD及びブルーレイ等各種メディアへの編集・皆様への配布まで担当させていただきます。もちろん、この編集は高等部3年生の卒業制作となりますので、妥協は一切ございません。ご安心ください。また、写真に付きましては、こちらも中等部高等部両写真部の撮影となります。こちらも後日、学校専用アカウントにて現像希望をとりますので、お知らせをお待ちください。

なお、先日お配りしました『体育祭のお願い』にもありますが、本日の様子をご自身の各メディアで撮影されるのは構いませんが、本人承諾のない画像や動画のSNSへのアップはお控えください」


 どこで呼吸をしているの?と思うぐらい、ペラペラペラペラと流れる声を聞きながら、皆さんは各係の準備や応援準備に勤しんでいました。


「桜雨、私、1番のリレーだから行くね」


 主の従姉妹のももちゃんも、プログラム1番のクラス対抗リレーに出るため、クラスカラーの赤い鉢巻を頭に巻いて、テントから出ていきました。

 今日の桃華ちゃんは、勇ましく体操着の袖とジャージの裾をまくって、自慢の長い黒髪を高いポニーテールにしています。


「頑張ってね、桃ちゃん」


 主はテントの中央、一番前で応援です。


「では、プログラム1番、全学年混合クラス対抗リレーです。

 頭っから大盛り上がり間違いなしですが、今年のプログラム組んだ先生はどなたでしょうか?今後の盛り上がりを考えてるんでしょうか?

 おっと、そんな心配をしている場合ではありませんでした!今、ピストルの音でスタートが切られました!

 体力的には3年生が有利ですが、スポーツ科1年H組は陸上部の新星・小平こだいら君を最初から出してきました。スタートで差をつけるつもりでしょうか? 速い、速い、まるで草原を駆けるチーター! しかし、それを許さないのが2年A組… いや、A組コケました。あれは痛い! その巻き添えで3人ほど転んで団子状態です。救護班がでるか?

 おっと、そんな団子4兄弟を華麗に避けて、B組白桜の歌姫・東条さんが出てきました!小平君の後ろにピッタリついています。合唱部で鍛えた腹筋は伊達だてではないと言ったところでしょうか! 風になびくポニーテールが、長い手足が美しい!!!

 それにしても、その他の選手は団子状態です。状況を見ていられる距離でもありません! そんな事を言っているうちに、小平君と東条さんはバトンタッチです! バトンを渡す姿もスマートだ!!」


 この実況をしている先輩の将来の夢は、きっとアナウンサーだ。生徒も皆慣れているみたいで、各クラステントは応援で大盛り上がり。主も、立ち上がって、声を張り上げてました。


「ゴーーーーールゥゥゥ!!!!

やはり強かった! やはり強かった! スポーツ科推進すいしんコース3年H組! 3年の意地を見せた!! 続いて同じくスポすい3年G組・2年H組… ここで来た! 頑張った! スポーツ科に敗けずに食らいついた普通科進学コース2年B組!

 もう少し粘りたかったが健闘したぞ、スポーツ科1年H組!」


 この先輩、最初からこんな調子で、今日一日もつんでしょうか? そんな心配をよそに、実況は次々とゴールするクラスを発表していきます。


「東条さん、凄いね」


「うん、桃ちゃん凄いの」


 係で席を外れていた松橋さんが、主の隣に座りました。主は自分が走ったかの如く、汗拭き用のタオルを握って、大興奮です。


「プログラム4番、棒倒しの準備、お願いします」


 テントの後ろで、進行係が声を上げていました。


「白川さん、行かないと」


「うん」


 まだ、興奮冷めやらない主を促して、松橋さんは席を立ちました。


「さ、私も頑張ろ~」


 主は立ち上がると、首からリボンにして下げていた鉢巻を、キュッと頭に巻き気合を入れて、集合場所へと向かいました。




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