目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第3話 過保護軍団

 皆さんこんにちは。おうちゃんの傘の『カエル』です。 ただいま、定刻より少し遅れて、新入生レクリエーションが始まりました。

今年の一年生は中等部からの持ち上がりが158名、外部入試が164名の合計322名だそうです。1年生では、普通科・特進科・商業科・スポーツ科とコースが分かれます。2年生では、さらにそのコースが細分化されて、先生たちのきめ細かい指導が受けられるそうです。主と桃華ももかちゃんは、普通科を選び、今年からは普通科の進学コースを選択しました。クラスはこんな感じに分かれますが、部活に関しては希望したものに入部できます。教科担当の先生も、コースの垣根を越えて時間を持ったりするので、新入生レクリエーションは、高等部の全学年が入れる第一講堂で一斉に行われます。


 体育館の前の方に新一年生が座り、後ろに部活紹介の先輩たち、そんな生徒を囲む様に、先生たちは壁際に並んで座っています。なので、この時間は主と桃華ちゃんは別々に座っています。

 梅吉さんはバスケットの黒いユニホーム姿、三鷹みたかさんは白の剣道着姿で、笠原先生はいつも通りの白衣姿で並んで端っこに座っています。

舞台の上には、1年生に関わる先生方が並んで、端っこから順番に紹介されていました。


「では、次は普通科国語担当、小暮こぐれ和良かずよし先生・・・」


「皆さん始めまして。僕も皆さんと同じく、数年前は白桜の生徒でした。

今春からは教師として、皆さんと頑張っていきたいと思います。宜しくお願いします」


 カゲロウのように存在も頭も薄い教頭先生から紹介されたのは、さっき、樹に登った主に手を差し出した男の人でした。


「職員室で紹介された?初めて見る顔。俺らと同い年だって。… 同級生に、居たか?」


 左に三鷹さん、右に笠原先生の配置で、真ん中の梅吉さんは呟きました。


「最近、朝の職員会議、出ていなかったからな。『白桜はくおうの王子』だったお前に目元や雰囲気は似ているから、在学時代はモテただろうな」


 笠原先生は白衣の左右のポケットに両手をつ込んだまま、少し猫背になっている肩を少し前に出して、銀縁眼鏡の奥の目を細めながら舞台上の小暮先生を見ました。


「… やっぱり、見覚えはないな」


 けれど、覚えのない顔に、パイプ椅子の背もたれに背中を預けると、少しだけズルズルとお尻を下げました。


「やだやだ、似てるなんて。… なんだか、キャラが被ってるよね。まぁ、特進科の留学コースなら、顔も名前も知らないけどね」


 笠原先生に言われて、梅吉さんはちょっとだけ眉間に皺を寄せました。梅吉さんが言う、特進科・留学コースは2年生に進級して早々に海外の姉妹校に約1年間の留学、3年生に進級してすぐに秋まで留学、卒業後の進路はほぼ海外の大学へ入学するそうで、ほとんど学校には居ないらしいです。ちなみに、梅吉さん・三鷹さん・笠原先生は普通科進学コースでした。


「では、次に…」


 舞台上の教員紹介そっちのけで、3人の会話は続きます。


「アイツ、早速、桜雨に手を出そうとしたらしい。

 何が子猫ちゃんよ!何が天使よ!!

って、桃華がプリプリ怒りながら報告してくれたよ」


 さすがお兄さん、妹のモノマネ、お上手ですね。そうなんです。集合場所に戻った主と桃華ちゃんは、各部の点呼をしていた梅吉さんに、つい今さっき合った事を報告しました。取れちゃったリボンを、梅吉さんに結んでもらいながら。

 まぁ、プリプリしていたのは、桃華ちゃんだけでしたが… 主は…


「三鷹さんが、助けてくれたの…。久しぶりに名前、呼んでもらっちゃった…。

ぽッ… って、可愛らしく頬を染めてたんだけど、ナニあれ? 可愛すぎたんだけど。ってか、学校で名前呼ぶなんて、三鷹みたか君てば、独占欲?」


今度は、主のモノマネをしてニンマリ笑って、三鷹さんの方を見ました。


「…」


 けれど、三鷹さんは黙ったままです。


「ま、独占欲でも焼きもちでも何でもいいさ、お前なら。変な男に触られなくって、良かったよ」


「いつもの事ながら… 東条妹も白川も、嫁にいけるのか?」


 梅吉さんの言葉を聞いて、笠原先生は呆れたように言いました。


「言っとくけど、俺と三鷹だけじゃないかんね。白川の両親と弟達、うちの両親も、桜雨おうめ桃華ももかが付き合う相手には一切の妥協はないよ。過保護って、自覚あるから」


「胸を張っていうことなのか? まぁ、あれだけ器量良しで性格もいいから、モテるのは必然だがな」


 言いながら、笠原先生が姿勢を治すタイミングで、舞台上に合唱部の皆さんが登壇しました。もちろん、センターを飾るのは桃華さんです。梅吉さんは、デレデレの笑顔で桃華さんを注目しています。


「ホント… 大変だ」


 そんな横顔を見て、笠原先生は今更ながらに溜め息をつきました。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?