「さっさと原因を特定しなさい! 吉良!!」
「わかっ、わかっています! だけど、どうしたらいいかわからないんですよ!! 沙夜子さん!!!」
盛大な音が鳴った。
決して小さくはない空間だった。
そのせいで普段は線香の匂いが絶えないどこか閉鎖的な空気が、吐き気を催すほどの異様な熱気に包まれてしまっていた。
「今は、あんただけが頼りなのよ。わかってるでしょ!? 私の
吐き気を催すのは空気のせいばかりではない。
眼前に広がる光景を見ていれば、おそらくはよほど免疫のある者以外は少なからず胃の辺りに込み上げるような圧迫感を覚えるだろう。
次から次へと押し寄せる人全てが同様の
もはや
頬はこけ、肉はこそぎ取られ、窪んだ
骨の上に皮が張り付き、その上に
また、盛大な音が一斉に鳴り響く。
それが合図かのようにその場にいた全員が呻き声とともに風に飛ばされていきそうな細枝に似た腕を上げた。
救いを求める全ての人間を漏らさず救済しようとする千手観音にすがるように。
「わかりました。わかっているんです。だけどこんなこと! だって『
歴史を
食糧供給が不足しがちだった古くから存在していた餓鬼と呼ばれる妖怪に取り憑かれると、食べても食べても極度の飢餓状態が続く身体へと変化してしまう。
「餓鬼憑き」は、ここ数年の学際領域の縦断的研究により、神経性無食欲症──いわゆる拒食症や過度なダイエットの原因の一つの可能性があると指摘されている。
一斉に空気を振動させたあの音は、空腹時にお腹の鳴るそれだった。
「そんなのわかるわけないじゃない! だけどよく見て!」
細長い形のいい白い手がそれの額に触れた。
瞬間、今にも椅子から転げ落ちそうなほどに前のめりに歪んでいた女性の骨が真直ぐに伸びて、まるで風船に空気を入れたように身体が頬が膨らんでいく。
取り憑いていた餓鬼が消え去り、肉が元の状態へと戻っていったのだ。
「ほら! これは明らかにあやかしの仕業よ!」
「そうなんだ。そうなんだけど……」
茶色がかった切れ長の黒い瞳に睨まれて、吉良はついには頭を抱えてしまった。
こんなこと普通なら起こりえないんだ。餓鬼がこんなに発生するわけが──。
けたたましいサイレンの音に突然思考は途絶される。
吉良は、壊れるのではないかと思うほど勢いよく開けられた襖の方を見た。
「死にました! 亡くなりました! 一人死亡が確認されました!!」
異様な空気に突き刺さる怯えた声は、はっきりとそう告げた。