アレク様と共に図書館から戻った私は、なぜか数人のメイド達に囲まれた。
彼女たちは、カーニャ国の王宮に使えているメイドだと私に告げる。みんな、顔を強張らせていたので、何事かと思っていると一番年上のメイドが代表して口を開いた。
「せ、せ、聖女様にお会いできて光栄です!」
手が小刻みにふるえているのは、怖がっているというより緊張しているみたい。
「わ、私たちは、第六王子殿下より、聖女様の舞踏会の準備を手伝うように申し付かっております」
「フィン様が……それは助かります!」
フリーベイン領のメイドたちは、アレク様の指示でカーニャ国には連れてきていない。移動が馬での長距離になることと、道中に魔物が出た場合、戦えないと足手まといになるという理由からだった。
だから、舞踏会前にカーニャ国でメイドを雇う手はずになっていたけど、身支度を手伝ってくれるのが、王宮メイドならこちらの国のしきたりに詳しいので心強い。
私は自分の両手をグッと握りしめた。
「よろしくお願いします!」
メイドたちはポカーンとそろって口を開けている。
「私、ずっと神殿にこもりきりで、おしゃれも流行も何もわからないんです。だから、あなた達の力で、私をアレク様の婚約者として恥ずかしくないように着飾らせてくださいね!」
必死にお願いすると、メイドたちは視線を交わし合いながら何度もうなずきあった。
「そういうことでしたらお任せください、聖女様!」
力強い返事をもらいながら、私と代表のメイドはガッチリと握手を交わした。
それからは、何をされているのかよくわからないけど、私はとにかくメイドたちの指示に従った。
「聖女様、こちらでうつぶせになって寝転んでください!」
「はい!」
数人がかりで全身をもみほぐしてもらったあとに、「身体の歪みを整えます。少しだけ痛いかもしれません」と言いながら一人のメイドが私の腕を持つ。
何をするのかしらと思っていると、私の腕がひねり上げられゴキゴキッと鈍い音を出した。
「いっ!」
「聖女様、痛いですか!?」
あわてるメイドに私は首をふる。
本当はすごく痛かったけど、これできれいになれるのなら我慢するわ!
「いえ、続けてください!」
「はい!」
きれいになるって大変なのね……。
私は体中をゴキゴキされながら、神殿内で見かけた美しく優雅な貴族令嬢たちを思い浮かべた。きっと彼女達も見えないところで努力し続けているんだわ。
そういえば、元婚約者のオグマート殿下が、新しい聖女が現れたっていっていたっけ。
たしか、侯爵令嬢のマリア様だと言われたような?
王都に魔物が出ているそうだけど、マリア様は大丈夫かしら……。
そんなことを考えているうちに歪み
これを塗ったらどうなるのかしら?
少しもわからないけど、王宮メイドたちは自分の仕事に誇りを持っているはず。だから、私は彼女たちの仕事を信じて身を任せた。
その結果。
太陽が傾き、空が夕焼け色に染まるころ、メイドたちはようやく作業の手を止めた。
「聖女様、ご覧ください!」
メイドたちが私の前に全身鏡を運んでくる。鏡にうつる私の髪はサラサラ、肌はつるつるで、全身がいつもよりスッキリしているように見えた。
「す、すごいです! 別人みたい!」
「聖女様は元からお美しいですわ!」
これだけ磨いてもらったら美青年アレク様の隣に立っても後ろ指をさされないかもしれない。私がホッと胸をなでおろしていると、メイドたちはおそろしいことを口にする。
「今日の下準備はここまでにしておきましょう。明日の昼にまた参ります!」
「昼に!?」
舞踏会は夜に開かれるのに?
気合の入り方が違うわ。社交界に参加している貴族令嬢って本当に大変なのね。
でも、ここまでしてもらったら、さすがに私も自信がついた。
部屋のすみには、フリーベイン領の服飾士が丁寧に仕上げてくれた最高のドレスが飾ってある。
いろんな人の協力を得て、私は舞踏会の準備を進めていった。