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第3話

“ウェルター級第一位、佐藤拳聖選手、定禅寺西高校――”

 あれから毎日、大会を手伝いながら拳聖さんの試合を観戦した。

僕の後ろで誰かが言った。

「結局この大会も、“シュガー”のための大会だったな」

 そうさ、この大会自体が拳聖さんから甘い甘い贈り物だったんだ。

 なんてスウィート、なんてクール。

 僕は、拳聖さんのすべてのとりこになった。

 メロメロにやられてしまったんだ。


――


「あ、あの……拳聖さん……」

 表彰の後、会場を後にしようとする拳聖さんに僕は話しかけた。

「ん? ああ、お前はこの間の……そっか、見てくれたんだな」

 うわあ、殴りあったばかりだってのに、何でこんなに綺麗な顔してるんだ?

「あ、あの、おめでとうございます……それと……これ!」

 僕は紙袋に入れた、丁寧に洗濯をしたタオルを差し出した。

「ああ、そういや……サンキュな。このタオル、結構気にいってたんだ」

 こういうとき、拳聖さんって子どもみたいに笑うんだな……。

「あ、あの……す、すごかったです……感動しました!」

 拳聖さんは優しく笑って僕の言葉に耳を傾けてくれた。

「あの……僕も……僕も、ボクシングを始めたら、拳聖さんみたいに強くなれますか?」

 な、何を言ってるんだ僕は? ぼ、僕みたいな腰抜けが、ボクシングなんて――

「あっ……」

 拳聖さんが、何かを確かめるみたいに僕のほっぺたに手を触れさせる。

やばいよ……心臓が止まっちゃいそうだよ……。

「なれるかもな。きっと、お前だって」

 え? 拳聖さんが、メダルを僕に掛けて――

「あげるよ」

「だ、だめです! こんな大切なもの……」

「“勝者には何もあげるな”ってな。メダルがなくたって俺が優勝した事実は変わらないさ」

 拳聖さんは、僕の頬に手を当てて笑ってくれた。

「ボクシング……好きになってくれたか?」

 数日前の僕なら、きっと大嫌いです、なんて答えていたかもしれない。けど――

「はい! 大好きです! それに、拳聖さんが……リング上の拳聖さんが、大好きです!」

「そいつは嬉しいな」

 一瞬で虫歯になっちゃうんじゃないかってくらい、甘い笑顔だった。

「それじゃな」

 騒然とする周囲の人たちは、僕なんかに目もくれることなく、クールに立ち去る拳聖さんの後についていった。

僕は胸に輝くメダルを握り締めた。

「拳聖さん……僕は……」

 あなたみたいな、強くて格好いいボクサーになりたい。拳聖さん。僕は、誓います。

「僕は、あなたみたいなボクサーになります! そしていつか……僕も“シュガー”って呼ばれるくらいすごいボクサーになります!」


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