“ウェルター級第一位、佐藤拳聖選手、定禅寺西高校――”
あれから毎日、大会を手伝いながら拳聖さんの試合を観戦した。
僕の後ろで誰かが言った。
「結局この大会も、“シュガー”のための大会だったな」
そうさ、この大会自体が拳聖さんから甘い甘い贈り物だったんだ。
なんてスウィート、なんてクール。
僕は、拳聖さんのすべてのとりこになった。
メロメロにやられてしまったんだ。
――
「あ、あの……拳聖さん……」
表彰の後、会場を後にしようとする拳聖さんに僕は話しかけた。
「ん? ああ、お前はこの間の……そっか、見てくれたんだな」
うわあ、殴りあったばかりだってのに、何でこんなに綺麗な顔してるんだ?
「あ、あの、おめでとうございます……それと……これ!」
僕は紙袋に入れた、丁寧に洗濯をしたタオルを差し出した。
「ああ、そういや……サンキュな。このタオル、結構気にいってたんだ」
こういうとき、拳聖さんって子どもみたいに笑うんだな……。
「あ、あの……す、すごかったです……感動しました!」
拳聖さんは優しく笑って僕の言葉に耳を傾けてくれた。
「あの……僕も……僕も、ボクシングを始めたら、拳聖さんみたいに強くなれますか?」
な、何を言ってるんだ僕は? ぼ、僕みたいな腰抜けが、ボクシングなんて――
「あっ……」
拳聖さんが、何かを確かめるみたいに僕のほっぺたに手を触れさせる。
やばいよ……心臓が止まっちゃいそうだよ……。
「なれるかもな。きっと、お前だって」
え? 拳聖さんが、メダルを僕に掛けて――
「あげるよ」
「だ、だめです! こんな大切なもの……」
「“勝者には何もあげるな”ってな。メダルがなくたって俺が優勝した事実は変わらないさ」
拳聖さんは、僕の頬に手を当てて笑ってくれた。
「ボクシング……好きになってくれたか?」
数日前の僕なら、きっと大嫌いです、なんて答えていたかもしれない。けど――
「はい! 大好きです! それに、拳聖さんが……リング上の拳聖さんが、大好きです!」
「そいつは嬉しいな」
一瞬で虫歯になっちゃうんじゃないかってくらい、甘い笑顔だった。
「それじゃな」
騒然とする周囲の人たちは、僕なんかに目もくれることなく、クールに立ち去る拳聖さんの後についていった。
僕は胸に輝くメダルを握り締めた。
「拳聖さん……僕は……」
あなたみたいな、強くて格好いいボクサーになりたい。拳聖さん。僕は、誓います。
「僕は、あなたみたいなボクサーになります! そしていつか……僕も“シュガー”って呼ばれるくらいすごいボクサーになります!」