クレメンスさんからの指令はある程度予想していましたが、ドワーフと交渉して強力な武具を作ってもらうという話ですね。そんなの完全に国の使節がやることで、冒険者が請け負うような仕事ではないはずなのですが。
「簡単な話、ドワーフの国は山岳地帯の地下にあるから、冒険者にそこまでのルートを開拓して欲しいってことね。ドワーフの指導者である金細工師ラウゴットが交渉のテーブルについたら、後は国に任せればいいわ」
ミラさんが言うには、ドワーフと直接取引しているのはごく一部の商人だけで、商人ギルドは交渉ルートを明かそうとしないそうです。それはそうですね。
「んー、でもドワーフのところに行く道は分かってますよね?」
以前の事件でソフィアさんに逆恨みしたブタさんを捕まえた時に、ドワーフの国に近い集落へ行きましたよね。お酒を持っていけばいいとかなんとか。あの事件の顛末もどうにもお粗末なものでしたが、ここにきてちょっと気になることがあるんですよね。
つまり、これまでのいくつもの問題があっさり解決しすぎというか、ある国の思惑通りに動いていたということです。
東の大陸まで行って先輩を連れて帰ってきた長い船旅で、これまでのことを色々と思い返していました。それで思ったのは、何もかもがすんなり進みすぎだってことです。ハイネシアン帝国で奴隷になったウサギを解放した時は、完全にあちらの手のひらの上で踊らされていて、結果としてハイネシアン帝国はエルフの森に侵略を開始してしまいましたし、コタロウさんが捕まってしまいました。
その後、ムートンのブタ族がソフィーナ帝国に非難声明を出した件はソフィーナ帝国の宰相ユダとブタ族の長老ラージ・ホワイトが共謀していて……でも二人ともカーボ共和国の材木商ブラッドレーに利用されていただけだったので簡単に解決してしまいました。非難声明を出したのはラージ・ホワイトではなくブラッドレーの部下でユダの知り合いのゴンズという男性でした。
そして、カーボ共和国の議長でもあり商人ギルドのマスターでもあるセドリアンが後始末を引き受けて、ユダとラージ・ホワイトはソフィーナ帝国に連れていかれましたが、私が東の大陸に行っている間にユダは脱走してハイネシアン帝国の将軍になったそうです。ラージ・ホワイトは少し取り調べを受けたあとムートンに戻り、長老の座をイベリコさんに引き継いで隠居したそうです。たぶんこれから行く集落でお酒を飲んでいるでしょう。
私は自分の意志でコタロウさんを救出しに向かいましたが、それは本当に私の判断だったでしょうか? フィリップ王子に促されて計画を立てましたが、貴重な男のエルフもいるのに城の警備はカイルとかいう変なドラゴンが一匹いただけでした。あのタイミングを、誰かに誘導されていたのだとしたら? あの非難声明、お粗末な二人の計画。それらが解決するのとほぼ同時に私はコタロウさんを救出しに行ったのです。その前にはトレフェロがイーリエルによって陥落し、ロランさんがコタロウさんの隣の牢屋に入れられました。
実はこれら全てがあの帝国の計画通りだったのだとしたら?
ロランさんの存在が世界中に知られてから、人間社会の態度は大きく変わりました。エルフの国には他にも男エルフが隠されていて、非人道的な扱いを受けているのではないか、そんな疑いの目が向けられることで、ネーティアを侵攻していくハイネシアン帝国の成果に期待が集まりつつあります。各国はエルフの森を開拓せずに滅ぼしていく帝国の態度を非難し、攻める計画はしていますが、エルフを守るためではなく資源を確保するためです。セドリアンの影響力と手腕あってこその協力体制のようですね。
結局ブラッドレーはまだ平然と商売を続けています。セドリアンは人間社会をまとめるのに忙しくて、彼をどうにかする余裕が無いようです。ムートンのブタさん達がフロンティアにやってきてダンジョンから木材を伐り出して輸出を始めたので収益は下がり気味だそうですが、ハイネシアン帝国と繋がっているのは変わりません。
「あの集落ですか。確か、ドワーフの国に輸出する木材が沢山積まれていましたね」
ソフィアさんが私の言葉を受けて当時の様子を思い返します。木材……材木商……ブラッドレー。
「もしや、ドワーフはハイネシアン帝国と繋がっている?」
「そういうことだね。だから今度の戦争に向けた武具の調達というのは表向きの理由で、本当の目的はハイネシアン帝国とドワーフの協力関係にくさびを打つことだ」
私の言葉に先輩が補足をしました。ついこの間まで東の大陸にいたのに、なんでそんなに分かってる風な態度なんですかね?
「何言ってるか分からないっす!」
ヨハンさんが元気に主張します。ヨハンさんは陰謀とか考えなくていいので勇者道を邁進しててください。
「ドワーフが帝国を利用してエルフを滅ぼそうとしてるってことよ!」
シトリンさんが要約してヨハンさんに伝えますが、だいぶ偏見が入ってますよね?
「そんなわけで、ドワーフと対話ができるようにするため国家の使節ではなく、冒険者による接触を行うってわけ。ちなみにAランク指令よ」
Aランク指令! ということは、参加できる冒険者のランクもB以上と考えていいでしょうね。
「現在のBランク冒険者は、コウメイ、ヨハン、レナ、ソフィア、コタロウね。Aランクは私とサラディン、それにフィストル。Sランクはエスカ。ランク関係ないモンスター枠のジョージはSランク相当でトウテツはAランク相当、ミミックはBランク相当になるわ」
ミラさんがこの指令に参加可能な冒険者を挙げていきます。いつの間にか結構ランクの高い冒険者が増えてきましたね。誰に行ってもらいましょうか……?
「任務の重要性と難易度を考えれば、エスカの参加は必須だろう」
あ、私もそっち側なんでしたね。もう留守番は先輩に任せておけばいいんですもんね。
「ヨハンはシトリンと、ソフィアはアルベルとセットな感じだから今回は留守番かしら」
「ええっ!? 今度こそ私も行きますよ!」
ミラさんの発言にソフィアさんが猛烈な抗議をします。この人はアルベルさんを平気で置いていきそうだから困りますね。アルベルさんは実力的には申し分ないのですが、いかんせん貢献ポイントが低くて……(感情的に何度も減らしている人)
「俺も行くっすよ!」
ヨハンさんも負けじと抗議します。シトリンさんと離れられるんですかね? エルフだからドワーフの国に行くのはやめておいた方がいいでしょう。能力的にもドワーフの国では足手まといにしかならないでしょうし。
「複数パーティーで行けばいいんじゃないかな。Bランク以上に限定しなくてもいいと思うよ」
そこに先輩が助け舟を出します。大丈夫でしょうか、主にシトリンさんが。とりあえずソフィアさんとヨハンさんは喜びのポーズをしています。
「じゃあどんな編成で行くのか決めてね、エスカ」
そこは私がやるんですか!?