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コストルにて

 海岸沿いの道はよく整備されていて、問題なく通過しました。ただ、道が頑丈すぎて逆に疑問が湧いてきたのでちょっと確認してみたのですが、道の整備にドワーフの技術が使われているみたいでした。


「この道、ドワーフの技術で整備されていますね。どこの支部にもまだドワーフはいないはずですが……」


「通りすがりに手伝ってくれたんすかね」


 どんなドワーフですか、それは。


「ここの整備に関わったのはクレルージュ支部を始め、ソフィーナ帝国内のいくつかの支部だ。ギルドに所属していない技能者も参加していたが、全員が人間の工芸者だと聞いている」


 ふむ……?


「人間のふりをしたドワーフが混ざってたんじゃないかしら? アイツら、実は魔法も得意だから姿を変えたりできるのよ」


 シトリンさんからドワーフに関する情報が得られましたが、仮にそうだとしてもどういう理由でドワーフが手伝ってくれたのかが謎ですね。


「気になるなら調査をさせておこう。今はフィストル達を迎えに行くことに集中した方がいい」


「そうですね、考えても分からないことで悩んでもしょうがないです。帰ってきてから調べてみましょう」


 そんな話をしながらコストルまで進みます。途中で何度か休憩して各地の支部に顔を出したりしましたが、いちいち大袈裟な歓迎を受けて私だけでなく一行全員がうんざりしてしまいました。


「コストルはまだっすかー?」


『もうすぐだ。闇の眷属の気配を感じるからな』


 闇の眷属ってメヌエットのことですか? そんな気配が分かるんですね。確かに馬車はコストルの目前まで迫っています。もう遠くに海が見えます。海岸沿いに城壁がそびえたっていますが、ずいぶんと厳重に防御しているんですね。


「なんか凄い要塞みたいになってるけど、あれがコストル?」


「そうすよ。カーボ共和国とソフィーナ帝国の境目にあって海の玄関口でもあるから、人間側の外敵に備えてガチガチに固めてるんす」


 わ~、長居したくなーい。モンスターではなく人間に備えてるところがいかにもですね。


『それは表向きの理由で、実際には町の人間が魔族と仲良くしてるから外から隠すようにしてるのさ』


「そうなんっすね!」


 さりげなくトウテツが秘密をバラしてますけど、それどういうルートで得た情報ですか。森の中で暮らしていたわりに色々知ってますね。


 ともあれ、魔族と仲良くしている人間がいるというのは何かに利用できるかもしれませんね。


「メヌエットはもう船の用意をしているそうだ。寄り道せず港に行こう」


 何かとキョロキョロしがちなヨハンさんとシトリンさんを急かして、サラディンさんが港の方向を指し示します。もしかしたらサラディンさんも早く先輩に会いたいのかもしれません。あんな状況ではぐれてしまいましたし、責任を感じているのかも。


 町の入り口は問題なく通過。ここもソフィーナ帝国の一部ですからね、トウテツも安定のスルーです。門番の皆さんも町に攻めてくる敵以外は興味ないって態度ですね。


「うおおお、めっちゃ魚が干してあるっす!」


 コストルの城壁を抜けると、そこは港町らしく至る所で海産物の加工や販売をしている風景が見られます。魚の干物は美味しそうですね。フグなる魚が干物になってますけど、どんな味がするのでしょう?


「丸くてかわいい!」


 シトリンさんはフグの見た目が気に入ったようです。なんだか愛嬌のある顔をしていますよね。美味しいんでしょうか?


「フグはかなり美味いすよ。ただ種類によっては毒があるので、東鸞とうらん王国では毎年何人かフグにあたって死ぬ人がでます」


 ええっ!? そんな危険な食べ物が無造作に天日干しされてますけど、大丈夫なんですか?


『毒ごときで俺様を殺すことはできないぜ』


 何でも食べるトウテツが食べる気満々です。かなり美味しいらしいので私も食べてみたいんですけど、毒があるのはちょっと……。


「はっはっは、心配しなくてもこのフグは毒のないサバフグさ。食べてごらん」


 傍でフグを焼いてるおじさんが一尾取って渡してくれます。美味しそうな匂い!


「クンクン、大丈夫っすよ!」


 ヨハンさんが匂いで安全性を確認してくれました。そうか、ギフトを使えばいいんだ!


 一応自分の手にあるフグをチェックすると、無毒と出ました。


「美味しい!」


 既に食べているシトリンさんが感動の声を上げています。私もさっそく頂きましょう。


「……何をやっているんだ」


 みんなでフグを食べていると、待ちかねたのかメヌエットがやってきて呆れた顔をしています。


「すまない、待たせてしまったな」


 サラディンさんが謝罪していますが、何気におじさんにお金を渡してフグを手に取っています。


「いや、それは構わないがこの先で色々な海の幸を食べられる料理屋があるぞ。そちらで食事をした方が楽しめるだろう」


 とのことなのでメヌエットおすすめのお店に向かうことにしました。あれっ、この人そういうキャラでしたっけ?


「それにしても久しぶりだな、勇者様。外見はその剣以外あの頃と変わらないが……」


 道案内をしながら、メヌエットはヨハンさんに話しかけます。よく分からない芝居でヨハンさんを騙したりしてましたけど、あれは捕まえて東の大陸に送るつもりだったのでしょうか。最初は小麦粉を盗んで逃げてましたけど。


「そういえば前は攻撃してきたっすね。結局何やってたんっすか?」


 ヨハンさんが普通に質問します。見た目は人間の若い女性に見えるメヌエットと気安く話すヨハンさんに、シトリンさんがさり気なく身を寄せています。それ、メヌエットはむしろ喜ぶんじゃないかなぁ。


「そうだな。目的も果たしたし、我々の目的を話しておこうか。将来的に冒険者ギルドに協力してもらうこともあるかもしれないし」


 それは興味深いですね。私達は真剣な顔で頷き合いながらメヌエットに案内された料理屋にはいるのでした。わっ、なんか凄く大きな魚が泳いでますよ!?

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