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馬車旅の途中で

 陸路を行くと途中にエルフの森があるのですが、実は最近のソフィーナ帝国支部による開拓で海岸沿いを通って海の向こう側にある帝国領まで行く道が開通しているのです。どこの冒険者も頑張ってますね。


「ソフィーナ帝国クレルージュ支部には凄腕の冒険者がいるという話ですし、通り道なので一度挨拶していきましょうか」


 ユダを捕まえた冒険者の話はアレキサンドラ女王から聞いています。どちらかというとユダがとんでもない使い手だったという話の方に驚いたのは内緒ですが。


「ユダを捕まえた人達がいるところっすね!」


 ヨハンさんは自分がユダを捕まえようとしていましたが、依頼を受けているわけでもなかったですし途中でヴァンパイアを退治したりしていたので結果としてはこれで良かったですね。マギラゴースなる悪魔の名前も知れましたし。


「エルフの冒険者もいるって聞いたわ。会ってみたいわね」


 シトリンさんは自分と同じエルフの冒険者に興味があるようです。疾風のミリアさんでしたっけ? なかなか個性的なお方のようですね。話を聞いた印象ではヨハンさんと気が合いそうな感じですが、エルフが相手だと余計な問題が起こらないか心配です。三角関係的な。


「魔法盗賊って面白そうな職業すね」


 コタロウさんも盗賊職としてミリアさんの盗賊スタイルに興味があるようです。忍術という名の独力魔法も使っていますし、彼女の技から何らかのヒントが得られるかも?


「そういえば船旅に使える忍術ってなんですか?」


 ちょっと気になってたんですよね。コタロウさんのことだから何かあるんでしょう。


「海水から水と塩を作り出す忍術と魚をとる忍術があるすよ」


 確かに便利そうですが、それって忍術なんですかね?


「あと水の上を歩いて移動できる術とか」


 あ、それはなんか忍術っぽい!


「面白そう!」


 そしてシトリンさんが食いつきました。船旅は長いですから、海の穏やかな日に遊ぶのもいいかもしれませんね。


『魚がとれるのはいいな。食うものがないときついからな』


 トウテツは何でも食べるから、お腹を空かせて船を食べたりしないか気を付けないといけませんね。


「そろそろクレルージュに着くぞ」


 サラディンさんが最初の目的地への到着を知らせました。話に夢中になっているうちにもうそんなところまで進んだんですね。馬車を引く馬は特別製の角なしユニコーンですけど、それにしても速い。それにそんなに速く走っていたのに全然揺れないんですよね。さすが大金をつぎ込んで作られたギルド用の馬車です。クレメンスさんによると冒険者ギルドの生み出した富と比べればはした金だとのことですが、庶民には一生かけても稼げないような額のお金が使われています。これが国家レベルの金銭感覚なのでしょうか。


『俺も町に入っていいのか?』


「大丈夫ですよ。ソフィアさんの計らいで冒険者と一緒にいるモンスターは国内を自由に歩けます。もちろん問題を起こしたら連れている冒険者の責任になりますけど。つまりあなたが何かやらかしたら私がきっちり〝処分〟します」


『ヒエッ、ぜぜ絶対に悪さはしません!』


 トウテツが体を真っ直ぐに伸ばして言います。なんでしょう、人間で言うところの「気を付け」の姿勢なのでしょうか。大人しくしててくれるならなんでもいいですけど。


 そんなこんなでソフィーナ帝国の首都クレルージュに入ります。入り口の兵士さんが「あなたがあの!」とか言っていましたが、いったいどんな噂が広まっているのでしょう。


「マスターは有名っすからねー」


「大陸の反対側でも噂してる人がいたものね」


 なんですかそれ。ちょっと詳しく聞いてもいいでしょうか?


「ほら、さっさとギルドに向かうぞ」


 無駄話をしている一行を急かしてギルドへと向かわせるサラディンさんです。完全にパーティーのお父さん役です。知らない人が見たら間違いなく彼がこのパーティーのリーダーだと思うでしょうね。私達はその後もクレルージュの綺麗な街並みを楽しみながらギルドの建物を目指すのでした。


「ようこそいらっしゃいました、ギルドマスター!」


 支部長のヘルミーナさんが出迎えてくれます。私が今日訪ねてくることは当然本部から連絡がきているので、皆さん待ち構えていたご様子。そんなにかしこまらないでもらいたいのですが、一応組織のトップだから仕方ないですね。冒険者の皆さんは部下ではないんですけどね。


「こちらの支部はとても活躍しているそうですね。元宰相のユダを捕まえた方達はいらっしゃいますか?」


「それが、この前の依頼で意気投合したらしくまた同じパーティーを組んで開拓に向かっていまして」


 ほう、それはそれは。気の合う仲間に出会えるのは冒険者にとって一番の幸せではないでしょうか。その分仲間を失ったりすると悲惨ですけど。


「そうですか。この支部もいい冒険者に恵まれているようですね」


 直接会えなかったのは残念ですが、開拓に励んでいるというのは喜ばしいことです。報告によると今度はコボルトのテリトリーに向かうとか。コボルトは蒼銀コバルトを作り出す不思議な力を持つ妖精の一種ですが、人間には敵対的なのでモンスター扱いなんですよね。学者達の研究が進むまではイヌの獣人だと思われていたぐらい、意外と人間に性質が知られていなかった種族です。


「全てはギルドマスターのご人徳によるものです」


 ヘルミーナさんがお世辞を言ってきますが、遠隔魔術で知る彼女の性格とギャップがありすぎてちょっと気持ち悪いです。立場が立場なので、ここは軽く流しておきますが。


 その後は海岸沿いの道を開拓したという工芸者の皆さんに挨拶をして、休憩をした後にまた馬車でクレルージュを離れました。早くコストルに向かわないといけませんからね。急いでいきましょう!

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