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魔族の大陸へ

「留守中のギルド運営は任せておくぬー」


 恵みの森支部からタヌキさんが応援に来ました。留守番はミラさんがやってくれるのですが、彼女だけだと事務仕事に不安があるということでミラさん自身が応援を呼びました。決して私が不安を訴えたわけではないですからね!


 先輩を迎えに行くメンバーには私とサラディンさんがいるべきだという皆さんの意見により、サブマスターのミラさんが留守番することが決定したわけですが、他の同行メンバーに頭を悩ませています。


「俺も行くっすよ!」


 真っ先に手を挙げたヨハンさんは船大工のイベリコさんに気に入られた経緯もあり、一緒に来てもらうのは必然とも言えるのですが……メヌエットとの因縁はどうなのでしょうか。あとシトリンさんが確実についてくるんですよね。


「お姉様と一緒ならどこに行っても怖くないです!」


 はいはい。


「船旅に使える忍術もあるすよ」


 コタロウさんがさり気なく行きたいアピールをしていますが、言われなくても最有力候補です。未知の場所へ向かうのに盗賊職無しは自殺行為ですからね。ゲンザブロウさんはロランさんの面倒を見ないといけませんし。


 そのロランさんはステラさんが魔法の鎧を作るまでの間、歌う恋茄子亭で給仕の仕事を手伝うようです。


『闇の領域に行くなら俺も役に立つと思いますよ姐さん』


 そしてこのトウテツです。最近見ないと思ったら、コウメイさんと一緒にダンジョンコアの調査をしていたようです。戦力的には申し分ないですが、モンスターですからね……。


「聖職者がいないと困るのではありませんか?」


 悩んでいるとソフィアさんが目を輝かせて言ってきましたが、アルベルさんもセットでくるんでしょう?


「大所帯になりますし、いくらなんでも皇帝陛下を東の大陸まで連れていくわけにはいきません」


「ええーっ、じゃあ退位しますから」


「もっとダメです!!」


 回復魔法は私が使えるから、聖職者がいなくても問題はありません。今回ばかりはソフィアさんには我慢してもらいましょう。珍しく頬を膨らませていますが、駄目なものはダメです。


「では、トウテツにも来てもらいましょうか。魔族もモンスターに迷惑しているらしいので何かの助けになるかもしれません」


 そんなわけで、私とサラディンさん、コタロウさん、ヨハンさん、シトリンさんにトウテツというメンバーでメヌエットと共に東の大陸『ヘブリウム』へ向かうことになりました。


「エスカ、この地図を持っていきなさい」


 どこからともなく現れたサリエリ先生が一枚の地図を渡してきました。先輩の居場所が分かる地図ですかね。……これは世界地図? 東の大陸も色分けされていますが、どうやって作ったのでしょう。


「フィストルはここにいる」


 サリエリ先生がそう言うと、地図上に赤く光る点が現れました。これは分かりやすい。先輩は相変わらず大陸の西岸にいるようですね。


「ありがとうございます、先生。さっさと先輩を連れ戻してきますね」


「ああ、東の大陸を調査するのはまだ早いからね。フィストルを見つけたらすぐに帰ってきなさい」


 まだ早い……ですか。それはつまりいつかは東の大陸を調査しないといけなくなるということでしょう。こちら側の大陸もまだ全然掌握できていないんですけどね。


 大陸の反対側まで冒険してきたギルドですが、ネーティアの森は我々が知るよりもずっと広く、深いようです。エルフ以外の種族が支配している地域も数多くあるとか。オークやコボルトといったモンスター種族の支配する地域もあるし、地下の広い範囲でドワーフが秘密の工房を作ったりしているみたいですね。


 ハイネシアン帝国は着々と侵攻を続けているようですが、トレフェロを陥落させた後はエルフの国もそれぞれに対策を立て始めたようで、新たに滅亡した国はないそうです。カリオストロやイーリエルといえども森でエルフを軽く蹴散らすというわけにはいかないのでしょう。


「私をのけ者にして東の大陸を探索なんかしたら許しませんからね!」


 ソフィアさんがむくれていますが、海を渡ろうとしている先輩を拾って帰ってくるだけなので言われるまでもなく探索なんかしませんよ。


「それじゃあ出発しましょう。メヌエットとはコストルで合流する約束です」


 大陸南東部の内湾になっているところがコストルの港で、そこから船で東の大陸へ行くのが魔族の定番ルートらしいです。恐らく海流の関係というか、ヨハンさんが対話したというソクレースの影が影響しているのでしょう。もう我々が乗る船はイベリコさんがムートンからコストルに移動させているそうです。本当に皆さんの協力がありがたいですね。


「コストル……無帰還の迷宮から飛ばされる国すね」


「ええ、私達は陸路でソフィーナ帝国領を行きますけど」


 コタロウさんが気遣い気味に言ったので、私は努めて何とも思っていないという態度を見せます。思うところがないわけではないですが、実際にあまりこだわってはいませんので、余計な心配は無用ということを理解してもらわないといけませんね。


 乗り心地がいいというギルドの大馬車に乗り込み、私達はアーデンを出発しました。こういう旅は本当に久しぶりです。

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