各地で動いていたパーティーの活躍はサリエリ先生やアレキサンドラさんから教えてもらいました。
過去にさかのぼって見ることはできますけど、お二人は私が見てない間に必要があれば、手助けをしてくれるつもりだったようです。ありがたいなあ。結果としてその必要はありませんでしたけど。
マギラゴースというのが気になりますね。ヨハンさんとシトリンさんには、闇エルフの国での任務報酬を受け取ってもらうために一度帰ってきてもらいます。
ソフィアさんには、連絡を取ったら「事件が解決したのでメヌエットと話してきます」と言われました。私も気になるのでそちらを見せてもらいましょう。
というわけでクレルージュのエロイズム大聖堂です。ソフィアさんとアルベルさんがメヌエットに会いにきました。マリーモさんとラウさんもついてきています。先に帰ってもよかったのですが。
「あの女はまだいるかしらねー」
「いるよ、においがするから!」
そんな会話をしているのんきな二人の前を進むソフィアさんは、何やら考えこんでいる模様。どうしたのでしょうか?
「メヌエットさんはダンジョンのことを調べているそうだけど、マギラゴースについて何か知っているのかしら」
ソフィアさんもマギラゴースのことが気になっているようです。町人をヴァンパイアに変えた凶悪な存在ですからね。その場にいたのがヨハンさんじゃなかったら大変なことになるところでした。
「今、マギラゴースと言ったか?」
すると、大聖堂の奥からメヌエットが現れました。隣にミミックがいます。ユダが捕まったから化けている必要がなくなったんですね。皇帝陛下もここにいますし、現在国政を行っているのは誰なのでしょうか。
「ええ、ご存知ですか?」
アルベルさんが剣の柄に手をかけ前に出ようとするのを手で制し、ソフィアさんはメヌエットに微笑みかけます。
「ああ、そいつは悪魔の名だ」
悪魔!?
あの伝説にしか存在しないという悪魔ですか? ダンジョンコアとかいうモンスターの名前だと思ってました。どおりで人間をヴァンパイアに変えたりできるわけです。
「悪魔……そんなものがこの世界に現れたのですか?」
「どうだろうな。悪魔がこの世界に姿を現すのは、光と闇の最終決戦の時だと言われている。だがここでダンジョンの情報を集めていたらその名が何度も出てきた。これは私の予想にすぎないが、最近両大陸でダンジョンが現れているのはマギラゴースの仕業ではないかと思っている」
ふむむ、なんだか壮大な陰謀の空気ですね。人間は人間で戦争なんかしてますし。
「ところで、ユダに手を貸していたのは何故だ?」
おっと、アルベルさんが口を出しました。そちらが元々の話題ですもんね。
「別に大した理由ではない。この国で調査活動をすることを許可する代わりに協力を求められたのさ。どうせ夢は叶わないだろうと思っていたが、意外と役に立ってくれたな」
「あれが何かの役に立ちましたか?」
ソフィアさん、あれ呼ばわりです。まあ裏切り者の扱いなんてその程度で十分でしょうけど。
「お前達の偽物を使ったことがあっただろう? 本来の目的ではないが、あれの見返りに人間の男を何人かヘブリウムに送ることができた。ああ、誘拐ではないぞ。何をやるのか説明したら本人達も乗り気で向かったからな」
ヘブリウムというのは、東の大陸の名前でしたね。探検家マルズライトの報告にありました。人間の男は、確かエルフとの間にハーフエルフを作るために連れて行かれるんでしたね。うーん、考えるのはやめにしましょう。
「それと、ミミックには変化した相手の知識をコピーする能力があってな。おかげでこの国の秘密を多く知ることができた」
「それを私に言うんですか」
「お前は気にしないだろう?」
どんな秘密があるのか気になりますが、確かにソフィアさんは気にしなそうです。アルベルさんは怒るかと思ったけど、特に反応しませんね。
「わかった。マギラゴースの話に戻ろう」
この司会っぷりです。アルベルさんに促され、悪魔とダンジョンの話に戻りました。
「マギラゴースのことはヘブリウムの伝承に語られている。古代の人間にマギラゴースが悪魔の力を与えて生み出されたのが我々デビリッシュ、つまりお前達が魔族と呼ぶ種族の祖先だという」
なるほど、悪魔の力を手に入れた人間だから
「それなら信仰の対象になるんじゃないのー?」
そうですね、魔族にとっては創造主のような存在でしょう。先程からの口ぶりだとそんな感じはしませんが。
「闇の軍勢という意味では強力な味方とも言えるが、我々も各地に現れるダンジョン由来のモンスターには迷惑をしているのでな。せいぜい面倒くさい親戚といったところだ」
なんか分かります。妙なところで親近感のわく説明をしますね、この人。
「ダンジョンについてだが、この前も言ったダンジョンコアをそのマギラゴースがばら撒いているのだと思う。ダンジョンコアは自らの意志でダンジョンを生成するらしいな」
「なるほど、それでダンジョンに現れたヴァンパイアがマギラゴースの名を叫んだのですね」
「それは興味深い話だな。そちらの知る情報も教えてもらおう」
こちらばかりが情報を聞いているのも不公平ですしね。メヌエットは意外とおしゃべりですけど。ソフィアさんが私から伝えた情報を教えました。
「なるほど……これで私の使命は果たせそうだ」
「東の大陸に帰るの?」
満足そうに頷くメヌエットに、ラウさんが話しかけます。相変わらずキラキラした目です。
「ああ、この大陸でやるべきことは終えたからな」
「それなら、東の大陸にギルドの人がいるみたいだから迎えに行くのを手伝ってもらえないかしらー? あなたのお仲間がさらっていったらしいのよー」
「……それで私に何の得があるんだ?」
「ギルドに恩が売れるわよー」
マリーモさんが交渉していますが、東の大陸に帰るメヌエットにはあまりメリットがないですね。というか、先輩を迎えに行くのは私の個人的な願望なのですが。
「ふむ、あの有名なギルドマスターに恩が売れるなら、確かにやる価値はあるな。どうせ帰り道だ」
なにすんなり納得してるんですか!?
私って、そんなに有名なんです?
◇◆◇
「たぶんこの大陸で知らない人はいないわよ〜」
恋茄子が茶々を入れてきますが、冒険者ギルドの認知度が上がったということですよね?
これまでにも謎の噂が立っていたので、なんだか不安になります。
何はともあれ、どうやら魔族のメヌエットが東の大陸へ案内してくれるようです。ソフィーナ帝国の問題も解決しましたし、先輩を迎えに行く準備は整ったということでしょうね。
……よし、私も覚悟を決めます! 待っていてください、先輩。