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クレルージュの冒険者達

 クレルージュの冒険者ギルドでは、支部長のヘルミーナがユダを捕まえにいく冒険者を集めているようです。なお材木商のブラッドレーについても調査を進めるようですが、こちらは今のところ悪事に関与している証拠がないので捕まえることはできません。


「自分の国の犯罪者を捕まえに行くと言っても、相手国の首都に乗り込んでいこうってんだ。決して無関係の国民に失礼なことをするんじゃないよ!」


 ヘルミーナが強い口調で居並ぶ冒険者達に注意喚起しています。一般的な冒険者はあまり紳士的ではないですからね。アーデン本部の中心人物達が傑物ぞろいなので誤解しそうになりますが。


「ふふん、この疾風のミリア様に任せておけば問題ないわ!」


 自信満々に胸を張って言うのは、短剣を腰に差して半袖シャツに膝丈のズボンという盗賊スタイルのエルフです。エルフには珍しい短めの髪で、見るからに活発な印象を受けますね。名前はまったく聞いたことがないのですが、どこかで有名な冒険者なのでしょうか?


「いや、誰だよ」


 すると軽鎧に身を包んだ戦士風の男が呆れたような顔で言います。ヘルミーナも困ったような笑顔を見せているところから、どうやら無名の新人のようですね。この手の変わり者はどこの支部にもいるようです。


「私を知らないとは、この支部一の使い手と噂の炎剣ゴドリックも大したことないわね!」


 戦士風の男はゴドリックっていうんですね。そちらも初めて聞く名前ですが、クレルージュ支部一の使い手なんですね。ソフィーナ人らしく薄い茶色の髪と灰色の目を持った長身の人物ですが、体型は細身で武器も細剣レイピアです。炎剣というからには炎をまとわせて攻撃するのでしょうか。魔法剣士マジックフェンサーはエルフに多い職業ですが。


「なんで俺のこと知ってるんだよ、ファンか?」


「あなたが私のファンになるのよ、この任務が終わったらね」


 無駄に口が達者なエルフですね。この娘は見た目通りの盗賊でいいのでしょうか? それだとエスカ様が泣いて喜ぶ貴重な技能者であることは間違いないですが。


「はいはい、疾風のミリアちゃんは何ができるのかな? この任務に役立ちそうもなかったら参加させないよ」


 ヘルミーナが肩をすくめて冒険者管理板を出しました。登録情報の確認をしているようですね。


「私は見ての通り盗賊よ!」


「確かに盗賊だね、解錠技能がないけど」


 おや、鍵が開けられない盗賊とは珍しい。


「しのび足に命をかけてるからね!」


「疾風はどこにいった」


 自信満々に宣言するミリアに、すかさずゴドリックがツッコミを入れます。初対面なのに息ぴったりですね。人間とエルフのコンビはあの二人を思い出させますが、ネーティアとしては好ましくないのですよね。


「しのび足も大事だけどさ、盗賊技能で頼りにならない盗賊はちょっと」


 ヘルミーナは当たり前の感想を述べます。誰でもそう思いますね。でも、私には彼女がどんな働きをするのか分かります。風の精霊シルフが彼女に微笑んでいますから。


「甘いわね、私は技能ではなく精霊術エレメンタルアートで鍵も開けるし罠も外すのよ。そう、これぞ究極! 魔法盗賊マジックシーフ!!」


 シルフに頼んでやってもらうためには、かなりの好感度が必要です。通常の人間には難しいので、そういう発想が出てこないのは仕方がないでしょう。ですが、当然ながら準神格であるシルフにかかればあらゆる鍵や罠を一瞬で外してもらえます。魔力がある限りは最も頼りになる盗賊と言えるでしょう。


「へえ、面白いじゃない。確かに精霊術が得意みたいだね」


 呆れた様子だったヘルミーナの顔が一転して不敵な笑みになります。


「なんだ、口だけじゃないのか。使える奴なら歓迎だぜ」


 ゴドリックも笑顔をミリアに向けます。


「ふふん、ようやく私の凄さが分かったみたいね」


 そしてミリアは薄い胸を張って自慢げです。


 なんでしょう、この雰囲気。エルフの娘が人間の国でこんなに生意気な口をきいても笑って許してもらえるほど、関係が良好になっているとは。正直にいって驚きました。


「犯罪者には正義の鉄槌を食らわせねばのう。ヴォルカー様も悪党は燃やし尽くせと仰られておる」


 いや、ヴォルカー様はそんなこと言わないと思いますけど。隣にいた高齢の男性聖職者は、エロイズムの本拠地であるクレルージュにいるのに正義神ヴォルカーを信奉する極光教団の信徒のようです。法衣も火の鳥を模した炎模様になっていますね。


「一応我が国の宰相閣下なのだから、灰にするのはやめてね。連れて帰って裁判にかけるからね」


「あら、面白い坊やね。名前を聞いてもいいかしら?」


「ふぉっふぉっふぉ。なるほど、エルフの娘さんからしたら年下の坊やというわけじゃな。儂は極光教団で司祭をしておる、ラーマという者じゃ。慈愛のラーマとは儂のことよ」


 慈愛のある人は犯罪者を燃やし尽くしたりはしないと思いますが。というか慈愛神エロイゾン様に喧嘩を売っているんですか? 大丈夫ですかその場所にいて。


「わっはっは、面白い爺さんだな」


 この支部もクセの強い冒険者が多そうです。さっきから無言ですが、もう一人立っています。こちらは全身鎧に身を包んだ騎士のようです。全身鎧なんて買えるのは騎士ぐらいです。鎧にはこの国のシンボルである狼の紋章が描かれていますね。


「騎士っぽい鎧さんはなんて名前なの?」


「……」


 ミリアがこちらにも話しかけますが、無言です。そこにヘルミーナが助け舟を出しました。


「ああ、その子は騎士見習いのガウェインだよ。恥ずかしがり屋で女性とは会話ができないんだ。私も間に男が通訳に入らないと仕事の話もできないのさ」


 恥ずかしがってたんですか。そんなことで騎士になれるんでしょうか。同じ全身鎧の黒騎士殿は女性が大好きな様子でしたが。


 とりあえず、集まったこの四人で向かうみたいですね。メンバーを厳選したというわけでもなく、すぐに動ける冒険者がこの四人しかいなかったようです。狙ったかのようにバランスのいいパーティーではありますが。


「それじゃ、気を付けていってらっしゃい」


「大船に乗ったつもりでまかせなさい!」


「船に乗るのは儂らじゃがのう」


「爺さん上手いこと言うね!」


「……」


 さて、やっと噂のユダが見られそうですね。どうなることやら。

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