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第一王子フィリップ

 そんなわけでギルドのことはミラさんに任せてきました。今回は任務に参加しないでもらったので助かりましたが、私が宮廷のパーティーに行くと聞いてやけにニヤニヤしているのが気持ち悪いですね。


「こっちは私達に任せて、しっかりやってきなさい」


 しっかりですか……確かに、異種族を次々と取り込んでいるギルドのことを貴族達に理解してもらわないといけませんからね。責任重大です!


「ムートンではソフィアが上手く立ち回ってイベリコ殿の信用を得ているようだ。ラウとマリーモはあの家にいる人間の男の姿を確認し、似顔絵も作っている。宰相閣下の話と合わせると、ブラッドレーの手の者だろうな」


 サラディンさんは私が宮廷に行ってる間に現地と連絡を取ってくれていました。サブマスターなら追跡が使えますからね。さすがの気の利きようです。でも彼女達の活躍はあとでちゃんと確認しておきましょう。報酬に関わるので。


「ありがとうございます。それでは引き続き留守をよろしくお願いしますね」


「がんばってね〜」


 妙にギルド総出で応援されながら、私は宮廷に向かいました。そんなに貴族の圧力が気になるんでしょうか? 


 宮廷に到着すると、華やかなドレスで着飾った貴族のご令嬢が沢山いました。私は一応宮廷魔術師の正装をしてきましたが、やはりこの場では浮きますね。場違いにもほどがあります。


「まあ、エスカ様。ご機嫌麗しゅう」


 誰でしたっけ? 美人でいかにも偉い人の娘っぽい雰囲気を醸し出している女性に挨拶されました。縦ロールの髪型が気になって他の特徴が頭に入ってきません。凄い縦ロールです!


「ご、ごきげんよう?」


 なんでそんなに親しげに話しかけてくるんですか? 私、あなたのこと全然知らないんですけど!


 クレメンスさんの娘さんだったりしたらどうしましょうね。というかあの人の家族に会ったことないですね、そういえば。


「うふふ。今日はエスカ様が来られると聞いて、皆が張り切って新作のドレスを着ていますわ」


 縦ロールさんが意味のわからないことを言い出しました。なんで私がそんなに注目されてるんですか?


「そ、そうなんですか? 皆さん素敵なドレスですね」


 よくわからないので褒めておきます。なんだかいつものパーティーと空気が全然違うんですけど。どうしたのでしょう?


 縦ロールさんはうふふと笑って他の娘さんの方へ行きました。結局何者だったのかわからないままです。そういえば陛下が積もる話をしたいとか。国王臨席のパーティーだから娘さん達の気合が入っているのかもしれませんね。いつも挨拶にいくパーティーは大人の貴族ばかりでしたし。


「フィリップ殿下がおいでです!」


 あれ? 陛下ではなく第一王子のフィリップ殿下が来られましたね。将来の国王陛下です。今年で一七歳になり、そろそろ結婚相手も決めないといけないらしいですね。五歳年上の私はまったくそんな話もないですけどね。もっと年を取ってる先輩やサラディンさんも独身だから気にしたことはないのですが、王子ともなるとそんな我々庶民とは話が違います。


 なるほど、若いご令嬢ばかりな理由がわかりました。


「皆様、ようこそいらっしゃいました。今日は特別に宮廷楽長が演奏の指揮をとります。一緒にこの特別な夜を楽しみましょう!」


 フィリップ殿下の挨拶が終わると、宮廷楽団が演奏をはじめました。ダンスパーティーの始まりというわけですね。それで国王陛下や宰相閣下はどちらにいらっしゃるのでしょうか? とてつもなく居心地が悪いんですけど。


 というか、今日はそんなに特別な日だったんですね。クレメンスさんがなんとしても私を参加させたかったのはそういう理由でしたか。


 で、どういう風に特別な夜なのでしょうか?


「エスカ様、ダンスの相手をしていただけますか?」


「へっ!?」


 キョロキョロしていた私に、どういうわけかフィリップ殿下がダンスのお誘いをしてきました。まだどこか幼さを残した、少年から青年へと成長しつつある王子の顔が目の前にあります。煌めく金髪に透き通るような碧眼は、フォンデール王国の正統な血筋を示しているようで。


「ダンスは苦手でして……」


 王子のお誘いを断るのは大変な無礼ですが、大貴族の令嬢がウヨウヨしているここでダンスなんて恐ろしくてできません! 実際ダンスなんてほとんどしたことがないので、踊れないと伝えました。


「ご心配なく、私がエスコートします」


 そう言ってフィリップ殿下は私の手を取りました。と、年下のくせになんて強引な!


 さすがに振りほどいて逃げるわけにもいかず、私はフィリップ殿下に引きずられるようにたどたどしくダンスを踊りました。


 なんの辱めですかこれは!?


 ふと横を見ると縦ロールさんがどこかの美形貴族と華麗にダンスしています。一瞬目が合うと、何故かウィンクをしてきました。えっ、どういう意味のウィンクですか?


 謎の公開処刑を終え、クタクタになった私がソファーに座ると、フィリップ殿下がフルーツの盛り合わせを手に隣へ座りました。まだ来るの!?


「お疲れ様です。喉が渇いたでしょう?」


 そう言って差し出された名前も知らないフルーツをありがたくいただき、一息つきます。もうどうにでもなれ!


「ふう、今日は一体なんのお祝いなのですか? 私なんかより、一緒に踊るべき方がいらっしゃるのでは?」


 宮廷魔術師に構ってる場合じゃないですよ。どう考えてもこれは王子と貴族の令嬢のお見合いパーティーですよね?


 しかし、殿下は私の言葉に首を振りました。


「何をおっしゃいますか。これは私とエスカ様がお話をするために用意されたパーティーですよ。全員このために集まっているのです」


……


…………


………………は?


 今、なんて言いました?

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