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黒幕は商人?

 クレメンスさんはフォンデール王国の宰相なので、宮廷にある宰相府にいます。いつもギルドにやってくるイメージですが、ここで多くの国民からの陳情を聞き(だいたい貴族ですが)膨大な量の仕事をこなしているのです。


「宰相閣下に至急お話ししたいことが」


「エスカ・ゴッドリープ様ですね! どうぞお通りください」


 入口の守衛さんは私の顔を覚えているのですぐに通してくれますが、こんな警備で大丈夫なのでしょうか? 何にせよ今はクレメンスさんと相談しなくてはいけないので、ありがたく通らせてもらいます。いつもビシッと敬礼されるのでちょっと戸惑いますが。


「ようこそ、エスカ殿」


 クレメンスさんは執務室に私がやってくると、机に積み重なった書類を横に押し退けて笑顔を向けてきました。大丈夫ですかその仕事?


「カーボ共和国のことですが、ハイネシアン帝国と通じている一派がいるようです」


「そうでしょうね」


 クレメンスさんは驚いた様子もなく、当然のことのように頷きました。これは、最初から分かっていたという顔ですね。私はさっきまで考えもしなかったのに……ぐぬぬ。


 ここは陰謀のプロであるクレメンスさんに考えて貰いましょう。これまでに見てきた内容を全て話しました。すると宰相閣下は満足そうに頷き、満面の笑みを浮かべます。


「なるほど、裏切り者は材木商のブラッドレーですね。彼は以前からソフィーナ帝国の宰相ユダと取引で直接会っていましたし、木材の買い付けでカリオストロとも顔馴染みでしょう。反乱軍のカリオストロに支援をしていたのも彼です。エスカ殿のおかげで、全ての情報が一本に繫がりました」


 なんか納得してますが、私はその名前も初耳なんですけど!?


 やはり国家の陰謀は政治家に任せておいたほうがいいですね。庶民の私はそういうのには向いていません。


「ちょうど今、ヨハンさんとシトリンさんがユダを追ってカーボ共和国に入るところです。ブラッドレーのことも伝えておきましょうか?」


 ヨハンさんにその手の駆け引きができるとは思えませんが、彼の危機察知能力とシトリンさんの……シトリンさんの……何かありましたっけ? まあ、意外とどうにかしてしまう二人です。


「それはやめておいた方がいいでしょう。奴は警戒心の強い男です。自分が疑われているとわかれば、またどこかへ逃げてしまいます。今はそれよりも、奴の商売に揺さぶりをかけるべきです」


 やはり断わられました。ヨハンさんなら真っすぐにブラッドレーのところへ行きそうですもんね。でも商売に揺さぶりをかけるというのは、一体?


「長老の偽者はカーボ共和国から買えと言っていたのでしょう? 結局のところ、奴の目的は自分が金を儲けることです。そのためには世界が荒れようと知ったことではないのでしょう。ですから、その商売を邪魔してやればいい」


「でも、どうやって?」


「ダンジョンコアを利用しましょう。木の迷路を作るダンジョンがありましたよね? あそこに伐採の得意な工芸者クラフターを投入して、良質な木材を大量に入手するのです。可能であればコウメイ殿にダンジョンコアを飼い慣らしていただきたい」


 なるほど、あのダンジョンは数日で発生しました。伐っても伐っても木が生えてくるというわけですね。ドンケルハイトなる謎の資源が必要な気もしますが、そこはコウメイさんにお任せしましょう。ブタさん達の生活にも影響しそうですが、この件が終わったら彼等にダンジョンの木こりをしてもらうという手もありますね。


「あの三つのダンジョンは理想的です。木材、石材、そして綺麗な水。人間の生活に必要な資源が大量に手に入るんですから。陛下にお願いしてハンニバル将軍には勲章を授与しようとおもいます」


 ハンニバル将軍……初めて見たときは偉そうなハゲだと思ったのですが、彼には彼の信念があって、名誉欲はあっても功を焦らず、その上腕も確かでした。第一印象で決めつけてはいけませんね。サフィールを取り逃がしたというのも、もしかしたら口ではああ言いながらこっそり便宜を図っていたのかも。


「話は変わりますがエスカ殿、今夜宮廷でダンスパーティーが開かれるのですが」


「そういうのは苦手なんですよ」


 隙あらば貴族のパーティーに誘ってくるクレメンスさんですが、あんなところは息が詰まって仕方ないので極力関わり合いになりたくないんですよね。


「そう言わずに。陛下もエスカ殿と積もる話をしたいと仰せです」


 うぐ、陛下にまでご指名されたら断るわけにはいきません。宰相閣下なら断ってもいいのかというとあれですけど。それにしてもなんだか最近は押しが強くなってきましたね。なんでそんなに宮廷魔術師を貴族の集まりに参加させたいのでしょうか?


「わかりました。ギルドの用事が終わったら宮廷に顔を出します」


 面倒だけど、組織の円滑な運営には人付き合いも大事です。エルフを冒険者にしたことで貴族達もうるさいですし。この機会に誤解を解くのもいいかもしれませんね。

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