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新たな仲間

 旧ハイムリル領からクレルージュまでの道が開通しました。これから一般人も使えるような道路に整備するのに数ヶ月はかかりますが、そちらは両国に雇われた技術者が行うので冒険者ギルドの指令はこれで終わりとなります。


「今回の報酬はなんと1000デントです! 報酬から分かるようにDランク指令となっています。ランクアップの理由としては両国にもたらした利益の大きさと、追加の要素を見事に解決したためですね」


「偽者の件っすね!」


 ヨハンさんが目を輝かせて言います。自分も関わっているので誇らしいのでしょうが、違いますね。皇帝陛下のお守りの件です。そちらもヨハンさんは貢献しているのですが、わざわざ説明する必要もないでしょう。私は曖昧に笑顔を返しました。


「それでは参加者の皆さんに配りますよ!」


「ああ、ついに開拓の報酬を受け取ることが出来るのですね!」


「これでしばらくは余裕のある生活が出来ますね、ソフィア様」


 んん?


 ギルドには当たり前のようにソフィアさんとアルベルさんがいます。


「あれ? ソフィーナ帝国に帰ったんじゃなかったの?」


 ミラさんが気安く話しかけました。もう仲良くなっているし依頼も終わったので気を使う必要はないのですが、一応相手は隣国の皇帝陛下ですよー。


「宰相を説得してきました。我が国にも冒険者ギルドがあった方がいいと」


 ほほう、冒険者ギルドが増えるのは良いことですが、それとソフィアさんがここにいるのとどういう関係があるのでしょう?


「独自に新しく作るよりは今あるこちらのギルドの支部を作るべきと提案しましてね。そのためにアーデンのギルドをもっと発展させようという方向に話を持っていったら宰相閣下も渋々認めてくださいました」


 なるほど。アルベルさんが交渉したのでしょうか? その話、肝心の私に伝わっていないのですが。


「聖職者は必要ですよね?」


 ニッコリと笑うソフィアさん。確かに聖職者は未だにソフィアさんしか登録されていないので、職業的には非常に貴重な戦力なのですが、身分が問題なんですよ。ソフィアさんが皇帝じゃなかったら大歓迎なのに。


「大丈夫ですよ、冒険で命を落とした場合宰相が次の皇帝になるという念書を作ってきましたから。万が一の場合にも混乱が起こることはありませんし、ギルドにも迷惑はかかりません」


 それ、別の危険が生まれませんかね? あちらの宰相閣下はなんて名前でしたっけ。ちょっとコタロウさんあたりに動向を探ってもらった方が良さそうな気がしてきました。


「そんなわけで、引き続きギルドの冒険者としてよろしくお願いします」


 こちらが一言もしゃべらないうちに強引に話を決められましたが、まあいいでしょう。ギルドとしてはあちらの国から文句が来なければ問題ありませんからね。


「分かりました。お二人の分の報酬もちゃんとフォンデール王国から預かっていますし、こちらも貴重な戦力が得られるならそれに越したことはありませんからね」


「その報酬、二人が国に帰ってたらどうするつもりだったぬー?」


 ぎくっ。


「はいはい報酬を配りますよ! ヨハンさんこちらへ!!」


「はいっす!」


 ヨハンさんに報酬を渡して話を変えます。いつまでも話を続けていたら日が暮れてしまいますからね!


「もしかしてエスカ、自分の懐に……」


「そういえば森で火事があったような……」


「何でもありません!!」


 余計な言葉を口にしようとしたミラさんを黙らせて報酬を渡します。いや、別に自分の懐に入れるつもりなんて元々ありませんでしたけどね? ギルドの非常時用にプールしておこうかなとかちらっと考えてたぐらいですよ?


 皆さんに報酬を配り終えた後、サラディンさんの提案でソフィアさん達の歓迎会を恋茄子亭で開くことになりました。これからは正式な冒険者仲間ですからね、親睦を深めるのは大切なことです。


「わあ、冒険者っぽいですね!」


 目を輝かせるソフィアさん。もう本当の冒険者ですよ? 依頼もどんどんこなして貰いますからね!


「歓迎会をして頂けるとは、ありがたいことです」


 そう言って、アルベルさんが兜を脱ぎました。兜の下から出てきたのは、鼻筋の通った端正な顔立ち。グレーの髪と瞳がどことなく神秘的な雰囲気を演出します。


「さすが騎士様は鎧の下も美形ね~♪」


 恋茄子が彼の容姿を褒めると、ちょっと恥ずかしそうにします。意外に可愛い反応をしますねー。


「恋茄子に惚れてはいけませんよ」


 コウメイさんが眼鏡をクイッとしてアルベルさんをからかいます。……からかってるんですよね?


「大丈夫だ、胸の無い女性に興味はない」


 ん?


 聞き間違えでしょうか。何か聞き捨てならない発言が飛び出したような気がします。


「あら、そうなの~? じゃあギルドマスターは?」


 なぜそこで私が出てくるんですか? 一体どういう意味ですか?


 ちらりと私の胸元に視線を向けた後、アルベルさんは首を振りました。


「残念ながら……足りません」


堪忍袋バーストストレージ!】


「ぐわあああ!」


「ああっ、アルベル!」


「黒焦げだぬー」


 こうしてギルドは新たな仲間を迎え、賑やかな夜が過ぎていくのでした。あっ、アルベルさんは貢献ポイント減らしておきますね。

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