「さあ、ミミックを捕まえましょう!」
やる気満々に眼鏡をクイッとするコウメイさん。さすがに魔族を捕まえるつもりはないんですね。というわけで偽者が潜伏しているアジトを騎士団と共に襲撃する時間がやってきました。
おそらく黒幕のメヌエットはミラさんとヨハンさんが撃退したので、偽アルベルだけが残っているものと思われます。一応さきほどサラディンさんに森での一件を伝えておきました。
「相手は黒騎士だ。手強い相手だが聖職者がいなければ数で押せる」
サラディンさんが偽ソフィアはミラさんが焼き払ったと伝えると、コウメイさんが不満げに言います。
「貴重なレアモンスターを燃やすなんて、あの人はもうちょっと手加減というものを身に付けて欲しいですね」
それに関しては心の底から同意しますが、ギルドの目的はモンスター捕獲ではないですからね?
「偽者の他には何人か冒険者がいるようですが、騎士団が何とかしてくれそうです」
コタロウさんの偵察によると、本物と信じて集まった人達は別に
「そいつらの前でミミックの正体を暴いちゃえばいいのよー」
マリーモさんが軽い調子でいいますが、それが最善の策でしょうね。コウメイさんも満足するし。
「どうやるんすか?」
コタロウさんの問いに、コウメイさんが眼鏡をクイッとしました。いや、説明しましょうよ。
「なるほど」
何が!?
コタロウさんは納得したようです。
作戦開始です。正直な話、特に苦戦することは無いと思います。アルベルさんの能力をコピーしたミミックが危険なぐらいでしょう。
精鋭の騎士団がアジトを囲み、逃げ場を無くしたところで突入です!
「おっぱあああああああああい!」
は?
中から謎の絶叫が聞こえてきました。声から偽アルベルと分かりますが、ご本人の名誉を汚すような言動はやめてくださいね。
「どうやら制御する魔族が遠く離れて暴走しているようですね」
コウメイさんの解説によると、ミミックはあくまでも自分の身を守るために擬態するモンスターなので、飼い主の魔族にコントロールされていないと動揺してパニック状態に陥るそうです。
周囲の冒険者は困惑した表情で遠巻きに見ています。まあ雇い主が突然発狂しだしたら困惑しますよね。そのまま騎士団が保護していきます。
「おっぱい!!」
偽アルベルがサラディンさんに斬りかかります。一瞬で三回の斬撃を繰り出す剣技は本物と変わりませんが、とりあえずその掛け声をなんとかしてください。台無しです。
「ふんっ!」
サラディンさんは同じく目にも止まらぬ速さで剣を振り、全て受け切りました。さすが剣聖!
「動きを止めます!」
コタロウさんが先っぽに重りのついた鎖を投げて偽アルベルの身体に巻き付けました。
「おっ、おっぱい!」
うまく動きを止められたようです。畳みかけるようにマリーモさんが子守唄で眠らせます。
「おっ……ぱ……い」
どうやら捕獲成功のようですね。色々と台無しなのでコウメイさんは正体を暴きつつ正気に戻してあげてください。
「それではこの魔宝石を使いましょう。スライムから取り出すのに成功したんですよ」
「さすがイケメン博士ねー」
コウメイさんが懐から出した魔宝石を見て、私の隣に立っている覆面商人が体を震わせました。いくらで売れるか考えているようです。それにしても、もう魔宝石の製法を確立したんですか。これはギルドというよりフォンデール王国への貢献度が凄いことになりそうです。
「さあ、正体を見せなさい」
コウメイさんが眼鏡をクイッとしながら魔宝石をかざすと、黒い鎧が溶けるように崩れていきます。数秒後、そこにいたのは人間の腰ぐらいの高さを持つドロドロとした山形の物体でした。スライムよりももっと流動的な感じですね。
「オッパイ」
それミミックの鳴き声だったんですか!?
「どうやら変身した相手から言葉を学んだみたいですね」
コウメイさんが眼鏡をクイッとして解説しました。ええと、そこはあまり深く考えない方が良さそうですね。
「さあ、偽者は捕まえた。黒幕は逃亡したが後は騎士団に任せて我々は本来の任務に戻ろう」
台無しな空気を吹き飛ばすようにサラディンさんが気合を入れて、受け入れチームは開拓チームの受け入れ準備に戻るのでした。
「フフフ……ミミックの能力は実に興味深いですね」
「オッパイ」
コウメイさんは不気味な笑いを残してミミックと共に去っていきました。本当にマイペースな人です。
そして、次の日。とうとう開拓チームがカイラスに到着しました!
はあ、やっと皇帝陛下に気を使う必要が無くなるんですね。結果としては気を使う必要は全くなかったのですが、どんな天然さんでも皇帝は皇帝ですからね。
「お待ちしておりました、皇帝陛下。ご満足いただけましたかな?」
そうそう、みんなには秘密にしていましたが、ソフィーナ帝国の宰相がカイラスに移動してソフィアさんを待ち構えていました。あ、笑顔だけど額に血管が浮いているのが見えます。ふくよかで人の良さそうな中年男性なのですが、全身から怒りのオーラが立ち昇っていそうなほど威圧感を発していますね。
「どちら様でしょう?」
この期に及んでまだしらばっくれるソフィアさん。さすがに無理があります。
「ええっ、ソフィアっちは皇帝陛下だったっすか!?」
最後まで気付かなかったヨハンさん。ミラさんのおかげで無事合流していました。
「ソフィア様……」
アルベルさんがソフィアさんに顔を向け、二人で頷き合います。これは、まさか……?
「逃げます!」
「御意!」
二人はダッシュで逃げ出しました。帝国の宰相さんが追いかけていきます。
「こらー、待ちなさーい!」
……まあ、ギルドとしては任務達成ということでいいんですよね?
「これが今回開通した道だぬー」
タヌキさんが何事もなかったかのようにサラディンさんに地図を渡しているのを見ながら、私はため息をつくのでした。