目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
道を作ろう

「というわけで、王国からの指令です。旧ハイムリル領からソフィーナ帝国首都クレルージュまでの道を開拓してください!」


 実際にはカイラスまでですけどね。帝国内の道はとっくに整備されているので、そこまで道を繋げるわけです。


「うおおお、俺の前に道はない! 俺の後ろに道はできるっす!」


 ヨハンさんが急に名言っぽい発言をしました。やる気満々のようです。ソフィアさんとアルベルさんも目的が達成できるとあって嬉しそうですね、鎧に包まれた黒騎士の感情が伝わるのも不思議ですが。


「参加者はどうなるぬー? 俺も参加できるぬー?」


 タヌキさんは嫌だと言っても参加してもらいますよ?


「今回はミラさんがリーダーです。あとはポンポさんヨハンさんソフィアさんアルベルさんの五人ですね。道中のモンスターを退治して、工事をする技術者達が安全に作業できるようにするのが皆さんの役目です」


 この開拓で重要なのは木を切り倒し、地面に石を敷いて道を作る工芸者クラフターです。本当は指令の主役も彼等なのですが、今回はソフィアさんが開拓に参加しているという事実が大事なので、護衛役である戦闘チームを表向きメインに据えています。


「サラディンさんやコタロウさんはこないんっすか?」


 当然の疑問ですね。ギルドの主力メンバーがこんなに大掛かりな指令に参加しないというのは通常考えられないことです。


「サラディンさん、コタロウさん、マリーモさんには一足先にカイラスへ行ってもらいました。例の二人組について探ってもらうのと、開拓チームの出迎え準備ですね」


 偽者はフォンデールとソフィーナ、二ヶ国で調査に乗り出しています。内部事情を知っている相手ですから、当然その動きも予測しているでしょう。まあ、私の考えでは偽者二人はただの下っ端に過ぎないでしょうけどね。


「偽者を捕まえるっすか! そっちの方がなんか勇者っぽい気がするっす!」


「そっちが勇者っぽい気がしてもヨハンさんは開拓メンバーをモンスターから守る役目です。騎士を目指すなら仲間を守らないと」


 ヨハンさんはソードマスターから黒騎士に目標を変えたので、そっち路線でたしなめることにします。


「その通りです!」


 アルベルさんが力強く同意してくれました。黒騎士が言うなら間違いないでしょう。


 ソフィアさんにつき従っているアルベルさんが黒騎士というのは少々違和感がありますけどね。一応黒騎士と呼ばれる存在は少数ながら色々な場所で確認されているのですが、基本的に主君のいない騎士がその立場を示す意味合いで黒騎士と呼ばれているんですよね。


 まあ、彼のことだから単なる趣味なのでしょうけど。


 さて、両パーティーとも出発しましたし、例によって追跡を行いましょう。まずはソフィアさん達の方です。最悪、サラディンさん達の方はログでの確認でもいいでしょう。


 石板に魔法をかけると、開拓パーティーの姿が浮かび上がってきました。


「まずは旧ハイムリル領へ向かいましょう!」


 ソフィアさんが珍しく先頭を歩いています。元気いっぱいというか、ウキウキとした様子で歩く白づくめの彼女の後を、黒い鎧騎士がぴったりと付いて歩いています。いつどこから敵が襲ってきても守れるようにしているのでしょう、素晴らしい忠誠心ですね。


「とりあえず道になるところを焼き払いながらすすまない?」


「そんなことしたら燃え広がって火事になるぬー」


 さらりと物騒なことを言うミラさんに、タヌキさんが至極当然の指摘をします。よかった、タヌキさんがいてくれて!


「モンスターは出てこないっすかー?」


 まだ出発したばかりだというのに、ヨハンさんはモンスターと戦いたくて仕方ないようです。心配しなくてもすぐに戦いが待っていますよ。


 旧ハイムリル領までは、フォンデール領となったファーストウッド周辺の森を掃討しながら北上して安全を確保してもらいます。そこから工芸者が工事をしている間、彼等が周囲を守るという流れになります。期間としては約一ヶ月でとりあえず森の木を切り倒して縦断する道を作り、その後の整備は冒険者ではない一般の業者が時間をかけてやっていくことになります。ヨハンさんやソフィアさんが途中で飽きてしまわないか心配になりますが、ソフィアさんが飽きたらそれはそれで私の心が楽になりますね。


 最初の一日は順調に過ぎていきます。何度か現れたゴブリンをヨハンさんが嬉々として倒し、ソフィアさんも他の冒険者達と仲良くなっていきました。


 その夜。


「ソフィアっちとアルさんはソフィーナ帝国の皇帝陛下を見たことがあるんすよね? どんな人っすか?」


 ついにヨハンさんが地雷を踏んでいきます。これまでの話からこういう質問が出るだろうことは想定していますが、さてどう答えるのでしょうか? 実は本物ですとかカミングアウトしてくれませんかね?


「そうですね……とても美しく、優しいお方でしたよ」


 自分で言ったーーーー!!


 躊躇ちゅうちょなく言い切りましたよこの人。まあ、あくまで他人の振りをしているのだから、変に動揺するよりいいのですが。


「そうだ。ソフィーナ十四世は非常に聡明で見目麗しく、慈悲深いお方だ。あと胸が大きい」


 アルベルさん? 本人を前にその補足必要ですかねぇ!?


「へー、じゃあソフィアっちみたいな人なんすね」


 ヨハンさんの言葉にソフィアさんが嬉しそうにしています。隣で聞いているミラさんとタヌキさんの顔が真っ赤になっていますが、これは笑いをこらえていますね。なんかフォローしてあげてくださいよ。


 こんな調子であと一ヶ月もやっていけるのでしょうか?

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?