「冒険者になって最初の依頼なら、荷物の配達っす!」
おおっ、ヨハンさんがまともなことを言っています。彼のことだからゴブリン退治とか言い出すだろうと決めつけていました。
「初心者には妥当だぬー。でも四人パーティーでやるならもうちょっと難易度を上げてもいいと思うぬー」
ここでタヌキさんから異論が出ました。確かにこのメンバーなら、もっと高度な依頼もこなせるでしょう。指令と違って一人辺りの報酬は人数に反比例しますからね。
こういう話し合いも冒険者には大切な経験なので、私は意見を求められない限り口は出しません。
「なるほど、お二人の意見はどちらも納得のいくものですね。ソフィア様はどうされたいですか?」
アルベルさんがソフィアさんの希望を聞きました。聖職者である彼女を一人前にするためという名目ですから、彼女の意思を確認するのは大事ですね。
「そうですわね……実は気になっていた依頼があって、この『薬草採取』というものをやってみたいわ」
これまた初心者向けの定番依頼ですね。四人でやるには報酬もいまいちですが、危なくないので最初にやるには良いのではないでしょうか?
「いいっすね! 地道にコツコツやるのが一番っす!」
ヨハンさんは何か変なものでも食べたのでしょうか? 普段の彼からは考えられない発言です。
「ソフィアがやってみたいなら、それがいいぬー。でもただの薬草採取だと四人では稼ぎが少ないぬー。冒険者は依頼の報酬で生活するから、かかる時間と報酬のバランスを考えるのも大切ぬー」
タヌキさんが、賛成しつつも現実的な話をします。確かに、お金に困ったことがなさそうなソフィアさんにはそういう考え方を教えるのも重要かもしれません。アルベルさんとソフィアさんの二人はふんふんと頷きながら聞いています。
……なぜヨハンさんも感心してるんですかね?
「だから、この依頼がおすすめぬー」
タヌキさんが示したのは、希少な薬草の採取です。恵みの森でも限られた場所にしか生えていないレア薬草
「恋茄子は幻覚作用のある薬草で、引き抜くと恐ろしい悲鳴を上げて聞いた者を絶命させるという伝説もあります。もちろんただの迷信ですけどね」
私が薬草の説明をすると、ヨハンさんとソフィアさんの目が輝きました。
「面白そう!」
「なんか強そうっすね!」
あ、いつものヨハンさんです。何気に似た者同士ですね。
「生息地は恵みの森でも奥深い場所です。ボガートがうろついているので戦闘の準備もしてくださいね」
ボガートは以前ミラさんに巣を焼かれましたが、それで絶滅するわけもなく。恵みの森にはよく現れるモンスターです。弱いのでこのパーティーなら負けることはないでしょう。それよりも道に迷ったりする方が心配なのでちゃんと追跡しますよ。
「ボガート程度なら私にお任せを。ソフィア様には指一本触れさせません」
鎧の騎士が自信満々です。実際、帝国護衛兵にとっては恐れる要素がない相手ですからね。
「かっけええ!」
またヨハンさんが感動しています。
「地図と
タヌキさんはそんな二人を尻目に、ソフィアさんに必要な準備の説明をしています。さすが森のタヌキさん!
「それでは、いってらっしゃいませ」
私は四人がギルドを出発するのを見送ると、彼等の追跡を開始するのでした。あ、ちゃんと他の冒険者はサラディンさんやミラさんが対応しているのでギルド運営の心配はいりませんよ? 今はソフィーナ陛下の安全と満足が第一優先ですからね!
ギルドを出た四人は、まず道具屋に向かいました。ちゃんとタヌキさんの忠告を聞いて地図と方位磁針を買うようですね。幸先の良いスタートです。
「地図はどう使うのです?」
「ここに書いてあるのが北を示す印だぬー。方位磁針のこの赤い針が指す方向を、地図の印のこっち側に合わせると簡単に今向いている方向が分かるぬー」
「へー、そうなんっすね!」
タヌキさんの説明に感心するヨハンさん。あなたが教える立場なんですよ?
今まで地図の使い方を知らずに冒険していたのですか……よく生きてますね。
「ここに恋茄子の生息地があるのなら、フロンティア街道のこの辺りから入るのが良さそうだな」
アルベルさんが地図の一点を指差します。
「そこならよく知ってるっすよ。途中まで乗り合い馬車でいくっす!」
あー、ヨハンさんが小麦粉を盗まれた辺りですね。そういえばあの女性は一体どこの誰だったのでしょう?
「森の中で薬草探し……ずっと夢に見ていた冒険物語を、ついに自分で体験できるんですね!」
ソフィアさんが嬉しそうです。何かお好きな物語があるようですね。たぶんその中に主人公が薬草を採取するシーンがあるのでしょう。皇帝陛下にはそういうことをする機会がなさそうですから、憧れていたんでしょうねー。
さて、このまま何事もなく依頼が終わってくれればいいのですが。