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先輩冒険者

 冒険者登録をしただけでは指令に参加させるわけにはいきません。ソフィアさんの目的は旧ハイムリル領とソフィーナ帝国首都クレルージュまでの道を開拓することですからね。そんな大事業はもちろん指令になります。


「冒険者に登録したら、まずは依頼をこなして貢献ポイントを貯めましょう。国から出される、開拓などの指令に参加する人は普段の働きを見てこちらで選ばせてもらいます。指令は普段の依頼より格段に報酬がいいですから、よかったら参加を目指してくださいね」


 こちらが彼女の正体を知らないという設定を貫くためには、ちゃんと貢献してもらわないといけません。この開拓の指令自体はもうクレメンスさんから請け負っているので、あとはこの二人が客観的にも指令に参加するに足る貢献をしたら開始する手筈てはずになっています。


「それなら一気に貢献ポイントが稼げる依頼を選んだらいいかしら?」


 その方が手っ取り早くていいんですけどね、身分とか関係なく新米冒険者に危険なことはさせられませんよ。と、私が口を開こうとするとアルベルさんがソフィアさんを制しました。


「いえ、何事も最初は簡単なことから経験して慣れていった方が結局は近道になるものです。まずは新米冒険者向けの楽な依頼を探しましょう」


 おお、いいこと言いますね。ただ皇帝についていくだけの護衛兵ではないようです。


「それでは、この」


 私が言いかけた、その時です。


「なんか黒い鎧の人がいるっす! カッケー!」


 ヨハンさんがギルドの入口からやってきました。今日は依頼を受けにきたようですね。あまりソフィアさん達と関わって欲しくないのですが、さすがにそれは無理な話です。


「もしや冒険者の先輩ですか? 初めまして、この度冒険者として登録させていただいたソフィアと申します。こちらはアルベルです」


「私はソフィア様の護衛を任されている黒騎士のアルベル・ハイムリルだ。よろしく」


 ソフィアさんがニコニコしながらヨハンさんに自己紹介をすると、アルベルさんも続いて自己紹介をしました。黒騎士をアピールしないと気が済まないんですねわかります。


「黒騎士!? そ、そんな最高にカッコいい職業があるっすか!」


 先輩と呼ばれて調子に乗るかと思ったのですが、黒騎士に食いつきました。ヨハンさんの優先順位は『カッコいい』が一番にくるようです。


「どっ、どうすれば俺も黒騎士になれるっすか!?」


「ええと、まず騎士にならないといけませんから普通には無理です。よほど国に貢献して騎士に叙任され、自分の馬を持つ必要があります」


 私の説明を受けたら諦めるかと思ったのですが、更に目を輝かせます。これは完全に黒騎士を目指すつもりですね、まあソードマスターなんてよくわからないものよりは条件がはっきりしているからいいのではないでしょうか?


「国に貢献すれば良いんすね! ならそんな感じの依頼が欲しいっす!」


「依頼ですか……」


 どうしましょう。彼の求める条件にうってつけの依頼があることに気付いてしまいました。でもこれは非常にリスクが大きいです。


「ちなみに、バルトーク共通語で黒騎士くろきしと言っているが私はソフィーナ帝国で騎士になったので黒騎士シュバルツ・リッターというのが正しい」


 なに出自まで明かしてるんですか、ちょっとは隠してください。とりあえず聞かなかったことにして、アルベルさんはどうやらヨハンさんの態度にかなり気を良くしている様子です。やはり任せるわけには……。


「かかか、かっけえええええええええええ!!」


 ヨハンさんの『カッコよさメーター』が振り切ったようです。このままではらちが明かないので適当な依頼でも紹介して出ていってもらいましょう。


「大丈夫だと思うぬー」


 と、そこに今まで黙って見ていたタヌキさんが声を上げました。私の方を見て大丈夫って言うからには、つまりさきほど頭によぎったあの件についてでしょう。このタヌキさんは読心術でも身に付けているのでしょうか?


「うおっ、獣人族!? すげー、初めて見たっす」


「俺はネーティアの森から来たポンポ・コタヌーだぬー。さっき登録した太鼓打ちだぬー」


「へー、太鼓打ちってどんな職業っすか? あ、俺は剣使いのヨハンっす。皆さんよろしくっす」


 一気に穏やかな自己紹介ムードに戻りました。タヌキパワー凄い。


「で、何が大丈夫なんすか?」


「それはギルドマスターがヨハンくんに任せようか迷っている依頼のことだぬー」


 うぐ、先手を打たれてしまいました。こうなったらもうヨハンさんが関わらないという選択肢はありませんね。ならば!


「分かりました。そのかわりポンポ・コタヌーさんにも参加してもらいます。ソフィアさんアルベルさんヨハンさんポンポさんの四人でパーティーを組むという条件でなら、この依頼についてお話しましょう」


「あら、何か凄そうなお話なのに私達も加わってよろしいのですか?」


「やるっす!!」


「ソフィア様と一緒なら私はどんな任務でも構いません」


「オッケーだぬー」


 どうやら皆さん乗り気のようですね。タヌキさんがいれば何とかなるでしょう。私は意を決して告げました。


「ではお話しましょう。現在冒険者ギルドには聖職者が今登録したばかりのソフィアさんしかいません。そして実は国からこの前よりも更に難易度の高い指令が来ていて、是非とも聖職者に参加して欲しいのです。ですが先ほども言いましたように、駆け出しの冒険者をいきなり指令に参加させるわけにはいきません。よって、ヨハンさんにはソフィアさんが指令を受けられる一人前の冒険者になれるように冒険のサポートをお願いしたいのです!」


 説明していませんが、これはソフィーナ帝国からフォンデール王国への正式な依頼でもあるので、見事達成すれば当然フォンデール王国とソフィーナ帝国両方に多大な貢献をしたということになります。指令も旧ハイムリル領からソフィーナ帝国首都クレルージュまでの道を作ることなので、やはり両国に貢献できます。黒騎士にぐっと近づきますね。皇帝陛下と仲良くなれれば更に可能性は高まるでしょう。


「うおおお、指令っすか! やるっすー!!」


 ヨハンさんだけでなく、ソフィアさんとアルベルさんもかなりやる気になっています。


 タヌキさんがいるとはいえ、ヨハンさんに任せるのは不安でしょうがないので例によって追跡を行いましょう。

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