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癒し手ソフィアと黒騎士アルベル

 ゴブスラ洞窟を攻略したことで各国から冒険者ギルドの存在を認知されたようで、最近国外からも登録希望の冒険者がやってきます。


 先ほど登録にやってきたポンポ・コタヌーさんもその一人です。なんと人間ではなくタヌキの獣人で、フォンデール王国の北東、ネーティア内の大森林に集落を作る獣人族だそうです。


「あのまま森にいたらハイネシアン帝国に攻められて奴隷にされるところだからぬー」


 ポンポさんはバルトーク共通語 (この世界の言語)も堪能ですが、獣人特有の独特ななまりがあります。具体的には語尾に「ぬー」がつきます。


 訛りのおかげでのんびりした印象を受けますが、世界情勢を見極めてこの国までやってくる辺り、抜け目のない人物なのでしょう。まあタヌキですし。左目につけたモノクルも知的な空気を漂わせています。でも職業は太鼓打ちで役割は戦士ですけどね。腹太鼓でも叩くのでしょうか?


「冒険者になれば少なくともフォンデール王国の平民以上の扱いにはなりますから、帝国の奴隷よりはずっと自由に生きられますよ。その分命の危険もありますけど」


「大丈夫だぬー、狸流棍術でモンスターも余裕だぬー」


 バチをブンブン振り回して強さアピールをするタヌキさん。サラディンさんの見立てではヨハンさんよりずっと強いらしいので大丈夫でしょう。


「失礼します。こちらが冒険者ギルドでよろしいでしょうか?」


 タヌキさんの登録を終えて雑談しているところに、新たな人物がやってきました。


 ギルドの扉を開けて入ってきたのは二人組。一人は白いローブを身につけた、見るからに育ちの良さそうな女性。その後ろで女性を守るように立つ黒い全身鎧の剣士です。


 あー、ついに来ましたね。それにしても、こんなに分かりやすい恰好をしているのに気付かないふりをしないといけないのは厳しいですね。しかもこの件、知っているのは私とミラさん、サラディンさんの三人だけです。


「おー、キミ達も冒険者希望かぬー? 俺も今登録したところなんだぬー」


 タヌキさんが気さくに話しかけます。相手の正体を言い当てないかとハラハラしながら見ていると、一度こっちに顔を向けてウインク。分かってると言いたいのが伝わってきます。どうやら彼女の正体にすぐ気づき、更に私の反応を見て事情を察したようです。思った以上に切れ者で気遣いのできるタヌキさんですね。それヨハンさんにちょっと分けてあげてください。


「君は獣人か。冒険者に登録したということは奴隷として働いているのではないのだな」


 鎧の人が落ち着いた口調で話しかけます。声からすると男性のようですね。


「そうだぬー、俺はポンポ・コタヌー。ネーティアの森から冒険者になりに来たんだぬー」


 タヌキさんが自己紹介をすると、女性が嬉しそうに声を上げました。


「まあ、それでは私達と同じですわね。私はソフィアと申します。このアルベルと共に冒険者になるためにソフィーナ帝国からやってまいりました」


 ソフィアって……偽名にしてはそのまま過ぎませんかね!?


「話には聞いていたが、このギルドは誰でも受け入れてくれるのだな。素晴らしい。私はアルベル・ハイムリル、ソフィア様の身を守るためにいる」


 ソフィア様とか言わないでください! いかにも偉い人の護衛じゃないですか……って、ハイムリル?


 まさか、あの帝国護衛兵になったハイムリル家の人ですか? そこも偽名にして貰えませんかねぇ!?


「そうなんだぬー、よろしくだぬー」


 タヌキさんは何も気にしていないかのように、自然な態度で二人を私のところまで案内してくれました。これは有望な新人です、こんなに安心感のある冒険者がこれまでいたでしょうか? 私の中でサラディンさんの次ぐらいの信頼レベルに達しました。人格的な意味で。


 さて、まるで隠す気が感じられない皇帝陛下とお供を冒険者登録しましょう。


「はい、冒険者登録をご希望ですね? どのような技能をお持ちか教えていただけますか?」


 冒険者がどんな技能を持っているのかは登録する時に魔法で分かります。ただしです。仮にそこでも偽っている場合、うまく話を誘導して正体バレを防がなくてはなりません。


「私はこう見えて癒しの力を持っています」


 白銀の杖を胸の前で掲げ、言います。こう見えてもというかどう見ても聖職者の恰好ですけどね。思わず彼女の姿をじっくりと見てしまいます。長い銀髪に透き通った肌、薄いグレーの瞳は全体的に白いという印象を与えます。特筆すべきは、ゆったりとした白いローブの上からでもはっきりと分かる巨大な双丘。一体何を食べたらこんなに育つのかと、つい自分の胸と見比べてしまいました。


 それはあまり気にしていると精神的にダメージが大きいので置いときましょう。重要なのは、この冒険者ギルドには未だ聖職者がいないということです。初めての回復要員ともなれば、こちらとしても歓迎の態度を取らなくてはなりません。この人が皇帝じゃなければ本当に大歓迎なんですけどね……はぁ。


「私は見ての通り、剣士だ。魔法は使えないが剣の腕ならそれなりに自信がある」


 アルベルさんはそのまま剣士ですね。ところで騎士に叙任されているんでしたっけ? 叙任されていると勝手に職業が騎士になるのですが。まあ騎士が冒険者になるぐらい、珍しいことではありませんから流しましょう。


「それではこちらで魔法による解析を行います。登録のために必要なのでご了承ください」


 身分を偽っているのだから焦るかと思いきや、二人は躊躇ちゅうちょなく解析を受けました。その結果、ソフィアさんは聖職者/癒し手、アルベルさんは戦士/騎士となりました。


「騎士か……」


 アルベルさんが職業を気にしました。そこはサラッと流しましょうよ、大丈夫です、騎士の冒険者なんて珍しくないですから!


「黒騎士にできませんか?」


 はい? 身分バレとかじゃなくて、ただのこだわりですかそうですか。


「できますよ、ではアルベルさんは黒騎士ということで」


 なんだかこちらが緊張しているのも馬鹿らしくなるぐらい、二人は普通に登録を済ませたのでした。

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