さすがに浅いところにはお宝はありませんね。サラディンさんが指示を出して一階をくまなく探し、ミラさんがスライムを焼き払っていきましたが、特に成果はありませんでした。
あ、ヨハンさんが気合でスライムを捕まえたのでスライムと魔法石に関する研究は進みますね。
「この下にゴブリンがいますね」
コタロウさんの偵察で、ゴブリンが待ち構えていることが分かりました。サラディンさんとヨハンさんが剣を構え、マリーモさんが歌い始めます。
「あっそ~れハッスルハッスル!」
歌……ですよね?
「うおおっ、俺がムキムキに!」
いや、なってませんからね? ヨハンさんは元気が湧いたのか、猛然と走り出しました。
「ミラ、スライムを警戒してくれ」
サラディンさんはミラさんに周囲の警戒を任せてヨハンさんの後を追います。独走させたら危険ですからね。
「自分もいきます」
コタロウさんがサバイバルナイフを抜いて続きます。忍者は剣士ほどではないですが戦闘もこなせます。かなり色んな技術を持っていますからね。東鸞王国は名前しか聞いたことがないので、いつか行ってみたいですね。
コウメイさんは非戦闘員を気取っていますが、本当は結構強いんですよね。まあゴブリン退治で彼が前に出るのはサンプルを捕獲する時ぐらいでしょうけど。
「ニンゲン! コロセ!」
「ふんっ!」
ゴブリンが騒がしくヨハンさんに襲い掛かってきましたが、最初の一匹を一刀両断にします。本当にパワーアップしてますね、どういう原理なのでしょう?
次々と襲ってくるゴブリンに、ハッスルしているヨハンさんもすぐ押され気味になりますが、そこにサラディンさんが駆けつけ、一瞬で十匹ぐらいいたゴブリンを全滅させてしまいました。
「バケモノ!」
様子見をしていたゴブリンが奥に逃げていきます。サラディンさんを敵に回したら恐怖で逃げ出してしまうのもしょうがないですね。まだまだ奥があるようなので、パーティーは更に進みます。順調ですね。
「ふう、一息入れましょうか」
ずっと指令の監視だけを続けるわけにもいきません。洞窟の様子を見ながら、ギルドの仕事もしていました。と言っても今日は登録希望者もいないし冒険者は酒場で飲んでいるか依頼をこなしているのであまり仕事は多くないですけどね。
「う~ん、順調ですねぇ。ワタシの出番はないのでしょうか」
覆面にフード、背中に大きなリュックサックといういでたちの男性が、残念そうに呟きます。
「まだ分かりませんよ、モミアーゲさん。戦力的には問題ないと思いますが、思いがけないアクシデントがあるかもしれませんし」
そう答えてモミアーゲさんをお茶に誘いましたが、断られてしまいました。どうやら覆面を外したくないようですね。……ちっ。
この方は行商人のモミアーゲさん。商人ギルドに所属しているのですが、ちょっとばかりアコギな商売をするので向こうではあまり好かれていないようです。そのおかげで商人ギルドから手伝いに来てもらえたんですけどね。彼は未開拓地域で遭難したりピンチになった冒険者の前に現れて高額でアイテムを売るのが特徴です。
足元を見る商売でマリーモさんを始め冒険者からもあまり快く思われていないようですが、転移魔法の使い手でどんなところにでも助けに行けるので、ギルドマスターの立場からはとても助かる存在なのです。お金をいくら持っていても命を落としたら意味がないですからね。
お茶を飲んで一息つきながら、横目で追跡は続けています。ヨハンさんもゴブリンには
あ、魔宝石を拾っています。
「あれは魔宝石ですねぇ。今回の開拓が上手くいったらギルドで生産したものを買い取らせてもらいますよぉ」
コウメイさんが研究に成功する前提で話していますが、この人がこう言うなら間違いなく成功するのでしょう。お金儲けに関する嗅覚は超一流ですからね。そうするとギルドの立場もかなり良くなりますね、気合でスライムを捕まえたヨハンさんの功績ポイントは弾んでおきましょう。
「ゴブリンの集落はもうちょっと奥にあります」
偵察のコタロウさんがゴブリンの集落を見つけたようですね。ゴブリンは洞窟の中でも一カ所に集まって暮らします。そこから徒党を組んで外に行き、他種族のメスなどを襲うのです。その目的は……あまり気分のいいものではないですが、繁殖です。彼等は他種族のメスに自分の子供を産ませて増えるという特殊な性質を持つのです。ヨハンさんがゴブリン退治を勇者の仕事と言っているのもあながち間違いではありません。
「ゴブリンの生態は分かっているので、生け捕りにする必要はありません。余裕があったらスライムをもう一匹捕まえてもらいたいですね」
コウメイさんは既にゴブリンを何匹も捕まえて生態を調べつくしています。今回はスライムに集中しているようですね。
「よーし、いくぞー!」
ハッスルしっぱなしのヨハンさんが元気よく剣を振り上げました。歌に中毒性とか、ないですよね?