冒険者の皆さんが頑張ったおかげで、ギルドに寄せられる依頼も増えてきました。たまに失敗した冒険者が作った損害を補填したり、謝罪をして回ったりすることもありますが、全体としては評判も上々といったところです。
「かなり活気が出てきたわね」
ミラさんが酒場を見渡して言います。彼女も山火事の一件以外はちゃんと仕事をしてくれています。まあ、あの時も指令自体はちゃんとこなしていたのですが。
「冒険者も増えてきましたからね! 依頼も沢山ありますよ。薬草の採取とか、キノコの採取とか、赤ん坊の世話とか」
「雑用ばっかりじゃないっすか!」
ヨハンさんが不満の声を上げました。この人はあれからも何度か依頼を失敗しています。成功率は半分ぐらいですが、サラディンさんの指導が功を奏しているようで、徐々に戦士としての腕は上がってきました。いまだにカッコいい依頼を求めているのが不安ですけどね。
「そんなヨハンさんに朗報です!」
ですが、今日は彼好みの仕事が舞い込んできたのです。
「なになに? モンスター退治でも依頼されたの?」
「そうですが、目的はモンスターの退治ではありません」
「と言うと?」
ふふふ、ミラさんもヨハンさんも興味津々ですね。今回は冒険者ギルド始まって以来の大仕事ですから、多くの冒険者に参加してもらわなくてはなりません。
私は、ファーストウッドの入植者代表から送られてきた報告書を出しました。
「実は、ファーストウッドの近くにモンスターの潜む洞窟が見つかったんです」
「洞窟!」
思った通りヨハンさんの目が輝きました。
「今回は国からの指令です。ヨハンさんも貴重な戦力として参加してもらいたいのですが」
「はいっ!」
食い気味に手をあげて参加の意思を表明するヨハンさん。ミラさんもやる気のようです。
「洞窟の探索は開拓事業の重要な目標の一つですから、ギルドにもかなりの報酬が約束されています。投入できる戦力は惜しみません」
この二人の他にサラディンさんやコウメイさん、コタロウさんにも声をかけています。そしてもう一人……。
「マリーモさんにも参加してもらいます!」
「へっ、私!?」
指名されたマリーモさんが驚いた顔をして飲んでいたエールのグラスを落としそうになりました。
「ええ、マリーモさんの歌は洞窟の探索にうってつけですからね」
「よろしくな、マリモ!」
「マリーモです。仕方ないですねー、この私の美声でポンコツなヨハン君をムキムキにしてあげましょう」
そんなことができるんですかね? ともあれ、攻略チームは六名のパーティで行ってもらいましょう。後方支援には行商人の方を呼んでいますが、なるべくならご厄介にならないようにしたいところです。
「誰がポンコツっすか!」
ヨハンさんがポンコツじゃなかったら誰がポンコツだと言うのでしょう。
「さあさあ、せっかくの大仕事よ! さっさと準備しなさいポンコツ!」
ミラさんも便乗してポンコツ呼ばわりです。ヨハンさんのあだ名が決まりましたね。
「それでは、改めて説明しますね」
集まった攻略パーティーを前に、私は今回の指令内容を説明していきます。
要約すると、ファーストウッドから南に行ったところにある洞窟に棲んでいるモンスターを退治して、開拓範囲を広げる前準備をするということですね。モンスターの種類はスライムとゴブリン。以前退治したボガードよりは凶暴な相手です。
「今回は洞窟の探索も兼ねていますので、私が終始追跡を行います。危なくなったら助けを出しますが、ピンチにすぐ駆けつけられる人は限られていますので注意してくださいね?」
私の言葉にヨハンさんとコタロウさんはピンとこない顔をしていましたが、マリーモさんが露骨に嫌そうな顔をしました。心当たりがあるようですね、正解です。
まあ、誰がくるのかはピンチになってのお楽しみということで。こんなところでピンチになられても困りますけどね。
「ゴブリン退治か! これぞ勇者の仕事!」
そういえばヨハンさんはゴブリンを退治したがっていましたね。何か因縁があるのでしょうか?
「うえー、スライムがいるのかー。あれドロドロしてて好きじゃないのよね」
マリーモさんはスライムが苦手の様子。好き嫌いの問題で済めばいいのですが。
「吟遊詩人ってどんな戦い方をするんすか? そのオカリナで殴るとか?」
コタロウさんがマリーモさんに質問していますが、さすがにオカリナで殴る吟遊詩人は見たことがないですね。
「基本的に歌でバフかけるからね、しっかり私を守ってねー」
こうして洞窟攻略パーティは賑やかに旅立ったのでした。無言でしたけどサラディンさんもちゃんと一緒だから心配はいらないでしょう。コウメイさんはスライムの生態がどうのとブツブツ言っていたので、あまり触れないでおきましょうね。