依頼を終えた冒険者達が続々と帰ってきます。他の人達はみんなしっかりと仕事をこなしていますね。良かった。
「……コホン、色々ありましたが、これが冒険者ギルドです。登録されますか?」
私は改めてコタロウさんに向き直り、意思を確認します。彼の登録とトラブルが被ってしまったために、まだ冒険者登録が出来ていないのです。
あまり見られたくないところも見せてしまいましたが、冒険者になった後で思ったのと違うと言われるよりかはいいでしょうか。
「それじゃあ、登録します。
「ええ、コタロウさんの忍者という技術は上級
せっかくなのでコタロウさんに聞いてみましたが、忍者というのはずっと東にある島国の
繰り返しになりますが、開拓する上で盗賊という職業は必須です。未知の領域では古代の遺跡があったり、高等なモンスターが作った迷宮があったりします。それらを探索して宝物を持ち帰る事が最も国に期待されている成果なのです。
最初のギルドは戦士、魔術師、学者というメンバー構成でしたからね……盗賊の必要性は身に染みて分かっています。
あの事件があってから、盗賊という役割を持つ開拓者の重要性を貴族に説いて回るのは楽になりました。皮肉なものですね。
「コタロウさんは高度な技術も持っているので、ギルドとしても多くの指令をお任せしたいのですが」
そう言っても冒険者はギルドの職員ではないですからね、業務委託をするような関係なので、先方の意思を無視することはできません。
「大丈夫です」
ですが、コタロウさんは短い言葉で了承してくださいました。
「一つ気になったんすけど」
手続きが終わり、去り際にコタロウさんが振り向いて言いました。
「……なんでしょう?」
彼の態度から、何を聞きたいのかはなんとなく察しました。
「その魔法で監視しているってことは、冒険者の行方が分からなくなることはないんすよね?」
うーん、この人はどこまで分かっているのでしょうか? 私……いえ、このギルドにとってかなり重大な問題を指摘してきました。
「……分からなくなることはあります。魔法で冒険者の行動を管理しているので、魔法が届かない場所に立ち入ったり、何らかの方法で魔法を解除した場合です」
迷宮には魔法を無効化する罠が仕掛けられている場所がありますし、高等なモンスターや魔術師は魔法を解除する魔法を使ったりします。
「なるほど。忍者は行方が分からなくなりがちだから聞いておいてよかったです」
分かっていれば対策が立てられるから、と笑ってコタロウさんはギルドの建物を出ていきました。
「……エスカ」
いつの間にか私の後ろに来ていたミラさんが、心配そうに声をかけてきました。
「大丈夫ですよ」
ええ、大丈夫です。
あれから半年、ミラさんやサラディンさんの助けを借りてここまでやってきました。コウメイさんやヨハンさんのような冒険者の仲間も増えています。コタロウさんのような心強い忍者も参加してくれました。
もう、私は一人じゃないんです。
「さあ、今日は受付業務も終わりですね。初日からドタバタしましたが、この調子なら冒険者ギルドも運営していけそうです。ミラさんは反省してくださいね?」
「あ、あはは……」
「お疲れ様、こちらで酒でも飲んで反省会でもしようか。報酬を貰ったし私がおごろう」
サラディンさんも気を使って宴席を用意してくれました。本当にこの人には心配ばかりかけてしまいますね。
「ありがとうございます! それじゃあこちらの片づけをしたらそちらに行きますね」
そんな彼等を安心させようと、私は精一杯の笑顔を見せて答えました。
手元にある冒険者管理板を操作して、これまでに登録した冒険者の一覧を確認していきます。
「ヨハンさんからコタロウさんまでの間に七名の登録。まだ始まったばかりにしては、多くの人が登録してくれましたね」
一覧を開くと最初に目に入る名前に一瞬目を止めるも、すぐに名簿の下へと目を走らせて行きます。
私は大丈夫ですが、忘れることはありません。だって先輩はどこかで生きているかもしれないんですから。
『フィストル・アグロゾフ 学者/
その名前と現在地を確認するのが、日課となっている。それを二人は心配してくれているのですが、私はむしろ前向きな気持ちで彼の名前を見ているんです。
どこか遠くにいるとしたら、そこまで開拓してしまえばいいんですから。