目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
森の出来事

「ヨハンさんが馬車に乗っているところから見ましょう」


「過去の出来事を追うんすか。何かあったら助けに行かないんすか?」


「そういうのは自己責任です。冒険者には他の職業と比べて多くの報酬と良い待遇が与えられるのですが、こういうトラブルで命を落とす危険も込みで考えられているからですね」


「なるほど」


 乗合馬車にはヨハンさんと何人かの入植者が乗っています。どうやら談笑をしているようですね。音声も拾ってみましょう。


「早くモンスター退治とかしたいんだけど、マスターが許してくれないんだよね」


 外ではそういう喋り方なんですね。いきなり私の愚痴を聞かされてしまいました。


「いや、下積みは大事だよ。それに荷物を運んだだけで50デントも貰えるなんて美味しい仕事じゃない」


 そうそう、こんなに美味しい仕事はそうないですよ?


「でもカッコよくないでしょ」


 あくまでそこにこだわるんですね。カッコよくなりたいなら腕を上げてくれないと。


 そんな会話をしながら平和な時間が過ぎていきます。さて、何が起こるのか?


「きゃーーーー!!」


 おっと、定番の悲鳴ですね。外から女性の悲鳴が聞こえてきました。これはヨハンさんじゃなくても飛び出します。


「なんだっ?」


 なんだと言いながらとても嬉しそうな笑顔を見せるヨハンさん。気持ちが顔に出すぎですよ。


 御者さんに馬車を止めてもらい、荷物を持って飛び出しました。こうして森に向かっていったのですね。さて何が起こっているのでしょうか?




「あれは、ゴブリンか!?」


 森に入ってちょっと進んだら、女性がモンスターに襲われていました。ヨハンさんはゴブリンと言っていますが、あれはボガートです。やはりこの辺で悪さをしているんですね。


 ちなみにゴブリンは醜い姿をした小人ですが、ボガートはそれほど醜くはないです。外見で見分ける時は耳と鼻を見るといいです。ゴブリンは耳が尖っていて、ボガートは鼻が長いという違いがあります。


 行動としては、ゴブリンはかなり凶暴で人間に暴力を振るいますが、ボガートは基本的に脅かすだけで必要以上に暴力を振るったりはしません。


「待て待てーい、このヨハン様が相手だ!」


 何やら芝居がかった口上を述べて女性とボガートの間に立ちふさがりました。これがヨハンさん的にはカッコいいのでしょうか?


「ナンダ、オマエハ」


「喋ったー!」


「喋りますよ、一応妖精ですからね」


 おや、そんなヨハンさんに声をかける人が。ボガート討伐に向かったコウメイさんです。ということはサラディンさんやミラさんも近くにいるんですね。命拾いしましたね、ヨハンさん。


 コウメイさんはこんな森の中でもズボンとシャツの上から白衣を着た姿です。いつもこの服装ですが、いつ見ても白衣は白いしシャツはパリッとしています。同じ服を何着も持っているのでしょうか?


「シロイアクマ!」


 ボガートがとんでもなく恐ろしいものを見たような顔をして猛然と逃げていきました。コウメイさんはボガートに何をしたのでしょう?


「あー! 逃げちゃったじゃないっすか!」


 ヨハンさんが抗議の声を上げます。女性を助けるのが目的なのでは? まあヨハンさんですし。


「大丈夫ですよ、ボガードの棲み処すみかは分かっています。今頃ミランダさんが燃やしている頃でしょう」


 あー、ミラさんはすぐ燃やしますからねえ。森の中であまり火を使わないで欲しいのですが。


 ところで二人とも完全に女性を無視していますが、いいんですかね?


「あ、ありがとうございます」


 存在を主張するように感謝の言葉を述べる彼女。こういう出会いからドラマが生まれたりするものですが、コウメイさんとヨハンさんでは望むべくもないでしょう。コウメイさんはモンスターの研究にしか興味がないし、ヨハンさんはこんなだし。


「ああ、大丈夫ですか? 危ないからこんなところを一人で歩いてはいけません」


 コウメイさんが眼鏡をクイッとして素っ気なく言うと、女性が頬を赤らめました。こういうのが好きなタイプですか。残念ですね、彼が女性と仲良くしているのを見た人はいません。


「ええと、ヨハンさんでしたっけ? この女性を安全な場所に送ってあげてください。私はボガートを一匹捕まえないといけませんので」


 捕まえて何をする気なのでしょう? 彼の研究風景を見ようとする人はいないのでどんなことが起こっているのかは誰も知りません。知りたくないというべきでしょうか。


「えー、俺もゴブリン退治したいっす!」


「ゴブリンではありません、ボガートです」


「じゃあいいや、はいこれ持って」


 ゴブリンじゃなくてボガートだと聞いたら途端にやる気をなくすヨハンさん。その判断基準が理解できません。しかも小麦粉の入ったカバンをなぜか女性に持たせています。


「えっ、なんですかこれ?」


「小麦粉っすよ。ファーストウッドに運ぶから手伝って」


 さっきまで軽々と持っていたじゃないですか……この人の考えることが私には分かりませんよ。


「はあ」


 釈然としない表情で荷物を持ち、ヨハンさんについていく女性。ところでこの人ファーストウッドに行くんでしょうか? 大人しくついていってるからそうなんでしょう、きっと。


「どうやら問題なく依頼は終わりそうですね」


 ヨハンさんが運搬の仕事に戻ったので追跡を終えました。


「ボガート退治の方は見なくていいんすか?」


 コタロウさんが不思議そうに聞いてきますが、追跡はあくまで非常時の確認用ですからね。任務遂行が確実な様子ならわざわざ見ません。


……ちょっと森が燃えてないかログだけ確認しておきましょう。


 ポンッ。


『山火事が発生』


 ミラさああああああん!!

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?