目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
功績の大きさ

 ミラさんとサラディンさんがボガート退治に行ってしまったので、ギルドはがらんとしてしまいました。


 酒場ではなん組かの冒険者パーティーが、親睦を深めるためのささやかな宴会をしています。彼等は依頼を受けず、未知の領域を開拓するために違うスキルを持った冒険者と手を組むのです。


 以前はパトロンの貴族が集めていましたが、冒険者ギルドができたので、後ろ楯がない冒険者でも仲間を探しやすくなりました。


「質問があるのですが」


 先ほどやってきた冒険者登録希望のコタロウさんが冒険者のシステムについて聞いてきました。この方はなんと、忍者という特殊な技能スキルの持ち主です! 能力を調べさせていただいたところ、職業クラスとしては盗賊になるようですね。遠く海の向こうにある国からやってきたそうですが、あまり多くを語らないタイプの方なので詳しくは分かりません。


「あのように徒党を組んで開拓をした場合、国からの報酬や功績ポイントなるものはどういう配分になるのですか?」


 表情をあまり変えずに、クールな口調で聞いてきます。赤い髪に同じく赤い色をした長いマフラーが特徴的ですが、派手な色合いに反して目つきはちょっと暗いというか、死んだ目というか……おっと失礼でした。


「報酬も含め、手に入れた金銭的な利益は基本的に頭割りとなります。パーティーを組んでからの交渉は禁止されてはいませんが、トラブルの元になるので、あらかじめしっかり決めておくことをおすすめします。功績ポイントは魔法で手柄の大きさを判定して個人ごとに支払われます」


「手柄が魔法で分かるんすか?」


 あら、ちょっと砕けた口調に。ヨハンさんほどではないけど、コタロウさんもフランクな口調が本来の姿なのかも。


「はい。冒険者登録をすると、ギルドの魔法書庫マジカルアーカイブという特別な情報保管所に皆さんの情報が書き込まれます。それを通せばどこで何をしているのかある程度過去にさかのぼって調べることができますよ。もちろん個人の秘密をのぞき見するようなことはできないようにしてありますから、ご安心を」


 コタロウさんは顎に手を当て、思案しているようです。説明だけでは信用できませんよね。


「それってどんな風に見えるのか見せてもらえるんすか?」


 思った通りの反応です。ヨハンさんは何も気にしていなかったので、説明する機会がなかったんですよね。この魔法の凄いところを自慢する相手がいなくてちょっと寂しかったんです。


「ええ、もちろんですよ。実際に見せないと本人に納得して貰えませんからね、精算の際に見ながら説明する前提のシステムになっています」


 そう言って私は板状の道具を取り出しました。サラディンさんが置いていた冒険者管理板です。これに指をつけてチョイチョイと操作すると、出ました。ちょうど今依頼を受けているヨハンさんの行動ログです。


『町の商店で小麦粉を受領』

『乗合馬車で開拓拠点ファーストウッドへ出発』


 うんうん、ちゃんと依頼をこなしていますね。


「こんな感じで、登録冒険者の行動が節目ごとに文字で出ます。例えばこの間にヨハンさんが食事をしたりトイレに行ったりしていても、いちいち表示はされません」


「これは面白い……あれ?」


 コタロウさんが不思議そうな声を上げました。なんでしょう?


 再びヨハンさんの行動ログに目をやると……?


『フロンティア街道で馬車から降りる』


 これは一体?


「なんでしょう? こういう時はこの行動ログをこう指でつついてやると……はい、ヨハンさんのいる場所が映し出されました」


「おお、凄いすね」


 小麦粉が入っているリュックを背負い、道から外れて森の中へ入っていくヨハンさんの姿が板に出てきました。コタロウさんは感動しているみたいですが、表情は変わりません。感情が顔に出ないタイプなのかな? 忍者はそういうものなのでしょうか。


 それはともかく、ヨハンさんはなぜ馬車を降りて森に入っていくのでしょうか。


「なにかトラブルかもしれません。こういう場合はギルドマスターの権限で追跡を行います。今回は特別にコタロウさんにもお見せしますが、基本的にはサブマスター以上しか見てはいけないことになっています。余計なものを見てしまう可能性がありますからね」


「ああ、抜け駆け防止すね」


 ギクッ、鋭い。


 コタロウさんの言う通り、これは冒険者の安全管理が目的ではなく、冒険者が思いがけず見つけた宝物をこっそり懐に入れないように監視するのが目的の機能です。そしてそんな発見を他の冒険者が勝手に見たら、良からぬことを考えてしまうかもしれませんので、権限のない人は見ることができないのです。


「今回はヨハンさんの性格から考えて、モンスターに襲われる人の声でも聞きつけたのだと思います」


 非情ではありますが、冒険者が無謀な挑戦をして命を落としてしまっても、本人の責任ということで放置します。大事なのはその人の所在が分からなくならないようにすることですからね。


 板の映像がヨハンさんを追いかけていきます。あのやる気に満ちた顔は、間違いなくモンスターですね。ご愁傷さまです。


――ここから、ヨハンさんの初仕事の様子を見ていくことになるのでした。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?