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まずは貴族のご機嫌うかがい

 さて、まずは冒険者ギルドの建物にいかないと。フォンデール王国の首都アーデンの中央通りという一等地に地上四階地下二階の立派な庁舎が建てられているのは、国の期待度の高さを物語っていますね。ここまでくるのは本当に大変だったのだけど……っと、今は思い出に浸っている場合ではありません。早くギルドとしての活動を開始しないと!


「ミラさん、サラディンさん。ギルドを開設しましょう」


「じゃあまずは酒場で出すお酒とおつまみの準備をしないとね」


 ミラさんが楽しそうに酒場の準備を始めました。ギルドの一階を酒場にするのはサラディンさんの提案だったのですが、ミラさんの方が乗り気ですね。前人未到の地を開拓していく冒険者達は仲間同士の連帯が何よりも大事ですが、初対面で打ち解けるには酒を酌み交わすのが一番だという理由です。傭兵のサラディンさんは戦場に向かう兵達がそうやって初対面の仲間と打ち解けるのだと教えてくれました。


 酒場のための給仕さんや料理人さんも雇っていますが、今日はまだ冒険者の登録しかしないので本格的な開店は明日になります。


「冒険者管理板は受付に置けばいいのか?」


 サラディンさんが受付のカウンターに一枚の石板を置きます。これは魔法で冒険者を管理するアイテムで、ギルドに登録された冒険者がここに手をかざすとギルドにおける色々なパラメータが確認できる優れものです。功績とか。


 ギルドにおける冒険者の管理は、私を含めた宮廷魔術師の総力を結集して作った『魔法書庫マジカルアーカイブ』が半自動的に行ってくれます。その魔法書庫に冒険者を登録するのは私の仕事。かなり責任重大ですね……既に登録された四つの名前を見ながら、改めて決意を新たにするのでした。


「それでは私はちょっと挨拶回りに行ってきますね」


 準備が整ったところで、私は二人に留守番をお願いしてギルドを出ました。この国、いえこの世界で新しい組織を運営していく上で何よりも大切なことは、資金面や交流面で力を貸してくださる貴族の支援者を持つことです。資金は何とかなりますが、様々な活動の許可を取ったりするのには貴族の後見人が必要不可欠なのです。


 宮廷魔術師の私やミラさんは、宮廷で王様に近い位置にいますが貴族ではありません。でも王様との距離が近いので直接言葉を交わすことが出来ます。このポジションはとっても便利なので、広い領地を持つ大貴族も私達と仲良くしたがっていたりするんですよね。


 そんなわけで、少なくない貴族の方が冒険者ギルドを支援して下さっているのですが、貴族というものはプライドが高かったり名誉欲が強かったりするので、無礼な態度を取ったり十分な成果が上げられないと機嫌を損ねてしまって支援が受けられなくなってしまいます。


「よくいらっしゃった、エスカ殿」


 貴族の皆さんはいつも自分の領地にいるわけではなく、宮廷の近くにあるサロンでダンスパーティなんかをしていることが多いです。別に遊んでいるわけではなくて、貴族同士の交流をして政治的な駆け引きなんかを行っているのです。私にはとてもできそうにないので、ここに来るたびに貴族じゃなくて良かったと思ってしまいます。


「ご機嫌うるわしゅう、クレメンス・フォン・アーデン=グナイスト卿」


 金色に輝く燭台の灯りに照らされるダンスホールで、支援者の方に挨拶をしました。この人は比較的名前の短い方ですが、それでも言うのが大変です。名前に首都と同じアーデンがついていることからも分かるように、この場で一番偉い人です。一言で言うと国の宰相 (政治を取り仕切る大臣。日本で言う総理大臣)です。私にギルドフラッグを渡してくれた方ですね。この人が後見人になってくださったおかげで、冒険者ギルドなんていう何の実績もない組合が国の公認を得ることができたのでした。


「考えたのですが、冒険者にランクをつけるのはどうだろうか?」


「ランク……ですか?」


 クレメンスさんが提案をしてきました。最大の後見人がやりたいと言うならやらなくてはなりません。と言ってもさすがに宰相閣下なのでいつもちゃんとためになる提案をしてくださいます。今回は冒険者の功績に応じてランク付けをし、個人の功績の大きさを可視化することで、彼等のやる気を高めたり頑張りに応じた報酬を与えたりできるというお話でした。魔法書庫にちょっと手を加えれば簡単に実現できそうです。


「最初はEnlistedランク、古代バルトーク語で兵役につくという意味だ。要するに登録が完了したランクということだな。

 お次はDoubleランク、下から二つ目のランクだ。

 そしてCaptainランク、部隊長を任せられるランク。

 更にBrightランク、光り輝くという意味だ。ここまで来たら特に功績の大きい者になる。

 もう一つ上がAdvancedランク、高度なとか進んだとかいう意味だ。そのまま高ランク者のことだな。

 そして一番上がSpecialランク、特別な存在を示す。これは伝説の英雄並みの冒険者に与えられるランクだ」


 古代バルトーク語というのは、この世界バルトークにおけるかつての共通語のことです。今でも会話の合間に単語が入り込んだりします。そもそもギルドやランクが古代バルトーク語だったりします。いま私達が話している言葉はバルトーク共通語で、それとは別に各国の方言があります。


 特に魔法にはよく古代バルトーク語が使われていて、バルトーク共通語での魔法書庫が古代バルトーク語でマジカルアーカイブ(magical archive)になるのです。


「それは良い考えですね! 帰ったらさっそく導入させていただきます」


 この後も他の何人かの貴族に挨拶をして、冒険者ギルドに帰る頃にはすっかりくたくたになってしまいました。やっぱり貴族社会は私には無理です。疲れます。


「お帰り! だいぶ疲れたみたいね。景気付けに三人で一杯やりましょ」


 ギルドの建物に入ると、ミラさんとサラディンさんが祝杯の用意をして待っていました。これから冒険者を受け入れるのですが……まあ一杯ぐらいなら大丈夫でしょう。


「そうですね、冒険者ギルドの結成を祝って一杯だけいただきましょうか」


「よし、ではこのエールを」


「ほら乾杯の音頭を取ってよ、ギルドマスター」


 笑顔でエールの入ったグラス渡してくる二人を見ると、サロンでの疲れも消えていくように感じます。私はグラスを持って咳払いを一つ。


「コホン、では我々冒険者ギルドの結成を祝って――」


『乾杯!!』


 さあ、これを飲んだらついに冒険者の登録を開始しますよ!

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