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第36話 背く

 カーテシーはお嬢様アピールをできたらしい。

 グダグダ攫った奴らは言ったけど、確認を取ればどちらが嘘をついているかなんてわかるからと、警備の人たちに捕獲された。

 わたしは子供たちと手を取り合った。

 最初は捕らえられた人たちと同じ部屋にいて事情を聞かれていたが、どこかと連絡がついたのか、わたしたち子供は別部屋に移されて、食事をあてがわれた。

 さらに2時間ぐらいすると、扉が開いて、伯爵様とお嬢様がいらした。

 ツーっと涙が流れ落ちた。


「伯爵様、お嬢様」


「メイ、無事だな? 怪我はしていないな?」


 膝をつき覗き込まれた伯爵様に頷く。


「怖かったな。もう大丈夫だ。本当にすまない」


「メイ、ごめんなさい。私のせいで!」


「お嬢様のせいなんかじゃありません。助けてもらう時に、お嬢様の名を騙りました、ごめんなさい。平民の子の言うことは聞いてもらえないと思ったんです」


「ああ、賢かった。偉いぞ」


 伯爵様はお嬢様ごとわたしを抱きしめて、頭を何度も撫でてくれた。

 本来なら、お嬢様の名を騙ったことで、罰せられるのが当たり前だ。

 形だけのわたしの親だって、妹ではなく、わたしの名がかたられたら、喜んで相手を糾弾するだろう。でもふたりはただわたしの無事を喜んでくれた。

 わたしは人攫いたちはお嬢様を狙っていた旨を伯爵様に伝える。

 表情を引き締め、伯爵様は頷いた。

 子供たちが攫われていたことが立証されたので、各街などに通達された。

 それぞれ子供がいなくなり騒ぎになっていたようで、どの子も家に戻れる算段がつきそうだ。

 子供たちからわたしは感謝された。わたしはアイデアを出しただけだし、みんなで協力しなかったら逃げられなかったと思うので、私たちは感謝しあった。そしてお互い無事に帰りつけるよう祈りあった。お役所に引き渡されているから、大丈夫だとは思うんだけどね。

 わたしは伯爵様の馬車で、一足先に帰ることになった。



 お嬢様が寝てしまわれてから、伯爵様からとんでもないことを聞いた。

 お嬢様があの家で具合の悪くなることを重くみて屋敷中を調べたそうだ。

 悪い気が溜まっているのかもとわたしが言ったのも聞いてくださっていて、地下も調べたら、なんと呪詛が埋められていたんだって!

 呪詛って……そんなのがまかり通る世界なのかいって驚いたものじゃない。

 でも魔法があるんだもん、呪い系があってもおかしくないのか。

 その呪詛は古いもので、ハッシュ家の家系が途絶えることを願うものだったという。ハッシュ家の女性は代々早くに命を落とすことが多かった。病弱だと言われてきたけれど、それはもしかして……。

 そして奥様が亡くなられた原因ももしかしたらそれに所以があるのかもしれなかった。それを知り、伯爵様は自分を責めただろうな。


「そんな顔をしなくていい。……ソフィアを守れるかもしれないと、同時に希望を持てたからな」


 あ、そうか!

 お嬢様は助かるかもしれない。

 原因がその呪詛だとしたら……。

 でも違うこともあるわけで……。


「メイはここがゲームの世界だと言ったね」


 わたしは頷く。


「そして私は主人公の養父になると」


「はい」


 わたしはまた頷く。


「私は君の話す物語が気に入らない。それで、その物語に背いてみようと思うんだ」


 え?


「手始めに、君を家の養女にしたいと思うんだ。どうだろう?」


 何を言っているんだろう?


「君が孤児院を大切に思っていることは知っている。でもよく考えてみてくれ。

 君は賢いが中から守れることは限られてくる。平民でいるのなら余計にね。

 けれど、養女になれば、君はハッシュ家の娘として、孤児院に携わることができる。守れるものは増えるはずだよ。ソフィアと一緒に孤児院を支えていくといい。14歳になれば、あそこは出て行かないといけない。養女になれば、その心配もなくなるし、君は主人公に間違われる可能性もグッと低くなるはずだ」


 !


「考えて欲しい」


 わたしはごくんと唾を飲み込んだ。


「年末まで。孤児院の存続のことが片がついてから答えを出すのでもいいですか?」


 伯爵さまは優しく笑ってくれた。




 提案は嬉しい。伯爵様がわたしに機会をくださる。

 わたしはソフィアお嬢様の最悪の未来を知っていて、それに便乗して利用しようとしていたのに。

 丸ごと許してくれて、そして優しくしてくれる。

 孤児院が好きなのだろうと、わたしの気持ちを大切にしてくれている。


 伯爵様のいうことは正しい。

 わたしは孤児院を守りたいけど、孤児院の子供ではできることはたかが知れている。でも伯爵令嬢となれば、院長先生の力になることができて、あの場所を守っていけそうな気がする。孤児院の子なら出て行かなくてはいけない、14歳を過ぎても。

 でもわたしが養女になってしまったら……主人公が養女になることはないわけで……、伯爵様がそれを目的としているといえ、大胆にわたしなんかが変革をしていっていいのだろうか?

 その思いが心に重たくのし掛かった。


 途中街で一泊して、孤児院に帰り着くことができた。

 先生にもみんなにも抱きしめられる。

 ……家族みたいだ。

 わたしは今世では家族は持てないんじゃないかと思っていただけに、嬉しい誤算だった。



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