ホウキの棒を男の子3人が握りしめている。
扉を開けて入ってこようとしたら、その棒で転ばせる計画だ。
その間にわたしたちは外へと逃げる。
そしてなんでもいいから森に逃げ込む。
ここは人を構ってはいられない。
伯爵様はお嬢様からのSOSに絶対にわたしを探してくれると思う。
馬車とあまりすれ違っていないから、絶対見つけてくれる。
それまで生き延びられればいい。
乱雑な足音が聞こえる。
わたしたちは息をひそめた。
自分の心臓の音が聞こえる。
飛び出しちゃうんじゃと思うほど、激しく早く打っている。
扉が引かれた。
入ってこようとした男は見事、蹴躓き転んだ。
わたしたちはその横をすり抜けて外へと走った。
「ロイ、子供が逃げた! 貴族の娘だけは逃すな!」
え、わたし?
外には顔まで腫らしたうる芽かぶれが両腕を広げて待ち構えていた。
男の子たちがうる芽かぶれに突撃する。
「早く逃げろ!」
逃してくれようとしている。
わたしたちは横を走り抜ける。
男の子たちを振り落として、こちらに駆けてこようとする。
その足にタックルしたりしてくれているうちに、わたしたちは森に逃げ込んだ。
しばらくすると、男の子たちもみんな森の中に入ってきた。
よかった、9人揃った!
わたしがお礼を言おうとすると、それより先にもっと逃げなきゃと、足を止めるなと言われた。
後ろを振り返りながら、とにかく歩いた。一人が転んだところで、助けようとしながらわたしたちは座りこみ、そして立ち上がれなくなってしまった。
わたしは背負っていたテーブルクロスの包みを下ろして、それを広げた。
ごっちゃになってしまっているけれど、食料といえば食料だ。ちょっと味が混ざってしまったけど、汚いわけではない。
「食べよう」
お酒のつまみ系が多いので、お腹がいっぱいになるとは違うけれど、お腹に物が入れば落ち着く。
さて、どう逃げるかだが。
馬車通りはダメだ。隠れられるようなところがないから、見つかりやすい。
「でもさ、売れなくなったから、もう用無しでほっとかれるんじゃない?」
希望的観測が飛び出した。
「いや。売れなかったら当て付けに殴ったりするだろうし、攫われたなんて噂がたったら厄介だ。俺たちを殺しにくるよ」
一人が鋭いことを言う。
その通りだ。
わたしたちは口封じされる可能性が高い。
「どうやって逃げる?」
わたしは枝を拾って、簡単な略図を描いた。
ほぼ真っ直ぐな道だった。長く感じたけれど、これから陽がくれることを考えると、そう距離はなかったとみえる。
森で見つけるのは難しいから、森から出て戻る道に待ち構えているだろう。
だから逆方向に行くことをわたしは提案した。
「反対にいって、何があるかわからないよ?」
「多分、近くに街がある。隣街から4時間はたっているもの。そろそろあってもいいだろうし、買い付けにきた人たちの料理は温かかった。でもあの小屋に料理をするようなところはなかった。街から持ち込んだんだと思う。奴らはわたしたちが帰ろうとすると思うだろうから、反対のことをするのがいいと思う」
ふたり納得がいかないようだが多数決で、行ったことのない方へ行ってみることにした。
そこで夜を明かすことになる。
獣など怖い考えは浮かぶけれど、エキサイティングした出来事の後だったので、脳も働かず、わたしたちは寄り添いあってその場で休んだ。
鳥のさえずりで目を覚ます。
みんないてほっとした。みんなが目覚めるのを待って、歩き出す。
足が痛んだけど、そんなことはいってられない。
小屋の屋根を確認して、反対方向に歩いたので、方向的にはあっているはずだけど、街がなかったらどうしよう。
そんな考えが頭をよぎる。
「道だ!」
先頭の子が声をあげた。
え?
あ。
道が続き、あれは街の門では?
「街だ」
「助かった!」
ひとりが小走りになると、みんな足を早めた。
足が痛いなんて言ってられない。わたしも急いで歩いた。
門は見えているのに、なかなか近づかなかったけれど、やっと、警備する人たちの姿形も棒から人型へとなってきた。
そこからはみんな走った。
一生懸命走った。
後ろから高速で馬車を走らせる音が聞こえる。
「お前ら、止まれ〜!」
わたしたちを攫った人だ。
身が竦んだ。
後ちょっと。あとちょっとだ。
「みんな走って!」
とにかく走った。わた
したちを通り越して馬車が行き、そこで止まり、攫った人とうる目かぶれが馬車を降り、わたしたちに向かって腕を広げる。
わたしたちは横にそれながら、門へと走った。
「ほれ、捕まえた」
手を取られる。
「他のはしょうがねー、こいつだけは。行くぞ!」
わたしは俵担ぎされる。
一番先頭に辿り着いた子が門番さんに訴えている。
「助けてーー!」
わたしは騒いだ。口を塞がれる。
渋々という感じで門番さんが、わたしたちに声をかける。
「ちょっと、あんた。その子とはどういう関係だい?」
「え、いや。知り合いの子なんですがね、いうこと聞かないんでこのザマですよ、ハハハ」
と愛想笑いをした。
わたしは口を塞がれた手を外しにかかる。
「お嬢ちゃん、おじさんのいうことをきかないとだよ」
「わたしは攫われたんです!」
わたしは出来る限り大きな声で言った。
周りの人たちが一斉にこちらを見た。
「下ろして!」
バカスカ叩く。
「このバカが。こうやって気を引こうとしているだけですから」
「……下ろしてやったらどうだい?」
攫った人はわたしを地面に下ろした。
わたしは門番さんに向かってカーテシーをした。
「わたしはハッシュ領主が娘、ソフィア・ハッシュです。この者たちに攫われ、売られそうになりました。父に連絡をとってください。お願いします」