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第30話 風邪の功名?

 ……結局、わたしは服のままお湯に浸かりはしゃいでしまい濡れ鼠。

 ジークが先生を呼んできて、体の大きい子たちと一緒に縄で引き揚げてもらい、上にあがることができた。けれど、それから孤児院に帰って着替えるまで濡れたままだったので風邪をひいた。自業自得だけど。

 ベッドの中で苦しい息をしていると、いるはずのない知った声が聞こえてわたしは目を開けた。伯爵様とお嬢様に覗き込まれて驚いた。

 お医者様つきでいらしたようで、薬を煎じてもらった。

 それを飲めば苦しい息が楽になってきちんと眠ることができて、わたしは回復していった。

 子供たちの楽しそうな声が聞こえる。いつの間にか、お嬢様も大きな声でみんなとはしゃいでいる。

 意識が浮上した時うっすら目を開けると、伯爵様がわたしのおでこに手を当てた。

「熱は下がったようだな」

「……ありがとうございます。お薬まで……」

 ずいぶん楽になった。お礼をいうと、伯爵様は素敵に笑った。

「子供が具合が悪いのは、本当に嫌なものなんだ。何も心配せずに眠りなさい」

 わたしはその時初めて、こんなお父様がいるお嬢様が羨ましいと思った。


 夕方に目が覚めた。汗をかいたみたいなので、服を着替えた。

 声のする方に歩いていく。ご飯をみんなで作ったみたいだ。ソフィアお嬢様も孤児院のワンピースを着ている。なんで?

「あ、メイ起きたのね! スープを作ったの。飲める?」

 わたしは頷く。

 お嬢様が作ったというスープは、切られた野菜の大きさはまちまちだったけど、くたくたに煮えていて、薄味ながらも体に優しく染み渡る味だった。

 お嬢様はスープをいただくわたしを、食い入るように見ている。

 全部食べ終えてから美味しかったといえば、薔薇色の頬になり、嬉しそうにした。そのまま伯爵様のところに走っていって、抱きついている。

 それにしてもお屋敷に帰られてから、恐らくとんぼ返りの勢いだったのではないだろうか? 何かあったのかと尋ねた。すると、お屋敷で過ごして数時間で、お嬢様は気分が悪くなったという。お医者様がみたところ、本当に具合がよくない。疲れたのだろうと診断を下したものの、お嬢様が孤児院へと帰ると、あそこなら元気でいられると言って、すぐに引き返して来たそうだ。

 そして着いてみれば、わたしが倒れていた。

 お嬢様はといえば、お屋敷から遠ざかるとけろっと元気になった。同年代と遊んだことのないお嬢様にとって、初めてできた友達は掛け替えのないものとなった。それで心にも身体にも影響が出たのではとお医者様は思って、しばらく気の済むまでお嬢様の好きにさせるのがいいのではないかと診断されたみたいだ。

 子供たちは大興奮だ。ソフィアお嬢様は可愛いし、お嬢様がいると美味しい恩恵もついてくる。気の毒なのはおつきの方々だ。

 わたしの風邪の話になった。

「実は源泉を見つけたんです」

 伯爵様が目を見開いた。

「それはスキルでか?」

「いいえ、これは偶然です」

 森の恵みを探して歩いていたら、偶然源泉を見つけ、濡れたまま帰ってきたので風邪をひいたと話した。

 先生も話半分に聞いていて、わたしが沼地で転んだと思っていたようだ。それで驚いている。

 お嬢様は伯爵様に源泉って何?と興味津々に尋ねた。

 そこに案内してくれるか?と伯爵様に言われて、わたしは頷いた。

 ロープは垂らしたままにしていたので、そのまま降りることができた。

 伯爵様は手を浸す。

 お医者様は瓶に温泉水をとっていた。

「うわー、あったかい」

 子供たちも手をつけてはしゃいでいる。

 このお湯にゆっくり浸かったら、とても気持ちよさそうだ。

 ただ伯爵様はしっかり調査するまで中に入ったりしない方がいいと言った。

 実際湧き出ているところは温度が違うかもしれないし、温泉水の成分が体に悪いものがあるかもしれないから調べるという。

「ねぇ、お父様」

 お嬢様がそう耳打ちして、何か真剣に話していた。


 温泉の出たあたりの土地を、お嬢様が購入されたと聞いて驚いた。

 え?

 お嬢様は孤児院への慰問のことをいろいろ考えていて、帰りの馬車の中で伯爵様に質問攻めをしていたらしい。伯爵様にしてみると、今までベッドの上で横たわることが多く、与えられた学問に向き合ってきただけの娘が自主的に知ろうとし、何かをやろうとしていることが嬉しく、とことん付き合うことにしたらしい。

 それが本当にこの土地買いでいいのかしら?と思ったけど、ふたりがいいと思っているのだからいいのだろう。

 お嬢様は温泉ができたら、わたしたちに温泉を開放してくれると約束した。

 それは嬉しい!

 源泉は奥まったところにあり、そこは温度が高いようだ。裏の山からの湧水があり、合流してちょうどいいお湯になっているようだ。

 水源は豊かそう。

 お湯の成分だが、身体に悪いものはないそうだ。

 わたしはいい成分が入っていると思う。だって肌がピッカピカになったもの。

 お嬢様のつるの一声で、温泉を入りやすいように、あのあたり一体を立て直すそうだ。お金持ち、すごい!

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