「ねぇ、それを実現できないかしら?」
お嬢様の目は輝いていた。
「実現って……」
「私前にひふが赤くなったことがある。草にかぶれたってお医者様に言われたわ」
「あ、うる芽。あれはかなりの確率で赤くなるな」
「でもお医者さんに見せたらすぐにわかるんでしょ?」
ユーリが口を尖らせる。確かにその通りだ。
レイが吹き出した。
わたしたちは驚いてレイを見る。
「なんだよ?」
モクが急に笑ったレイを嗜める。
「医者に見せにくいところだったら、オモシレーかと思ってさ」
「下履きにうる芽の粉をかけておくんだな!」
気づいたというようにジークが笑う。
男の子たちが一斉に笑い出した。
「何、どういうこと?」
一番下の女の子、ユーリがジークの服を引っ張った。
「だからさ……」
と解説してくれたジークに、わたしたちは吹き出した。
お嬢様も顔を赤くしながら笑っている。
伯爵様が屋敷に帰るとおっしゃった。
お嬢様はまだ孤児院にいたいと言ったけれど、また来させて貰えばいいと丸こめられ、わたしもまたお屋敷に行くことを約束しあった。
伯爵様にわたしにはまだ聞きたいことがあるからと言われ、蛇に睨まれたカエルみたいに動けなくなる。
お嬢様は計画がどう決着づくか見られないのが残念だといい、どうなったか教えてとわたしたちにこっそりと言った。
院長先生も深く感謝をし、皆で見送った。
わたしたちの日常が帰ってきた。
冬は獲物が取れなくなるし、お金もかかる。それを見越して、保存食を作ったり、獲物をお金に替えて蓄えることを始めた。教会の講堂の一部を保存食置き場にしたり、みんなの冬服の準備などやることは山ほどあった。
上掛けだって、元々冬用のものは人数の半分のものしかないので、問題だった。
野苺を摘みに行った。ジークとレイとユーリと一緒だった。
わたしとユーリの目手には野苺だったけど、ジークとレイはうる芽を探していた。
「メイ、野苺」
ユーリが指差した方には、緑のカーテンに赤いものが見え隠れしている。
ユーリがそちらに向かおうとした時、なんだか嫌な予感がして、わたしは手を伸ばした。
そのユーリがズザザーと落ちた。
ユーリに手が届いたのはよかったけど、わたしにはユーリを引き止める力がなかったのでわたしもその先にあった谷間に一緒に落ちた。もっと深い傾斜だったら転がっていただろうけれど、わたしたちは手をついただけで、その下に辿りついた。
「だ、大丈夫か?」
ジークがこちらに顔を突き出している。
「ユーリ、怪我してない?」
「だいじょうぶ。ごめんね、メイ」
ユーリは目をしょぼしょぼさせている。
「こっちは怪我はないけれど、登れそうにない。向こう側から上がれるところがないか見てみる」
「待て、動くな!」
レイが自分から降りてきた。
「ジーク、向こう側回れるか?」
「行ってみる」
「俺たちは上に上がれる道がないかこっち行くぞ」
わたしたちの前をレイが慎重に歩いていく。
少し歩いていくと、道がぬかるんできた。
「レイ、水っぽい」
「そうだな」
気をつけながら進むと、ぬかるむぐらいじゃなくて、沼地のようになっていた。
「これ以上は進めないね」
草や木の様子がいつの間にか違っていたことに気づく。岩のあたりから完全に澄んだ水になっている。
わたしは何気なくその水に触って驚いた。
「ねぇ、あったかい」
「あったかい?」
レイが不審そうな顔をして、手を水につけた。
「ほんとだ、なんだこれ?」
ユーリも掌を水につけた。
ひょっとして源泉でもあるの?
わたしはスカートをたくし上げて裾を結んだ。
靴下と靴を脱いで片手に持つ。
「おい!」
レイに止められたけど、わたしは惹きつけられるように奥へと進んだ。
冷たくない水がぬるま湯になり、あったかいお湯になり……
温泉だ。
膝下のところから急に深くなっていた。
ふたりを心配させてしまったけど、お風呂だ! 温泉だ。
服を着たままなのはナンセンスだけど、とても気持ちいい。
いいお湯だ。