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第28話 仕返しの相談

 昨日の食事のお礼と言って、伯爵様が朝食の手配してくれて、貴族にすれば簡素なものだろうけど、孤児院暮らしのわたしたちには夢のような時間となった。

 ベーコンとチーズを包んだオムレツにミルクと、パン。スープには野菜がたっぷり。果物のオレンジまでついていた!

 みんなばくばく食べて、ごくんと飲み干す。


 わたしたち小さい子やお嬢様もその雰囲気に飲まれて、すっごく一生懸命食べた。

 お嬢様はそんなに朝ごはんを食べたのは初めてだそうで、メイドさんや伯爵様が喜んでいる。昨日もいっぱい動いたからお腹が空いたのだと、お嬢様は嬉しそうに言った。

 お掃除やら何やらをして、罠を見に行くことになった。お嬢様も行くと言って聞かなくて、伯爵様も一緒に行くことになった。さすがに、森の中へは人任せにしていられないんだろう。



 川にまず行く。次の罠の仕掛けにできるような何かが流れついてないか、チェックだ。

 ここにポッサムの巣があったの?と目を覗き込まれた。

 巣があったところを教えると、中を覗き込もうとしていた。

 でも手を入れるのはやはり怖いみたいだ。


 罠になるようなものはなかったので、そのまま森に入った。

 仕掛けにはちゃんと獲物がかかっていて、伯爵様に感心され、みんな嬉しくなっている。

 さて、ここでしめるわけだが、お嬢様にそれを見せてもいいものか。チラチラとみんなが見ている。

 どうしたの?と聞かれて、皆がわたしを前に押し出すので、わたしが説明することになった。お嬢様の顔が青い。

 伯爵様と孤児院に先に帰ることを勧めたが、わたしはここにいるというと、自分もいると言って、わたしの手をギュッと握ってきた。

 大丈夫かと心配したけれど、倒れたりはしなかった。顔色は青かったけど。

 川に移って、捌くところでは、お嬢様の方がなんでもなかった。

 わたしは魚の仕掛けを作って、3匹ほど、追い込んだ。


「へー、うまいもんだな」


「ここに追い込むことはできるんですが、ここから捕まえられたことがないんです。すばしっこいから」


 どれどれと伯爵様が袖をまくって挑戦したけど、なかなか捕まえられなかった。

 お嬢様も声援を送ってなんとか1匹捕まえた。お嬢様も大興奮だ。その後、モクがなんでもないようにさらっと2匹を捕まえた。これも大喝采だった。


 お嬢様はほ孤児院の子と同じルーティーンをこなした。

 けれど、具合が悪くなることもなかった。

 それは伯爵様やお医者さんも驚いたことで、原作を知っているわたしも驚いた。




 院に帰ればお客さんが来ていた。

 執事さんが連れてきたようで、孤児院のなんやかんやの手続きをしてくれる人たちだった。

 最後に執事さんにより連れて来られたのは、弁護士さんだった。先生の持つ契約書に眉をよせ、弁護士をたてるべきだったと言った。

 金利が暴利すぎて、これを認めると判を押したあちらの弁護人もおかしいと憤っている。そして誰もおかしいと言わずに、先生が弁護人を立てるべきことも言わなかったことに悔しそうだった。見る人が見ればすぐわかることなので、気づいた人はいたはずだ。でも相手は領主の息子、そして片方は親を亡くしたばかりの下級貴族令嬢……。

 弁護士は最初の金貨7枚だって、本当に先生のご両親が借り入れたのか疑わしいと思っているような話ぶりだった。

 何それ、最初からでっち上げの可能性もあるわけ?




 手続きは受理されるまでにそれなりに時間がかかるようだ。


「メイ、何を考えているの?」


 裏の畑の前で座り込んでいると、お嬢様に話しかけられた。後ろにはレイやジーク、ナン、イックス、モク、トール、ユーリもいた。


「悪いことする奴って、しつこいんだよなって思ってました」


「しつこい?」


 わたしは頷く。


「領主の馬鹿息子は年末にはこの孤児院と先生が手に入ると思っていた。おそらくここを壊して、土地を売るとか。お金が入ってくるって思ってたわけです。それがなくなる……。悪い奴は自分が悪かったなんて認めない。怒りが先生とこの孤児院にむくんじゃないかって思えて……」


 わたしの横にレイが腰をおろすと、みんなも座り込んだ。


「それはありそうだね」


「領主様におこってもらうのは?」


 お嬢様が言った。


「子が子なら、親も親ってこともある」


「どういういみ?」


 お嬢様は首を傾げた。


「えっと、同じ考えだったり、そうやれって親が言ったかもしれないってこと」


 モクが解説する。


「そしたら、親子でなにかしてくるかもしれないってこと?」


 誰もお嬢様の問いかけに答えは持っていないけれど、十分あり得そうなことだった。


「領主が代わるか、孤児院と先生が領主よりも強い後ろ盾を持つしかないね」


「領主を変えるってどうやって?」


 わたしは足を投げ出した。


「悪いことして捕まるとか。自分からもっといいところに出ていくとか」


 どっちもただ待っているだけでは、絶対に起こらなさそうなことだった。


「恥をかかすぐらいならできそうだけどな」


 モクが腕を組んでいる。


「恥をかかす?」


 わたしたちは前のめりにモクにせがむ。

 モクの計画はなるほど!と思えた。

 追い出すことは不可能だけど、それくらいの恥はかいてほしいと切実に思った。


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