伯爵様が湖周りの土地を買ってくれたのでほっとした。
これでお嬢様が熱を出した時に、長いこと苦しまなくて済む。
罪滅ぼしにはならないけど、少しだけ、よかったと思う。
「これで金貨5枚だな。あと495枚はどうするんだ?」
ぐさっと胸に突き刺さる。
「……考えます」
「11年先までの未来がわかると言ったな?」
本当に信じたのかな?
「はい、わたしとあるひとの周りで起こったことだけとなりますが」
「その話をしてくれ。ひとつにつき情報量、金貨5枚だ」
毎度あり!
でもその前に。
「タタなんとか公爵は、これから伯爵様のギルドに対してちょっかいを出してきます。鉱石が見つかったあと……港町に監査が入ります。その事務所のトップのお姉さんは身近なところでお仕事してもらう方がよりいいと思います」
伯爵様は顎を触って考え込んでいる。
「その通りにしよう。事務所には人を入れ替えて、私の仕事とは全く関係ないものに変えておく。外にはわからないようにな。それでいて監査がやってきたら、金貨7枚だ」
「7枚?」
「ああ、あそこが押さえられたら、私までたどり着くことがなくても商売に支障をきたす」
おお、金貨12枚になった。
これはチリも積もれば……500枚にはならないわね。
「さて、口も滑りやすくなってきたところで、話して欲しい。
君とある人の11年先の未来、どちらが私と交差するんだい?」
「……ある人です」
わたしはわたしとある人の11年先の未来がわかると言った。そうしてこの屋敷に来たかったわけだから、その知っている未来に伯爵家のことは含まれる。でも少しだけ伯爵様の表情が硬くなったことに、わたしは嫌な予感がした。
「ある人は、私とどんな関係なのかな?」
一瞬迷う。養女ですと言ったとする。
娘がいるのに? そう言われたらどうしよう。
でも待てよ。彼女はいずれ聖女になる。聖女を養子にするのは、娘がいたとしても問題ないんじゃないかな?
貴族的な意味での社会貢献になるのだから。
「ある人はいずれ聖女になられます。伯爵様はその方を見てただならぬ才能に気づき、養子に迎えます」
「養子に?」
伯爵様の眉根が寄った。
「私が養子を迎えるのか? ソフィーという子がいるのに……」
それには答えない。だって、わからないし。でも養子に迎えるのは本当だ。
「君とその聖女はどういう関係なんだ?」
ごくんと喉がなる。
「……関係はありません」
「関係がないのに、聖女の未来を知るのはおかしなことではないか?」
「おかしくてもおかしくなくても、知ってるだけです」
わたしはそう訴えた。
「金貨488枚、私以外に金が取れそうな人はいるのかね?」
わたしは首を横に振った。
「特別報酬というものがある。聞いたことがあるか?」
伯爵様は長い足を組み替える。
ボーナスのことかな?
「特によくやったと労う意味で報酬を追加することだ」
なんだろう? 特別報酬をくれるとでもいうのかな?
「お前たちのおかげでソフィアが笑っている。楽しそうだ。
そこで、これからも定期的に我が屋敷に訪れ、ソフィアと遊んでやって欲しい」
なんと!
「その代わり、孤児院の借金を適正な金額に戻す方法を教えてやる」
「適正な金額?」
「そうだ。メイ、覚えておくといい。人がいいとは美徳であるが、若き孤児院の院長のように、摂取される側に回ることにもなりかねない」
「摂取って、あの馬鹿息子が借金を盛ったってことですか?」
「……落ち着いて座りなさい」
わたしは立ち上がっていた。ソファーに腰を下ろす。
「孤児院を助けたかったら、すぐに頭に血をのぼらせてはダメだ。しっかり考えて、検討して、着実にやることをやる。そうしなければ、ゼムリップ孤児院は年末で所有者が移ることになるだろう」
そうだ、落ち着け。やれることがあるなら、全部やる。
あの場所を手放さない。
「教えてください。どうすればいいですか?」
伯爵様は丁寧にやることを教えてくれた。そのうち難しい手続きは伯爵様の方でやってくれるという。それからそれらのことを院長先生に話すことと、孤児院統合の際に受け取れる補助金があり、その手続きを教えるためにわたしたちを送りながらゼムリップ孤児院に来るという。
元々わたしたちを送るつもりだったようだ。それについてはひと騒動あった。わたしたちが帰ると言ったらソフィアお嬢様が泣いてしまい大変なことになった。
馬車ならほぼ1日あれば着くだろうけど、伯爵様は体の弱いお嬢様をそんなに長く外に連れ出したことはなく心配している。無理をさせたくなかったみたいだけど、お嬢様〝慰問〟に一緒にいくと聞かなかった。
そして押し切られて、お嬢様も一緒に孤児院へと行くことになった。
初の教会より遠出にお嬢様は大喜び。
馬車は2台。
1台目には伯爵様、お嬢様、そこにわたしとレイ。
2台目には主に伯爵様の侍従のアルフレッドさん。医師。お嬢様の面倒をみるメイドさんや付き人がいる。
2つ目の領の宿で泊まり、お嬢様はそれが初外泊。見るものきくもの初めてなことばかりで、目を爛々と輝かせ楽しそうだ。
お嬢様は、わたしを妹分としているので、世話を焼きたがった。
わたしがひとりで服を着られるとあってから、自分もひとりで着替えると大奮闘。着替えられた暁にはみんなで拍手喝采だった。すごい世界をみた。
ゆるりとした馬車旅だったからか、お嬢様は体調を悪くされることもなく、孤児院についた。