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第22話 sideハッシュ領主①出会い

 ゼムリップ孤児院とメイと名乗る少女の調査報告書を読んでいると、執事長とメイドが部屋を訪れる。


「どうだった?」


「お嬢様には少々刺激が強いかもしれませんが、いい社会勉強になっていると思われます」


「怪しい動きはないか?」


「はい、ありません。賢く、お嬢様を大切にされているように見えます」


「細かく、報告しろ」


 メイドからの細かい報告で、私はふたりの子供に興味を持った。

 最初は娘に変な影響が出ないか確かめる意味で報告させていたのだが、いつの間にか私の方が興味を持ってしまった。

 ソフィアはうちには子供の侍従がいないから、子供が働くということの意味がわからなかったようだ。

 そこでさらにメイにどういうことか聞いていたのだが、メイはそれに正直に答えている。

 ソフィアがなぜ親が子供に食べ物を与えないんだと問えば、メイは自分が前妻の子だからだという。

 ソフィアは意味がわからず、失礼極まりないことをグイグイ尋ねているが、メイはそれを怒ったり悲観することもなく、淡々と事実を話していたようだ。

 常に大人の視線を気にしていたな。

 虐げられてきた子の特徴だ。


 寄付を教会を出ると、御者が子供にせっつかれているのが見えた。

 どうしたのか尋ねると、少年が顔を赤くした小さな女の子を抱きしめていた。急に口を聞かなくなり、倒れたようだ。

 子供が苦しそうにしているのは、胸にくる。


 一瞬、盗賊団に飼われている子供たちかもしれないという思いもよぎったが、少年の小さな女の子に対する心配している姿は本物で、熱を出しているのも本当のように見えた。

 ここからは薬師の場所まで遠いし、金を持っていなかったら見てもらえない。それは教会でも同じだ。私が預ければ手厚く見てくれるかもしれないが、私が屋敷に戻ったとたん、このこたちに何が起こるかわからない。

 そのことを後々まで思いに残るもの嫌だから連れ帰ることにした。


 連れ帰ると、娘のソフィアが一番に反応した。

 娘は体が弱い。だから病気の子に近づかせたくなかったが、初めて自分より小さな女の子を見て、思うところがあったようだ。

 部屋に戻るようにいうと、今度は自分の気に入っていた服を用意してきて、女の子に着せてあげてくれと言ってきた。

 その優しさを嬉しく思う。何かなければ、そういうことに気づけることは少ない。特に娘は体が弱いことから家にいがちなので、新しい面を見ることがない。


 医師に呼ばれた。重たい病気なのかと思ったが、疲れと風邪で一晩も眠れば治るとのことだった。医師が気にしたのは、身体にある古くから刻まれた傷のことだった。そして、子供なのに、骨が出ている体。体を拭いて着替えさせているメイドも顔をしかめている。


「少年に話を聞く」


 ドアの前では少年が落ち着かない顔で立っていた。


「疲れと風邪だそうだ。一晩眠れば治る」


 少年は深く頭を下げた。


「ありがとうございます。メイを助けてくださって、旦那様、感謝します」


「ちょっと話をしよう」


 私は執務室に彼を呼んだ。

 メイドにミルクを用意させた。

 少年は落ち着かないようにソファーに座っている。


「君の名前は?」


「レイ、です」


 少年は慣れてないながらも、丁寧に話そうとしているようだ。好感が持てる。


「あの子は妹ではないね?」


 髪の色が違いすぎる。


「はい、メイは妹ではないです」


「どこから来たんだね?」


「ゼムリップ孤児院です」


 孤児院、やはりそうか。

 さて、ここからは慎重に。孤児院で虐待が行われ、このふたりは逃げて来たのか? 


「レイもメイもゼムリップ孤児院の子なんだね?」


「はい。メイが来たのは最近ですけど」


 最近?


「最近、メイは何かあったのかね?」


「ええと、お母さんが亡くなって、お屋敷から追い出されたって言ってた。町に行こうとして盗賊にあって、崖から落ちて川に流されて。俺が見つけた、です。川原にメイが倒れてて」


 決まり悪げだなと思っていると、レイが顔をあげる。


「使用人の子供って言ってたけど、本当は違うと思う。メイはいろいろ知っているから」


 訳ありの子か。あれだけ身体に傷があるんだ。そうじゃなきゃおかしいが。


「ゼムリップの孤児院で何かあったのか? 領地を二つも超えてここに来たんだ」


「道を通るとそうだけど、谷を降りれば数時間だよ」


 レイの言葉に驚く。そんな近道があったのか。


「谷を降りて、ハッシュ領に? どうしてここに来たんだい?」


「それは……メイが来たがったから」


「メイが? この領に知り合いがいるのか?」


「……領主様に会いたいそうです」


「領主に、なぜ?」


「……伝えたいことがあると」


 顎を触る。


「私がハッシュ領主だが?」


「え? 旦那様は領主様なんですか? ってことはソフィアお嬢様もいらっしゃいますか?」


 このレイという少年は何も知らないようだが、メイという少女には話を聞く必要があるようだ。ハッシュ領に用があるまではわかるが、ソフィアの名前を知っていることに違和感がある。


「ああ、娘の名前はソフィアだよ」


 盗賊の呼び込みなどなら、うかつに娘の名前など出さないだろう。

 レイという少年もおかしな動きをしないか見張らせるか。

 メイの看病をするというレイに食事を与え、そして部屋を用意した。

 普通の客間だ。メイドや執事が隅々まで把握しているから物を取るようなことがあればすぐにわかる。

 明日になれば全てわかるだろう。

 私とメイはこんなふうに出会った。



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