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第20話 ソフィアお嬢様(中)

わたしたちはソフィアお嬢様に連れ出された。

 わたしたちだけにしていいのかしら?

 でも、後ろにはメイドさんや侍従がこれでもかってほどついているから、そこから報告が行くんだろう。

 わたしたちは庭に連れて行かれて、そこに広げられた布の上に座った。


 お茶とお菓子が用意されていた。

 焼き菓子の上に真っ白のお砂糖がかかっている。

 あれ、絶対おいしいやつ。

 はしたないと思いながらも、お菓子から目が離せないでいた。


「私はソフィア、7歳よ。まずは名前と年を教えて」


「レイ、8歳です」


 レイはちゃんと話すこともできるんだね。ちゃんとした格好をしていると、いいところの子供に見える。


「メイ、6歳です。素敵な夜着や、この服も貸していただいてありがとうございます」


 ソフィアお嬢様は満面の笑みになった。


「メイちゃんは、きちんとお礼が言えてえらいのね」


「メイとお呼びください」


 ソフィアお嬢さまは嬉しそうにした。

 自分のことはソフィアと呼んでというから、いやお嬢さまはつけるよと押し問答になり、ソフィアお嬢様と呼ぶことで納得してもらえた。

 お茶とお菓子をお取り分けてくれて、召し上がれと言われたので、わたしは早速かぶりつく。

 あっまーい。アイシングってやつだ。砂糖をこんなふんだんに使えるなんて、さすがお金持ちだ。


「花壇を作っていたの?」


「はい、手伝いですが」


「私にもできる?」


「お嬢さまは何がお好きなのですか? 好きなお花はありますか?」


「メイは何を育てていたの?」


「わたしは食べられる草を育てました」


「食べられる草?」


「はい、お腹の足しになるので」


「それを育ててみたいわ」


「承知しました。こちらのお屋敷は手入れが行き届いているので、野草はありません。炊事場に行って野菜の捨てるところをもらいましょう」


「野菜の捨てるところ?」


 わたしは頷く。


「根や芽は食べませんから、捨てます。でも、それを撒けばまた芽吹きます」


「メイは私よりひとつ下なのに、いろいろ知っているのね」


「いいえ、知っているのはやってきたことだけで、知識は全然ないんです」


 お菓子を食べ終えると土いじりをすることになった。

 お嬢様の願いは最速で叶うみたいだ。


 一緒に炊飯場に行き、生ゴミを漁らせてもらう。

 丸ネギ(玉ねぎ)の根と、ジャガモ(じゃがいも)は種芋として丸ごともらった。ニンジ(にんじん)のヘタの部分をもらう。

 庭のどこでも使っていいということなので、日当たりがいいところを選んだ。

 シャベルが用意されたけど、レイが土魔法が使えると言った。


「ええっ。レイは土魔法が使えるの?」


 驚いた! するとお嬢様も魔法はあんまり使わないが、土属性があるという。


「じゃあ、耕してよ」


 とレイに言うと、しぶしぶ頷いた。

 ここを畑にしようと引いた線の中の土がもこもこした。

 それをみたお嬢様も自分もやってみたいといって、どうやったのかとレイに尋ねている。

 ふたりで試行錯誤しながらふかふかの土にしてくれた。

 畝を作って、丸ネギ、ジャガモは窪んでいるところを中心に切り分けたもの、そしてニンジのヘタを埋める。あとハーブたちの切れ端も埋めてみた。

 ふたりが土魔法で耕してくれたので、わたしは水を撒くことにした。

 桶でもらった水を魔力を使いシャワーにして撒く。

 虹ができた。

 お嬢様もメイドさんたちも喜んでくれた。



 お昼になった。お嬢様もわたしたちもお菓子でお腹がいっぱいだったので、お昼ご飯は抜かして、お昼寝をすることになった。わたしとレイは同じ部屋でいいと言ったんだけど、部屋を別に用意してくれていた。

 でも眠くないというと子供部屋、お嬢様がおもちゃで遊ぶ部屋にいていいと言われたので、そこにいることにした。

 レイと話をしようと思ったんだけど、メイドさんがずっといるので、報告されるなと思って、絵本を読む。

 レイも文字を読めるみたいだ。

 ふたりしてみているうちに、気がついたら眠っていたようだ。



 お嬢様がお昼寝から起きて、子供部屋にやってきたのだった。

 お嬢様はとても調子がいいらしかった。確かに変な話、最初に会った時より、顔色がよく見える。

 わたしたちが絵本を持っていたからか、本が好きなの?と聞かれた。

 知らないことばかりだから、本で知識を得たいのだというと、なんとお屋敷には図書室なるものがあるという。

 それは素晴らしい!


 わたしはメロネーゼ家の屋敷内のこと、前世での知識と、物語がゲームで見たこの世界のことしか知らない。

 だからわかっているようでわからないことも多い。そのすり合わせをしたかった。

 でもわたしは伯爵様に何かを願える立場ではない。


 調べ物があるとは、わたしとレイのことを調査させているはずだ。

 家のこと、孤児院のことは本当のことなので、調べれば事実とすぐにわかるだろう。

 問題はわたしの能力と、そしてこの屋敷にきた目的。受け入れてもらえないぐらいで済めばいいけれど、レイや孤児院に罰がいったらどうしよう。


「メイ、どうかしたの? おなかが痛いの?」


「いえ、なんでもありません」


 お嬢様が立ち上がった時にティーカップが倒れた。


「あっ」


 袖口にかかったお茶が熱かったので、思わず声が出た。

 お嬢様の顔がさーっと青くなる。


「ご、ごめんなさい。ペティー、バロンさまを呼んできて」


 手にちょっとかかったくらいだ。


「お嬢様、大丈夫です」


 お嬢様はわたしの手首のところのボタンを外して、お湯のかかったところをまくりあげる。その手が止まる。

 ん?

 あ。わたしは慌てて袖を下ろす。


「メイ、けがをしていたの? 痛い?」


 お嬢様は涙目だ。


「いえ、古いものなので、今は痛くありません」


 レイにも見えてしまったみたいで、眉根が寄っていた。


「すみません、見苦しいものを見せてしまって」


 シーンとしたとことに、年若いメイドのペティーに連れられた白衣の人がやってきた。バロン様とはお医者様のようだ。

 ソフィア様の専属医師だろう。


「お嬢ちゃん、どうした?」


「あ、お茶がちょっと跳ねただけです。お嬢様がそれを心配してくださって」


 わたしが濡れた袖口を持ち、ふたりの表情が暗いことで何かを察したみたいだ。

 少しだけ赤くなったところを、チョンチョンと薬を塗ってくれた。

 そしてペティーに連れられて部屋を移って着替えた。

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