わたしたちはソフィアお嬢様に連れ出された。
わたしたちだけにしていいのかしら?
でも、後ろにはメイドさんや侍従がこれでもかってほどついているから、そこから報告が行くんだろう。
わたしたちは庭に連れて行かれて、そこに広げられた布の上に座った。
お茶とお菓子が用意されていた。
焼き菓子の上に真っ白のお砂糖がかかっている。
あれ、絶対おいしいやつ。
はしたないと思いながらも、お菓子から目が離せないでいた。
「私はソフィア、7歳よ。まずは名前と年を教えて」
「レイ、8歳です」
レイはちゃんと話すこともできるんだね。ちゃんとした格好をしていると、いいところの子供に見える。
「メイ、6歳です。素敵な夜着や、この服も貸していただいてありがとうございます」
ソフィアお嬢様は満面の笑みになった。
「メイちゃんは、きちんとお礼が言えてえらいのね」
「メイとお呼びください」
ソフィアお嬢さまは嬉しそうにした。
自分のことはソフィアと呼んでというから、いやお嬢さまはつけるよと押し問答になり、ソフィアお嬢様と呼ぶことで納得してもらえた。
お茶とお菓子をお取り分けてくれて、召し上がれと言われたので、わたしは早速かぶりつく。
あっまーい。アイシングってやつだ。砂糖をこんなふんだんに使えるなんて、さすがお金持ちだ。
「花壇を作っていたの?」
「はい、手伝いですが」
「私にもできる?」
「お嬢さまは何がお好きなのですか? 好きなお花はありますか?」
「メイは何を育てていたの?」
「わたしは食べられる草を育てました」
「食べられる草?」
「はい、お腹の足しになるので」
「それを育ててみたいわ」
「承知しました。こちらのお屋敷は手入れが行き届いているので、野草はありません。炊事場に行って野菜の捨てるところをもらいましょう」
「野菜の捨てるところ?」
わたしは頷く。
「根や芽は食べませんから、捨てます。でも、それを撒けばまた芽吹きます」
「メイは私よりひとつ下なのに、いろいろ知っているのね」
「いいえ、知っているのはやってきたことだけで、知識は全然ないんです」
お菓子を食べ終えると土いじりをすることになった。
お嬢様の願いは最速で叶うみたいだ。
一緒に炊飯場に行き、生ゴミを漁らせてもらう。
丸ネギ(玉ねぎ)の根と、ジャガモ(じゃがいも)は種芋として丸ごともらった。ニンジ(にんじん)のヘタの部分をもらう。
庭のどこでも使っていいということなので、日当たりがいいところを選んだ。
シャベルが用意されたけど、レイが土魔法が使えると言った。
「ええっ。レイは土魔法が使えるの?」
驚いた! するとお嬢様も魔法はあんまり使わないが、土属性があるという。
「じゃあ、耕してよ」
とレイに言うと、しぶしぶ頷いた。
ここを畑にしようと引いた線の中の土がもこもこした。
それをみたお嬢様も自分もやってみたいといって、どうやったのかとレイに尋ねている。
ふたりで試行錯誤しながらふかふかの土にしてくれた。
畝を作って、丸ネギ、ジャガモは窪んでいるところを中心に切り分けたもの、そしてニンジのヘタを埋める。あとハーブたちの切れ端も埋めてみた。
ふたりが土魔法で耕してくれたので、わたしは水を撒くことにした。
桶でもらった水を魔力を使いシャワーにして撒く。
虹ができた。
お嬢様もメイドさんたちも喜んでくれた。
お昼になった。お嬢様もわたしたちもお菓子でお腹がいっぱいだったので、お昼ご飯は抜かして、お昼寝をすることになった。わたしとレイは同じ部屋でいいと言ったんだけど、部屋を別に用意してくれていた。
でも眠くないというと子供部屋、お嬢様がおもちゃで遊ぶ部屋にいていいと言われたので、そこにいることにした。
レイと話をしようと思ったんだけど、メイドさんがずっといるので、報告されるなと思って、絵本を読む。
レイも文字を読めるみたいだ。
ふたりしてみているうちに、気がついたら眠っていたようだ。
お嬢様がお昼寝から起きて、子供部屋にやってきたのだった。
お嬢様はとても調子がいいらしかった。確かに変な話、最初に会った時より、顔色がよく見える。
わたしたちが絵本を持っていたからか、本が好きなの?と聞かれた。
知らないことばかりだから、本で知識を得たいのだというと、なんとお屋敷には図書室なるものがあるという。
それは素晴らしい!
わたしはメロネーゼ家の屋敷内のこと、前世での知識と、物語がゲームで見たこの世界のことしか知らない。
だからわかっているようでわからないことも多い。そのすり合わせをしたかった。
でもわたしは伯爵様に何かを願える立場ではない。
調べ物があるとは、わたしとレイのことを調査させているはずだ。
家のこと、孤児院のことは本当のことなので、調べれば事実とすぐにわかるだろう。
問題はわたしの能力と、そしてこの屋敷にきた目的。受け入れてもらえないぐらいで済めばいいけれど、レイや孤児院に罰がいったらどうしよう。
「メイ、どうかしたの? おなかが痛いの?」
「いえ、なんでもありません」
お嬢様が立ち上がった時にティーカップが倒れた。
「あっ」
袖口にかかったお茶が熱かったので、思わず声が出た。
お嬢様の顔がさーっと青くなる。
「ご、ごめんなさい。ペティー、バロンさまを呼んできて」
手にちょっとかかったくらいだ。
「お嬢様、大丈夫です」
お嬢様はわたしの手首のところのボタンを外して、お湯のかかったところをまくりあげる。その手が止まる。
ん?
あ。わたしは慌てて袖を下ろす。
「メイ、けがをしていたの? 痛い?」
お嬢様は涙目だ。
「いえ、古いものなので、今は痛くありません」
レイにも見えてしまったみたいで、眉根が寄っていた。
「すみません、見苦しいものを見せてしまって」
シーンとしたとことに、年若いメイドのペティーに連れられた白衣の人がやってきた。バロン様とはお医者様のようだ。
ソフィア様の専属医師だろう。
「お嬢ちゃん、どうした?」
「あ、お茶がちょっと跳ねただけです。お嬢様がそれを心配してくださって」
わたしが濡れた袖口を持ち、ふたりの表情が暗いことで何かを察したみたいだ。
少しだけ赤くなったところを、チョンチョンと薬を塗ってくれた。
そしてペティーに連れられて部屋を移って着替えた。