「知り合いでもいるのか?」
あてがあると言ったから、そう思ったようだ。
「いいえ、知り合いはおりません。わたしは変わったスキルがあります。それで未来を切り開くつもりです」
「私には君よりひとつ上の娘がいる。病弱だから少々甘やかしてはいるが、マナーも身についていると思うし、勉強も頑張っている。家庭教師にも十分だと言われているが、君のほうがずいぶん年上のように思えるよ。それはそのスキルとやらが関係しているのか?」
しまった、6歳だった。
「はい、そうだと思います」
無難に答えておく。
「孤児院はいいところです。先生は悪くありません」
旦那様は立ち上がって、こちらに歩いてきた。
そうしてわたしを抱き上げる。
え?
「君を運んだ時も思ったが、大人びているけれど、娘よりだいぶ小さいし、軽いな」
そういってソファーにわたしを置いた。自分は向いのソファーに腰掛ける。
そして長い足を組んだ。
「そこまではわかった」
ふうと息をついた表情にゾクッとくる。
この人、怖いかも。
「レイは捕らえている」
捕らえて?
わたしの眉根は寄っただろう。
「ど、どうしてですか?」
「君のその計画に、私の娘の名前が入っていたからだよ」
え?
「ここはどちらのお屋敷ですか?」
旦那様は薄く笑った。
「ハッシュ伯爵様ですか?」
「いかにも」
「こちらの服はソフィアお嬢様のものですか?」
「……いかにも」
目の前が真っ暗になる思いだった。
「彼は君の補助をしているだけで、あまり知らないようだから、君に話してもらおうと思ってね。話さなかったり、嘘をつくようなら、聡明な君だからわかるよね? レイに罰をうけてもらう」
わたしが嘘をついたとして、なぜレイに罰を?
わけがわからなくて、わたしは慌てた。
「レイは悪くないです。わたしひとりでは心配だからとついてきてくれただけ。
それに、わたしは悪いことをするつもりはありません。
伯爵様の役に立って、報酬をもらおうと思っていたんです」
孤児の少女と伯爵様が出会う確率は奇跡的な数値のはず。それをクリアしたのはすごいことなのに、始めるまえからターゲットにしていたのがバレるなんて。なんなのその奇跡のてんこ盛りすぎる!
もっと他のところで奇跡を使って欲しい!
「普通なら、スキルを尋ねるなんてそんな不躾なことはしないが、私の大切な娘にかかわってくることだとそうも言ってられない。私は娘のためならどんな非情にもなれる」
それは知ってる。
「君のスキルはなんだい?」
覚悟を決める。膝の上に揃えた手をぎゅっと握っていた。
「わたしは、わたしとある方の17歳になるまでの未来を知っています」
「君の未来?」
「はい。そう言っても信じられないと思います。だから、すぐに起こる未来や伯爵様について知っていることを話します。そうしたら、ひとまずわたしが嘘を言っていないとわかると思います。そうしたら、レイは解放してくれませんか? わたしは伯爵様の知りたいことをお教えします。だからレイのことは解放してください」
「そんな取引に乗ると思うか? 取引というのは立場が対等なときにできるものだ」
考えろ。どうしたらレイを助けられる?
確かにわたしと伯爵様では立場が違う。対等にはなり得ない。
「絶対に伯爵様の役にたちます。レイと孤児院は関係ないです。だからお願いします。レイは解放してください」
「……私の役に立つとは、私のことで知っているとはなんだ?」
何が一番わかりやすくて、すぐに証明できるだろう?
何はともあれ、一番は伯爵の裏の顔を知っていることを伝えないと話は始まらない。
「伯爵様は、情報ギルドをお持ちですよね?」
ポーカーフェイスだが、冷たい目になった。
こ、怖い。ものすごく、怖い。
情報は小出しにしていくつもりだった。報酬を交渉してとも。
でも段取りも順序もなく、わたしはベラベラ喋っていた。
あまりに怖くて。
「わたしにはわたしとある方が17歳になるまで起こることがわかっています。
その記憶で伯爵様が情報ギルドをお持ちなことを知っています。
11年後、伯爵様のギルドは裏で国を動かしているとさえ言われるほどの力を持ちます。
ええと、今だと……伯爵様はタタタ……タタ? タタラ? ……すみません思い出します」
ヤバイ、覚えにくいのは適当にしかいつも覚えていない。
「ええと、鉱石を当てたとかいう公爵家を探っていると思いますが、その証拠は」
そこまで言った時にドアがノックされた。
「旦那様、ただいま戻りました」
レイの声?
「入れ」
入ってきたのはレイだった。いいところの貴族の侍従みたいな格好をしている。
「レイ!」
「メイ、起きたのか? よかった。体は大丈夫か?」
思わず抱きつく。
「無事でよかった」
「無事って……倒れたのはお前だろ? 具合悪いならちゃんと言えよ。驚いたんだからな?」
優しい目で怒られる。
涙がブワッと溢れる。
「なっ。怒ったわけじゃない。助けてもらった旦那様の前だぞ、泣き止め」
また大事な人を失うのではないかと思ってから安堵した涙はなかなか止まらなかった。