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第16話 即行動

「どうしたの?」


「どうしたのってお前、水を操って」


 え?

 まだ一列しか水をやっていないのに、土が湿って見える。

 え? あれ?


「水がメイの動きに合わせて、畑に撒かれてた」


「本当?」


 桶を見てみれば、桶の水はなくなっていた。


「すごいよ、メイ。昨日初めて魔法を使ったのに、もう水を操れるなんて!」


 おお、すごい、わたし!

 水を生み出すのは難しいけれど、元々ある水を動かすのなら得意なようだ。

 これはいい!



 仕事を終えて部屋に戻った。

 元々着てきた服を鞄の中に入れる。

 院長先生にあてた手紙を書いた。

 どうしても字が大きくなってしまう。はっきりいってド下手だ。


 思い出したことがあり、孤児院から離れること。

 帰ってくること。心配しないで欲しいこと。そして署名だ。

 これをベッドの上に置いて。

 こそっと部屋を出る。


 炊飯場にお邪魔して、少しだけパンをもらう。

 ポッサムをの宝を見つけたのだからと発見者であるわたしたちに小銭をくれたので、それを半分こにしたものも鞄に入っている。それからわたしが買った布も。


 谷を降りる、か。険しくないといいのだけど。

 みんな適応能力が素晴らしいので、借金のことさえなければ、今までよりちゃんと食べられるはず。生活していけるはずだ。

 わたしは借金をなんとかする!

 レイとジークには反対されそうなので、言われる前に出ることにした。





 テクテクと歩くこと30分。

 ここが谷、よね。

 嘘でしょ。こんなとこおりるの? おりれるものなの?

 最初はゆるい坂道だけど、途中どう見ても絶壁に見えるんですけど。


「おい!」


 振り返ると、レイとジークが肩で息をしていた。


「レイ、ジーク!」


「お前、無駄に行動力ありすぎ」


「まさか、こんなすぐに動くとは」


 ジークがクスッと笑う。


「な、なんでここに?」


「なんでって当たり前だろ。お前の計画じゃうまくいきっこない!」


「そ、そんなことないよ。これからちゃんと考えるから」


「俺も行く」


「「レイ」」


 わたしとジークの声が合わさる。


「ダメだよ。レイまでそんな」


「お前、この谷おりられるのかよ?」


 うっ。


「そ、それは……」


「だろうと思った」


「無謀っていっても、目が全然あきらめてないから、行くと思ったけど、こんなすぐとは思わなかったよ」


 ジークに言われる。


「無謀だけど、勝算はあるの」


 心配をかけたくなくて、わたしは力強く言った。

 レイとジークは顔を見合わせる。


「僕も行きたいところだけど、孤児院を空けるのは心配だから、僕は残る。それでふたりの帰りを待つ」


「俺はこいつのやりたいことを助ける。無謀だったら連れ帰る」


 ジークとレイが拳の背を合わせた。

 二人とも……。

 二人とも新顔のわたしを孤児院の仲間と認めてくれているんだ。そして心配してくれてる。


「わたし絶対、孤児院を無くさないようにするから!」


 これは誓いだ。

 自分の人生と財産を投げ打って孤児院を守ってくれた先生。

 孤児院のみんなで暮らしていくのに、頑張る仲間たち。

 わたしのことも心配してくれてる、レイにジーク。

 みんなと一緒にわたしも孤児院を守りたいから、わたしはわたしにできることをする。

 この記憶でできることを!




「ここに足を置け。ゆっくりでいい。右のこぶ掴め。そうだ。左足離して、下にずらせ。そう、手を下に」


 ひと動作ごとにレイから指示してもらって、崖のようなところを降りることができた。

 足がガクガクしてる。


「レイ、ありがとう。レイがいなかったら、わたし絶対に降りれなかった」


 っていうか転げ落ちただろう。


「よく、頑張った。怖かったろう?」


 下唇が震えてくる。今、優しくされるとダメだ。

 激しい崖は終わったけど、ここからも道は続く。

 緩やかな道はありがたいけれど、汗が風にさらされて、体が冷える。


「どうやって伯爵に会うつもりなんだ?」


 レイはサポートしてくれるとは言ったけど、本当は諦めるのを待ってるのかもしれないなと思った。


「お嬢さまは教会で祝福してもらうと気分がよくなるから、毎月教会を訪れるの」


「いつだよ?」


「わからない」


「何日とか決まった日じゃないのか?」


「月末の体調がいい日だから、決まってないの」


 月末という点では合うと思うんだけど。


「どの教会かはわかってるのか?」


「え、教会っていっぱいあるの?」


 レイはため息をついた。


「ハッシュ領はでかいから3つある」


 わたしは記憶を探る。


「領主邸から近くて、時計台が見えるところ」


 スッと目を細めるレイ。


「東か南のどっちかだな」


 両方から時計台は見えるようだ。

 何かあと情報、思い出せ!


「あ、近くにおもちゃ屋さんがある。ぬいぐるみを買ってもらうことがある」


「おもちゃ屋か……」


 それなら調べられるかもと、レイは呟いた。

 そんな話をしていたからか、その後は短かったように感じる。

 道の先に石造りのアーチがあって、そこに人が立っていた。


「あれ、なあに?」


「あそこがハッシュ領の街だ。俺が話すからお前はしゃべるなよ」


 わたしはうんと頷く。


「こんにちは」


 門ではないけど門番さんみたいな人にレイは挨拶した。

 わたしも隣で頭を下げる。


「見ない顔だな。ハッシュ領になんの用だ?」


「お使いできました」


「使い? 誰のだ?」


「サウテージのお嬢様のです」


 レイは院長先生の姓をあげた。


「サウテージ? 聞いたことはないが、貴族か。ちっちゃいの連れてるから悪さもできねーか。悪い大人もいるから、知らない人にはついて行くなよ」


 あら、なかなか良心的だ。

 わたしたちはお礼を言ってアーチをくぐった。

 ここがハッシュ領か。いずれヒロインがやってくる地。

 広いしきれいな街並みなのに、どこか暗い影がある気がする。


「あの、すみません」


 レイはどこかのメイド風の女性に声をかけた。


「近くにあるおもちゃ屋がある教会をご存じありませんか?」


「おもちゃ屋?」


 女性は不躾にジロジロとわたしたちを見た。


「お嬢様が帰りにおもちゃを買ってほしいから、おもちゃ屋が近くにある教会に行くって」


「ああ、それなら東の教会ね。この道をまっすぐ行って、大きな通りに当たったら右に行きなさい。時計台のそばに教会はあるわ。その少し先におもちゃ屋があります」


「ありがとうございます」


 レイは愛想よくお礼を言った。わたしもあわてて頭をさげた。


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